33話「急がば回れは鉄則だが、急がば待てってのもいるよね!」
「すすすす・・・・・素晴らしいです!エリオット様!!!こ、これは手放せなくなってしまいます!!!」
俺とアリアスはエリオットと謁見の為に城に来ていた。
カルマンさんに商売の話だと伝えると他の用事を断って俺に時間を割いてくれたらしい。
やはりこういったところは商売の街だけあるな。
俺が概要と例の物をエリオットに提示すると早速、年配のメイドを呼びつけて試してくれた。
若くないとメイド服はそそらないな・・・・・
いや、決してそういった趣味ではないのだが・・・・
エリオットも試してはくれたものの男女の油分の差も相まってだが、まだ若い肌には潤いの実感は出来なかったようだ。
だがメイドのリアクションに驚いたエリオットはすぐにメイドに耳打ちすると瓶を持って出ていってしまった。
「アキラさん、大丈夫なのですか?」
「なんのことだ?メイドの反応か?」
「持って行かれましたけど製造方法とか盗まれたりしないのですか?」
アリアスが不安そうに訪ねてくるので冗談を交えたつもりだったが伝わっていないようだ・・・・
実につまらない男だな俺は・・・・
「ああ、大丈夫だ。何せ成分を聞いたら悪魔の所業と疑う物だからな。」
「え!?聞いちゃダメですか?」
まぁ聞いても作れんだろうからいいか。
俺は耳打ちするとアリアスは赤面した後に青褪めた。
「そ、それは・・・・・」
「魔学師様ぁぁ!!!!!はぁ・・・はぁ・・・・売り・・・売りま・・・・」
バタン!
落ち着いた雰囲気のここでは聞かないと思っていた大きな音を立てて扉が勢いよく開くと、高級そうなドレスを着た30代後半くらいの金髪の女性が息を切らして立っていた。
扉の開いた勢いが強すぎたのか、跳ね返って扉が閉じてしまい姿は一瞬しか見えなかったが・・・・
「母上!!落ち着いてください!!」
扉の向こうからエリオットの叫び声が聞こえてきた。
「あれは・・・・・」
「エリオットの母親か・・・・」
再び扉が開くと、息を整えたのか澄ました顔でエリオットと共に入ってくると俺達の前に並んで座った。
「お見苦しい所をお見せしました。こちらは・・・・」
「エリーゼです。売りましょう!魔学師様!私が責任を持って売りましょう!」
「は、母上!話が早すぎます!こう言う話はまず単価とですね・・・・」
「だまりなさい!売るのです!そして卸値で私が使うのです!」
エリオットが慌ててエリーゼをなだめようとするが、聞く耳がないようだ・・・・・
本音が溢れています。エリーゼさん・・・・
目線をエリオットに向けるとお手上げのポーズだ。
なら上手く行ったという事だな。
「では、単価なのですが・・・・」
そこからアリアスとエリオットを交えて商談が始まった。
製造方法を聞かれそうになったが、そこは何とか流した。プラセンタ《胎盤》なんて、此処では悪魔の所業であろう・・・・まぁプラセンタと言っても馬の胎盤なので気にしなければいいのだが・・・・
美と長寿に関しては元の世界でも狂気に満ちていた。このビジネスだけは人類が進化でもしない限り無くなることはないだろう。
生産は俺が行うことにした。まぁその分生産量は少ないが、その分希少価値も上がり、時期が来れば価格も跳ね上げる事が出来るだろう。
商談が一段落ついて俺達が城から帰り支度をしていると扉が叩かれてメイドが入ってきた。
メイドはエリオットのに紙を渡すと直ぐに部屋から出ていった。
なんだ?
エリオットは紙を開くと「失礼」と読み始めた。
何か顔色が芳しくない・・・・
「アリアス様、本国の《時の魔女》からアリアス様に伝言を伝えるための通達です。私宛ですがお読みください。」
エリオットは手紙を折り直してアリアスに渡すとソファに座り直して沈黙してしまった。
手紙を読み終えたのか、アリアスは手紙を折り直してエリオットに渡すと俺に頭を下げた。
いつになく表情が緊迫している・・・・
「アキラさん私とナタリーは、これから早馬で戻ろうと思います。剣やルーイちゃんの魔道具の事もありますし、暫くの間ベラデイルで待っていていただけないでしょうか・・・・」
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「ま、待ってください!アキラさん!!」
俺はアリアスから内容を聞くとエリオットの城から急いで兵舎に戻ることにした。アリアスの静止を無視して兵舎に辿り着くと、直ぐ様ルーイの作業場に向かった。
「旦那!丁度よかった!今しがた一通り終わったとこだぜー!これから始動を始めるところだ!見てくれよココ!パワーが出なかったんでここの所を・・・・」
「良くやってくれた。調整は今日中に終わらせるぞ。すぐ使うことになるからな。」
「な、何かあったのか!?」
ルーイの頭を通りすがりに撫でると、俺は直ぐに魔道具の元へ向かった。
急がなければ・・・・・
「ルーイ、コウとナタリーを呼んで来てくれ!あとカルマンさんも見かけたら声をかけてきてくれないか?」
「お、おう!」
ルーイが出ていくのを横目で確認しながら俺は魔道具に魔力を流しシステムをチェックしていた。
うん、動きは問題ない・・・・後は保ってくれるかどうかだな・・・・
「アキラさん!どうするつもりなのですか?!」
「一緒にいく。出るのは剣が研ぎ終わる明日にするんだ。」
「それでは間に合わないかもしれません!!もし、ついて来られるにせよ、馬に慣れている私達が先に出て、後から馬車の定期便で向かっていただくのが得策だと思います・・・・」
「それでも遅い。馬でも2、3日はかかるのだろ?この魔道具なら明日の朝に出て夜には到着する。」
「ぅええええ!!!!??そんな!!空でも飛ばない限り不可能です!!」
アリアスが驚きと否定で混乱しているとルーイが戻ってきた。
カルマンさんも一緒だ。
「旦那!戻りましたぜ!」
「兄ちゃん!何かあったの?・・・・って、まさかこれ・・・・」
コウとナタリーが何故か泥だらけだ。
また訓練だろうか。
「そのまさかだ。剣の納期は明日だよな?受け取ったら直ぐにベラデイルを出るぞ。カルマンさん、研ぎ師の方に急ぐように伝えてください。」
「急用か。わかった、すぐ向かおう!」
「すげー!流石ルーイちゃん!!まぁ、それはいいけどさ兄ちゃん、理由よ理由ー!なんで急ぐのよ?」
カルマンさんが出ていくのを確認してから俺はアリアスに視線を向けた。
アリアスはナタリーを一瞥すると目線を落として話し始めた。
「エリオットさんの所にエスティナ様からの伝言が届きました。」
「本当か!内容はなんだったのだ?!」
ナタリーがアリアスの肩に手を当てて顔を覗き込んだ。
「・・・・・『ミストラル近郊にてオークパーティー約50体を確認。戦闘の恐れが濃厚。人為的要素の懸念もある。次回伝言まで留まれ』とのことです・・・・」
「まずいな・・・・・」
ナタリーが額に手を当てて俯いてしまった。
「何がマズイの?オークって強いのか?留まればいんじゃねーの?」
コウはサッパリといった具合に手を上げた。
コウの反応は正しい。俺も同じように考えた。
だが大切なのはバックボーンだった。
アリアスが黙っているので俺が説明することにした。
「オークは然程強くはないらしい。腕の立つ狩人なら狩れるレベルだそうだ。だが現在、ミストラル軍は東にある《ベイアル帝国》の不穏な動きにより兵が出せなくなっているらしい。俺も聞いて驚いたんだが、《ワンド》のミストラル駐留部隊である三番隊は10人しかいないらしいんだ。」
「少なっ!!」
「ああ、俺も少ないと感じたよ。1体づつならまだしも、多少の知恵を持つオークが2匹以上のゴブリンを従えているオークパーティーは一般兵でも4人以上で当たるのが普通らしい。いくら《ワンド》の精鋭だとしても下手をすれば、全滅とまではいかなくとも痛手は負うことになるだろう。そうなればミストラルでの勇者側の動きに対して手が打てなくなってしまう。それに加えて現在、アリアスの上司の隊長が戦えないらしい。」
「ダメじゃん!数の力ってやつか〜」
「だからこのまま進んで俺たちで挟み撃ちにするぞ。」
「なんだー!そう言うことかー!よし!行こう!」
アリアスとナタリーが驚いた顔を俺達に向けていた。
「いいのですか・・・・・?」
「今更!!」
「その通りだ。今更だな!それに魔女に恩を売っておくのは悪くない。」
俺とコウが向き合って笑うと、アリアスもナタリーも釣られて笑っていた。
「いや、オークパーティー50体とかヤベーから、小さな街が消えるレベルだから、マジで・・・・」
1人(1匹)を除いて。
12月28日




