26話「捨てられた猫って何だかんだ気になるよね」
「ここがベラデイル・・・・」
目の前に広がる5メートル程の高さの大きな石壁が、だだっ広い草原の視界の端から端へ広がっている。
「兄ちゃん!すげーな!!ちょーデカイじゃん!!」
コウは数分前からはしゃいでしまい、馬車の上に登ってテンションが引かない。
恥ずかしぞ!降りてくれ!
「はっはっは!ベラデイルは凄いだろ!『異界の戦士』さんも大層お気に入りのようだ!」
カルマンさんや兵士たちは笑ってますが俺達3人は恥ずかしくって俯いて無言です・・・・
でも流石、流通の街だ。なかなかのデカさに俺もびっくりした。
予定通り昼過ぎに到着。事前の質問攻めによると朝が一番活気があるらしい。
馬車が進み3メートルはあろう門の前に着くと大きな音を起てて門が外側に開き、壁の内側へ入っていった。
馬車が行き交う通路はヨーロッパを思わせる不揃いの石畳で舗装され、赤レンガの建物や石レンガの建物などが軒を連ねている。
石畳の脇には様々な商品を扱う露店が連なっており、流通の街である事を納得させてくれた。
道行く人も様々だ。朝はどうなっているんだか・・・・
「兄ちゃん!人が多いね!こっちに来て初めて、こんなに人がいる所をみたよ〜!あっ!いい匂いもする!」
「いいからお前は中に入れ!」
「ベラデイルといえば、パンが有名です!!是非夕食は私にお任せください!」
はいはい、食いしん坊ちゃん。お任せしますから・・・・
露店で賑わう大きな通りを商人と思わしき馬車とすれ違いながら進むと、十字路を曲った先の進行方向にダークグレーの大きな城が見えてきた。
あそこにベラデイル卿がいるのだろう。
しばらくして馬車が止まると、カルマンさんの声で周りの同行してた兵士たちが散らばり始めた。
俺達も馬車を降りると、カルマンさんも同じく馬車を降り近寄ってきた。
「着いたぞ!私は報告と謁見の取り計らいがあるので一時離れることになる。恐らく謁見は明日になるだろう。水等の簡単な物資ならここで調達すればいい。今夜は兵舎に泊まる形でいいか?」
「すまない、助かる。では早速なのだが・・・・」
こういう時はナタリーは頼りになるな。
ナタリーとカルマンさんの話が終わり、カルマンさんが馬に乗って城に向かうと、俺達は兵舎で割り当てられた部屋に荷物を置いて、兵舎前に集まった。
「兄ちゃん!兄ちゃん!この後はフリーってことだよね!!」
「そうだな・・・・ナタリー、購入しなければならない必要な物資はあるか?」
ナタリーは手を顎に当てて悩む素振りを見せたが、手を上げて首を振った。
「調達は出立前が望ましい。今は特にないな。」
「では!パンですね!」
はえーよ!今3時ですよ!
鼻息の荒いアリアスの頭をナタリーが撫でるとアリアスが肩を落として、ため息を吐いた。
「じゃあさ、各々買い物とかどう?5時半になったら集合!ってことで!」
コウは何を買うつもりだ?
まぁ俺も調達はしたいし賛成・・・・だが!
「ダメだ。俺とコウは迷ったらどうしようもない。それに時間の概念は腕時計のある俺とお前だけだ。出来ても二手だ。」
「では私がコウ様のお供をしよう。」
「え!?あ、ナタリー!?」
何故かアリアスが挙動不審になっている。
そりゃ俺とは面倒だよな。
俺に質問攻めに合うのが目に見えているか・・・・
「ではコウ様、行きましょう!」
「おけー!」
瞬く間に取り残され、二人は颯爽と街に消えていってしまった。
「すまない。悪いが付き合ってくれ。」
「は、はい!お任せください!!」
事前にカルマンさんへ質問攻めをしていたため向かう店の目星は付けてあった。アリアスに伝えると知っている店らしく、俺達も歩き出した。
「アリアスはベラデイルに来たことはあるのか?」
「はい!お任せください!アキラさんとコウさんを迎えに行く時にも立ち寄りましたし、その前は《ワンド》の物資調達で何度か訪れています。なのでここは庭のようなものです!!」
何故か胸を張って言われたが、庭と言えるほど縁はないのでは?という言葉を抑えて案内を任せる事にした。
俺よりは詳しいだろう。
「ここです!《アミララの薬箱》!」
しばらく歩くと目的の店の前に到着した。
先ずはこの世界で薬とされているものの知識があれば、使えそうな成分も中にはあるだろうと踏んだのだ。
「ん?横の店は何の店だ?」
ふと目の端にとまった店が少し気になった。
石の箱やメガネなど、何の統一感もない商品が並んでいた。雑貨屋とも言い難い店だ。なんとゆうかリサイクルショップのような感じだな。
「魔道具屋さんです!主に発掘された物ばかりですが、作成された物も出回ってます。ですが作れる方が少ないので結構お高いものばかりですよ!」
確かによく見ると手持ちでは買えないものばかりだ。
これが魔道具か・・・・
たしか、魔力を注ぐと刻まれた魔法陣によって少ない魔力で魔法が発動するんだっけ?
そうして軒先の商品を眺めていると大きな音を起てて急に店のドアが開き、何かが吹っ飛んできた。
「痛って・・・・なにすんだ!糞ジジイ!!!」
吹っ飛んできた声の方を見て俺は驚愕した・・・・
「猫!!!!!?」
「何見てんだよ!!」
「あ、いや・・・す、すまない・・・」
そこにいたのは猫・・・いや猫人!?!?
顔が猫・・・とゆうか、童話の長靴を履いた猫そのまんまだ。だがサイズは人の子供くらいはある。
グレーの毛並みにブルーの瞳・・・・
ここの進化論はどうなっているんだ!?
「誰が糞ジジイだ!!糞ガキが!!!また預かり物に変な改造しやがって!!何回俺に頭下げさせりゃ気が済むんだ!!師弟関係破棄だ!!出てけ!!!」
猫人が飛び出してきた扉が再び開くと、俺は再度驚愕し顎を外しそうになった・・・・
片腕の無い犬人・・・・それもかなりデカい。
まさに黒毛のゴールデンレトリバーだ!!
マッチョなベントレイさんと同じくらいか・・・・
「何が悪いんだ!!もっと強くしただけだろーが!!!」
猫人は両手を地面に着けて毛と尻尾を起てて今にも犬人に飛びかかりそうだ。
「それが駄目なんだよ!!それも勝手にやりやがって!!客から預かった大盾を回転させる奴があるか!!!あんなことしたら腕が持っていかれるだろうが!!」
ん?待てよ・・・・まさか!?
「すいません、その魔道具見せて貰えませんか?」
「んぁ!!?なんだオメーは!!?」
「あ、アキラさん!!」
ゴールデンレトリバーが牙を向きながら睨んできたが、そんなの関係ない!
「その駄目な魔道具を見せてください!」
「駄目とはなんだ!!!」
横で猫人が威嚇しているのをスルーして犬人の目を真っ直ぐ見ていると、両手をあげて扉に入っていった。
「あ、アキラさん。ど、どうしたんですか?」
「今後に関わる重大なことだ。巻き込んですまない。」
すると扉が再び開いて犬人が長方形の大きな盾を持って出てきた。
「これだ。売らねぇぞ。」
「ありがとうございます。」
手に取って魔力を流してみると長方形の大きな盾がぐるぐると回転し始めた。ゆっくりと魔力を注ぐと犬人の言った通り遠心力で腕が持っていかれて上手く構えれない。
だが、これだ!魔道具だ!この技術が欲しかった!
「いぬ・・・おじさん、これってどうなってるんだ?」
犬人は垂れ下がった耳を掻きながら猫人の方に顎をしゃくってみせた。
「こ、これはだな、軸と銅の重りを取付けて土魔法で銅を一方方向に動かすように陣を組んでいる・・・回転させて受けた攻撃を受け流すんだ・・・・」
猫人が恥ずかしそうに説明すると犬人が鼻を鳴らした。
・・・・・正に車輪にもってこいじゃないか。
「魔法陣には何個まで魔法を組めるんだ?」
「デカけりゃデカいだけ複雑にできるよ。まぁそんなの作っても魔力足んねーだろうから起動しねーけどな。」
なるほど・・・・・なるほど!なるほど!!!
「オジサン、この子本当に要らないの?」
「要るか!!どんだけ信用を失ったと思ってんだ!!」
「んだと!クソジジイ!より良いものに仕上げてこそだろ!使えるかは、やってみねーと分かんねーだろーが!」
「使えるか!!現に俺が吹っ飛んだの見ただろ!!頼まれたのは硬質化の魔法陣だけだ!!それをしねーで、ふざけた事ぬかすんじゃねー!」
確かにこの盾は使えない。本気で魔力を注げば吹っ飛ぶ。下手すれば周りにも被害がでる。
だが素晴らしい。果てなき探究心、向上心無くしては新たなものは作り出せん!
「オジサン、ではこの子は俺が貰います。」
「「「ええーーーーー!!!!!????」」」
俺以外の3人とも顎が外れるほど叫んでいた。
次回11月26日




