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32話「煩悩が無くなった時が経済が破綻する時だ。多分。」

「悪い、遅くなった。」


「兄ちゃん遅いぞー!」


「すまん、すまん。」


「みんな、食おうぜー!」


俺は片手でゴメンのポーズを取りながら席に落ち着いた。

目の前には既に料理が並んでいる。

パンにサラダ、後はシチューか。

まだ手は付けてないようだ・・・・待っててくれたのか。


「いだきまーす!」


コウの声に合わせて皆がカチャカチャと音を立てながら料理に手を付け始めると、俺も合わせて目玉焼きを乗せたパンを頬張った。


「アキラさん、カルマンさんと何の話だったのですか?」


アリアス、口にソースが付いてるぞ!

ジェスチャーで教えるとアリアスは顔を赤く染めた。恥ずかしさを飲み込むようにパンを口いっぱいに頬張っていた。


「昨日の薬の話だよ。カルマンさんを通してエリオットに商人ギルド《商業取引組合》との仲介をお願いしたんだ。」


「旦那が商売始めるのか?魔道具じゃないんだなー」


ルーイが切られてない生の魚の挟まったパンを両手に握ったまま首を傾げてきた。

パンから頭と尻尾が飛び出ている・・・・

そのパンは美味いのか?!骨はどうすんだ!?


いや、それはまぁいいか・・・・それより協力を仰がないと!


アリアスが少し悲しげだった。恐らく俺が人助けと言う名の金儲けをしようと思っているのだろう。

まぁ半分正解だ。資金繰りはこれからの事も含めて大問題だ。

ただ、それだけではない。ちゃんと薬の事も考えているよ。誤解を解かなければならないな。


「ああ、商売をすることになる。店はまだ持たないがな。だが薬で商売はしない。あれは人件費と人材育成費、材料費などを考えると一粒が莫大な金額になってしまう。だから先に別の事で資金繰りをしてからだ。まぁ今回のコウの剣や飯代や宿代など、自分でなんとかしないとならないからな。魔女からの金銭的な支援は受けたくないしな。」


「じゃあ旦那は何を売るんだ?」


アリアスがニコニコしながらまたパンを頬張ったのを見て胸を撫で下ろした。

またソースが付いているぞ・・・・・


「基礎化粧品を販売する!」


「あー、30代からの?」


みんなポカーンだ。無理もない。

決してコウの発言に対してではない。

この世界、化粧品と言うものがメイクしかないのだ。

人口の半分は女性、その膨大な空のマーケットに基礎化粧品という雫を落とすとどうなるだろうか。


ただ、生産量はかなり低い。工場があるわけではないからな。

そうなると量販店のないこの世界では必然的に末端価格は高騰。格差の激しいこの世界では下流と呼ばれる女性には手の届かないものになるだろう。


だがそこが狙いだ。


そうなれば基礎化粧品なんて貴族しか買わないだろう。ある程度認知度が上がる頃に商会を立ち上げ、直接購入できるようにする。それも末端価格でだ。そうなれば莫大な利益が上がるだろう。

その頃には模造品も出回っているだろうが、こちらは物が違う。

ブランド化されればこちらの物だ。勝手に価格も上がってくれるだろう。


コウの冗談を無視して俺はアリアスとナタリーに試してもらうことにした。

ここで満足させることが出来なければ改良が必要だ。


「これだ。アリアス、ナタリー、朝に顔は洗ったよな?顔に塗って見てくれないか?」


「無視!兄ちゃんまた無視!」


俺はヒップバッグから陶器の小瓶をアリアスとナタリーの前に置いた。


「これはなんなのだ?私はまだ22だ。30からなのだろ?」


「私も17歳ですよ!30ではないです!1」


ほほう。22だったのか・・・・・


って!アリアスが18!!!!???もう少し若いかと思ったよ。俺の1歳下か・・・・


女性に年齢を聞くのは失礼なので躊躇していたが聞けてよかった。

ナタリーは疑ってるようだったがアリアスが先に手に取ってくれた。

俺がジェスチャーで塗り方を支持するとアリアスは手にとって匂いを嗅ぐと俺のジェスチャーと同じように顔に塗って・・・・・


「えええええええええ!!!!!!潤う!!これ潤います!!肌が!!肌がモチモチです!!!」


そうだろう、そうだろう!そうでなくては!

何せ中世に現代の基礎化粧品なんて持っていけばそうもなろう!!


「な、なにっ!!」


途端ナタリーが小瓶をぶん取るように手に取ると、同じように顔につけた。


暫くの沈黙・・・・・

ルーイまで魚パンを食べる手を止めてナタリーに注目していた。


無言で目を瞑って顔に手を当てたままのナタリー・・・・


「な、ナタリー?大丈夫ですか?」


アリアスが肩に手をかけようとしたその時・・・・


「アキラ殿ぉぉぉぉ!!!!これを!これを売ってはなりません!!!!私に!私に全部ください!!!」


ナタリーは急に立ち上がると俺の肩を掴んで、おみくじを引くかの如く揺さぶり始めた・・・・


「ナタリー!ダメです!落ち着いてください!揺さぶっちゃ駄目です!!」


あ・・・・・・なんか意識が・・・・・


「ナタリー!兄ちゃん気を失うからストップ!!」


「っは!!?す、すいません!!本当にすいません!!私としたことが・・・・・」


こんなに取り乱したのを初めてみた・・・・

目が血走ってたよ・・・・・

ナタリーが頬に手を当てながら席に戻ると横でルーイが魚パンを口に頬張ったままプルプル震えていた・・・・そうだね、怖かったね。


「ナタリー・・・・どうしたのですか?」


「すいません、こんな物に初めて出会いましたのでつい・・・・これは莫大な利益を生むことになるでしょう・・・・つきましては私が実験台となりますので何かあれば言って頂ければ幸いです。」


お気に召して頂いて光栄です。

狂乱は置いといたとして、この反応ならなんとかなるな。


「ああ、実験台は頼むことにするよ。これの商談で今日の昼過ぎからエリオットの所に行ってくる。俺は少し忙しくなるが大丈夫か?」


「あー、俺は大丈夫!研ぎ終わるまで暇だからナタリーに稽古つけとくよー」


「俺も大丈夫だぜー!順調だ!落ち着く頃には仕上げとくよ!」


「私は・・・・・ついていってもいいですか?」


それは頼もしい!エリオットなら変なことはしないとは思うが商売となると、この世界の常識を知らない俺だけよりアリアスがいた方が何とかなりそうだ。


「ああ、頼む。」


「はい!おまかせください!」


ナタリーは食事が終わる頃に、やっと自分の醜態を認識したらしく、店を出て別れるまで終始赤面したままだった。



次回12月24日


イボです。

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