25話「兄弟でも話さないと決意なんて伝わらない」
「ただいまー!あ!兄ちゃん起きたんだ!おはよー!」
「アキラ殿!お身体はもういいのですか?アリアスは一緒ではないのですか?」
涙が出そうだったのが一気に引いた・・・・
木刀を持った汗だくの二人が空気を壊すテンションで帰ってきた。
あの一件のあと稽古とは肝が座っているとゆうか・・・
「ああ、身体は大丈夫だ。ありがとう。アリアスは寝てるよ。コウ、ここまで運んでくれたんだろ?ありがとな。」
「馬車だったし全然大丈夫!」
馬車?あーそうだ。
「そうか、だが迷惑かけてすまない。悪いが寝てる間のことと、どうなったかを聞かせてくれ。」
するとヘルマンが奥さんに目配せをしてーー
「では昼食を食べながらにしましょうか!」
「やっほー!!いただきまーす!」
「お言葉に甘えさせていただきます。」
ヘルマンさんの計らいで食卓を囲んで詳しい話を聞かせてもらうことになった。
◆◆◆◆◆
「流れはわかった。じゃあこの後はカルマンと一緒にベラデイルか?」
「そだよー」
一通りの流れを聞いて胸を撫で下ろした。
ベントレイさん、あの丘にお墓があるんですね。
また伺います。
まぁ最悪な状況にはならない様にベラデイル卿への謁見には注意しなければな・・・・
するとアリアスが階段を勢い良く降りてきた。
何故か涙目だ・・・・
俺何かしたか?
「何で起こしてくれなかったんですか!!私もご飯食べたいです!!」
なんだ・・・・・食いしん坊め!!!
アリアスは席に着くやいなやナイフとフォークを両手に持つと頬を膨らまして俺を睨んでブツブツ言いながら食べ始めた。
「私が意地悪するつもりだったのに・・・・」
触らぬ神に祟りなしっと・・・・
「それで、それとは別に聞きたいことがある。」
俺はちょうど食べ終わると食器を置いてコウを真っ直ぐ見て続けた。
「お前のあの紅い湯気のようなものはなんだ?金属の鎧を抉ったりナイフを音速でなげたり物理的に有り得んだろ。」
「あ!それ私も気になりました!!あの時のコウさんの威圧感にカルマンさんもタジタジでしたし・・・音速ってなんですか?」
食べて機嫌が直ったらしい・・・・秋の空とはよく言ったものだ。
「音速とは音よりも速い速度のことだ。あの爆発音は、物が音より速く動く時に起こる現象なんだ。だからあのナイフは今話してる声よりも速く飛んでいたと言うことだな。」
「ぶほっ!ごほっっ!!・・・・音よりも速くですか?そんなの当たったら、ひとたまりもないじゃないですか!!!」
散らすな散らすな・・・・
「そうだったのですね!!流石コウ様です!」
あれ?ナタリーさん?なんか目がおかしいですよ・・・・
「俺にもわかんないんだー。ただあの紅いのが出てる時は力が溢れるとゆうか・・・ウェイト外した時みたいな感じになるんだ。まぁ出せって言われて出せないんだけどね!」
コウは困った顔で頭を掻きながら食器を置いた。
んー《時の魔女》なら何か知っているかもな・・・
「ではそろそろ荷造りをして出ましょう。そろそろカルマンとの約束の時間です。」
ナタリーが貴族のようにナプキンで口を拭き立ち上がった。
「もう行くのか?」
「うん!オークは粗方倒したしね!」
コウも立ち上がると荷物をまとめ始めた。
あの汗・・・そうかオーク討伐に参加してたのか!!
俺も部屋に戻り荷物を纏めた。元々そんなに多くはなかったしな。
今回の研究用に集めた物も成分の抽出は終えていたので小さく纏っている。
荷物を持ってリビングに戻るとタイミングよく外からの馬車の止まる音が聞こえた。しばらくして扉が開き青い鎧の大男が入ってきた。
「迎えに参った。準備はできたか?」
「ああ、では頼めるか?」とナタリーが先にヘルマンに挨拶を終えて外に出ていった。
「お世話になりました。時間が出来たらベントレイさんのお墓に参らせてもらいます。」
「いえいえ、こちらこそお世話になりました。またビートを食べにいらしてください。その時はお肉も用意します。」
俺はヘルマンと固く握手をして微笑み合うと玄関の扉を開けた。
清々しいほど青く澄み渡った青い空に爽やかな風が頬を撫でる。
太陽の眩しさで目を細めるも、心地良さで包まれた。
ヘルマンさんの為にも、ベントレイさんの為にも前を向いて行こう!
ヘルマンさん一家が玄関で手を振って見送る姿に馬車の荷台に乗った俺達は見えなくなるまで手を振っていた。
暫くゆっくりと外の景色を見ていると馬車の進行方向から金属の擦れる音や足音が聞こえてきた。
どうやら待機していた部隊と合流したらしい。
ここからベラデイルまで徒歩で4日だったかな?
「カルマンさん、ベラデイルまでどれくらいかかるんですか?」
「馬車だと2日ほどだ。魔学師どのはお急ぎか?」
カルマンさんが手綱を握ったまま顔だけ向けて答えてくれた・・・・・・
「魔学師?・・・俺か!?」
いつの間に二つ名がついたんだ?!
3人がクスクスと肩を揺らして笑いを堪えている。
「そうだ。魔法を学び、異界の知識を混ぜて新たな可能性を求める。だから魔道士ではなく魔学師なのだ。『異界の戦士』は言わずもがな、今回の武勇は部隊でも熱を上げるものが多い。自ずと二つ名も知れ渡ろう!」
困った・・・・・顔が熱くなってきたぞ・・・・
話しを変えよう!
「と、ところで、ベラデイル卿はどんなお方なのですか?」
「あ!俺もそれ気になる!」
カルマンさんは部下に手綱を任せると俺達のいる荷台に腰を下ろした。
「ベラデイル卿は若くして前当主を失いながらも民の事を気遣い国王に頂いた領地をしっかり守られている御方だ。今回の一件も事情をお伝えすれば、よき方向に取り計らってくれるだろう。」
そうか、悪いオッサンとかではないようだな。
まぁ会ってみないことには分からんが、そこ迄の心配はいらないか。
そこからカルマンさんは俺の質問攻めにも嫌な顔をせず、野営地に着くまで答え続けてくれた。
この人、流石に隊長だけあるな。器量がデカい!
ベラデイルの街は商業の盛んな街で、王国と農地の中間点にあたるところのようだ。
農作物や鉱石が集り、そこから良い物が王国に流れて残りは他の村や町に流通するらしい。
特に商人の行き来は遮らない用にしているらしく、まさに中央卸売市場のようだ。
これは成分抽出に事かかないな!
その夜はアリアスとナタリーが彼氏はいるのかとかなど、兵士たちの質問攻めにあっていた。
やっぱりモテるんだな〜
俺は何故か良い気分ではなくなったので一人で宴会を抜けて星を見ていた。
そういえば、ここに来て初めてゆっくり星を見るな・・・・
星の配置が違うな・・・・
そんな事を考えているとコウが俺の横に来て座った。
「目まぐるしいね、兄ちゃん。」
「そうだな。ずっと何か起きてる。」
「俺さ、今回の件で決めたんだ。」
「何をだ?」
「もっと強くなるよ。守りたい人を守るために。」
「そっか。頼むぞ!俺や明日菜や公久が帰るために頑張ってくれ!」
「兄ちゃんも手伝うんだよ!」
お互い星を見上げながら笑いあった。
そうか、こいつも決めたのか・・・・
「あ!いました!!アキラさん!コウさん!皆さんが話を聞きたいみたいですよ!」
「戻られよ、口説かれるのにも飽きたところだ。」
ナタリーが腕組みをしてアリアスが手を振って呼んでいる。
「おっけー!行くよ!」「しかたないな。」
その日の夜は元の世界でも経験のない、笑いの絶えない長い夜だった。
次回11月23日




