22話「歪んだ手段は歪んだ結果を産む」
俺たちがベラデイル兵の野営地についた頃には、すでに一触即発の状態だった。
ベラデイル兵は横並びに陣をとりダリルの男達は固まって農具を握りしめていた。
ベラデイル側に目を向けると、他の兵士とは違う鎧の大柄な男が目に止まった。そして横には見慣れた赤毛の女の子が立っていた。
「アリアス!!」
「アキラさん!来てくだっさったのですね!」
アリアスは大きく手を振ると駆け寄ってきた。
ナタリーはアリアスに丘での状況を説明しはじめた。
「すまない。何もできなかった・・・」
「アリアスちゃん・・・・俺もごめん・・・・」
耳を塞ぎたくなるような内容を伝え終えると、アリアスは俯いて肩を揺らしながら涙をこぼしていた。
ナタリーがアリアスの肩にそっと手を当てると、アリアスは濡れた目をこすって顔を上げた。
「べ・・・ベラデイルはオークの討伐に来ただけなんです・・・・ただの勘違いだったんです・・・・恐らく一連の首謀者がいます・・・・だから・・・止めましょう!」
アリアスの辿々しい言葉にコウとナタリーの表情が強張った。
首謀者がいる・・・・そうだ・・・・
「アリアス。スティングという名の兵士はベラデイルにいるか確認してくれないか?金髪で頬に傷がある男だ。そいつがベントレイを殺した・・・・」
「・・・・わかりません。すぐ確認します!」
「私も行こう。」
アリアスとナタリーがベラデイルの方へ走り去るとダリルの男達とベラデイル兵が叫び合っているのが聞こえてきた。
「貴様ら!何のつもりだ!話しは聞く!武器を降ろせ!」
「ふざけるな!お前らが先に手を手を出したんだろうが!!ベントレイさんをよくもやりやがったな!!!」
「そうだ!お前ら全員皆殺しにしてやる!!!」
「何のことだ!?いいから落ち着け!!」
まずいな・・・《ダリル》の奴らが仕掛けるのも時間の問題だ・・・
「コウ行くぞ!」「行こう!兄ちゃん!」
俺とコウはアリアスを待つことはせず、ダリルの男達に向かって走った。
「みんな!待ってくれ!数を見ろ!結果が見えている!それにベラデイルはオーク討伐が目的でお前らの討伐が目的じゃない!」
「そうだよ!戦うのは、さっきの奴を引き渡してもらってからでも遅くはないでしょ?」
男たちは少しの動揺を見せると、相談をし始めた。
コウ!ナイスだ。犯人に償ってもらうのが一番いい。諸悪の根源であるスティングという名の男に敵意を向けられれば収まるかもしれない。
糸口が見えて・・・・
「俺たちは戦う!これはもう反乱じゃない!弔合戦だ!」
「俺たちには《魔装の肉》がある!どうせ帰る場所は全て焼いてきたんだ!」
「ベントレイさんをやった男はベラデイル兵だったんだ。信じられるか!」
男たちは自らを奮い立たせるかのように口々に戦う意思を発し、ベラデイルに向けて農具を構えなおした。
《魔装の肉》?武器か何かか?とりあえず、背中を押すような物に間違いはない。
「よし!みんな!いくぞぉぉ!!」
「待て!!!・・・・クソッ!コウ!止めるぞ!」
「了解!!」
最初に走り出した数人をコウが捌き地面に倒す。
数が多いな・・・・・ここは足止めだ。
俺はベラデイル兵へ向かわないように、クアグマイア(泥沼)を放った。
「うわ!なんだ!」
「魔法だ!」
「無詠唱!?クソ!そういえばあの二人だったな!」
そして水魔法を応用し乾燥。
地面は男たちの足を絡め取ったまま、元の土に戻った。
「動かん!」「クソ!」
男たちは膝まで沈んだ足を抜こうともがいていた。
これでどうにか時間稼ぎができるか・・・・
そう思った束の間。
「俺は使うぞ!!」
「俺も使う!!」
一人、また一人ともがくのをやめて懐から何かを出して食べ始めた。
何だ?干し肉?
男達が干し肉を飲み込んだ瞬間。
以前感じた事のある悪寒が全身を襲った。
「うあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!!!!」
けたたましい叫びとともに髪が根元から青く染まり始め、額から角が生え始めた・・・・・
ハステル!?
いや、違う。目がおかしい。
瞳は無く目が全て赤く染まっている。
肌もあんな斑点模様はなかった・・・・
衝撃波で吹き飛ばされそうになる体をどうにか地面に止めると、そこには変化を終えた魔人が3人立っていた。
発された衝撃波で地面が抉れ、他の者は食べる前に吹き飛ばされてしまっていた。
「・・・ま・・・・魔人だぁぁぁ!!!魔人化したぞ!!!!」
後ろのベラデイル兵の声が響くと同時に剣を抜く金属音が聞こえた。
これが魔人化・・・・
こんなに簡単に魔人化していいのか?
体に変化が訪れるのだから、もっと病気の様に変化が進行していくのかと思っていた・・・・・・
いや、今はそんなことはいい!取り除く方法は!?
だが考えても理由すら知らないことに答えなんて出せるはずもない・・・
「ガ・・・ガガガガア・・・・・」
魔人となってしまった男が、持っていたスコップを一振りすると地面に同じ軌道の深い穴が空いた。
足元を絡めていた土は、その衝撃で飛んでしまい、足枷となるものはもうなかった・・・・
途端、魔人の下の地面がひび割れ、弾丸のような速度でコウへと突っ込んだ。
「コウ!!!」
コウは後ろに転がり、大きく振りかぶられたスコップを避けて飛び起きざまに両足で魔人を蹴った。
蹴られた魔人は後ろによろめいたが間髪入れずに二振り目を放っていた。
「くっ!」
金属のぶつかる音が響く。
コウの剣と魔人のスコップが鍔迫り合いになったいた。
「兄ちゃん!他を!!!」
残りの二人の内、一人はまだ頭を抱えて伏せっている。
だが、もう一人はゆっくり体を揺らしながら顔を空に向けて歩いてきている。
マジか!こっちもか!!とにかく足を止める!
クアグマイア(泥沼)を放つと、魔人の足が一気に膝まで沈んだ。
「おい!しっかりしろ!!」
「ガアァァァァ!!!!グゴァ!!」
魔人が俺に向かって腕を振り上げたのを見て、後ろに下がり一気に距離をとる。
振りかぶられた腕は空を切ったが、それにより発生した殴られたような衝撃が体を走った。
クソ!!!何かないのか!?
手持ちの近接武器はナイフのみ・・・・
それも触媒として用意したものだ。使い慣れてない。それに攻撃すれば傷つけてしまう・・・・いや、そんなリーチのない武器でやりあったら返り討ちだ。
どうする・・・・・
魔人の足は泥沼で一瞬止まりはしたものの、まるで水を歩くかのように泥を簡単にかき分けながら進んでくる。
クソ!避けるのが精一杯で乾かすのを忘れてしまった。
「放てーーー!!!!」
『ストン!』『ストン!ストン!』
幾重にも渡る風切り音を響かせながら後ろから複数の矢が魔人の胸へと突き刺さった。
魔人は若干のよろめきを見せるも、歩みは止まらない。
一歩、また一歩と近づいてくる・・・・
「アキラさん!!!」「コウ様!!!」
後ろからアリアスとナタリーの叫び声が聞こえる・・・だが振り返ることなんてできない。
今ここで目を離すことは死につながる・・・・僅かに残っている全身の野生がアラートを鳴らし続けている。
クソ!下がることしかできない!!!
「コウ様!アキラ殿!戸惑うのは分るが奴らに意識はない!ハステルと違う!あの肌と目は低級覚醒魔人だ!!助けようがない!!もうやるしかない!!!」
意識がない!?助からない!?
何でだ!!どうしてこうなる!!
魔人化の原因は魔素なんだろ?
あの干し肉はなんだ!?
なんで魔人化した?
魔人化を治す方法はないのか?
せめて無力化できないのか!?
その間にも一歩、また一歩と魔人化した《ダリル》の男が近づいてくる・・・・
「アキラさん!!逃げて!!」
アリアスの泣きそうな声が意識を戻してくれた。
ええい!ままよ!
このままでは被害が計り知れない・・・・
俺だけではない。後ろのアリアス、ナタリーにまで被害が出る・・・・・
覚悟を決めるしかない!!!
考えうる、今できるだけ高威力の攻撃・・・・・
一つだけダリルで作ったものがある。
これに一番時間をかけていた。
すまない、こうするしかないんだ・・・・
「アリアス!マッドワイル(土壁)の高さと幅をコウの剣5つ分で俺の後ろに頼む!そのあとマッドワイル(土壁)に向かって壁が吹き飛ばないくらいの強い風を当て続けてくれ!」
「え!?は、はい!!」
大きな土砂の音とともに影が俺を覆う。
後ろに下がると背中に冷んやりとした土壁が当たった。
アリアスの作った壁の端に左右を遮るようにマッドワイル(土壁)で湾曲した壁を作る。
これでなんとかなれば・・・・
「暗雲の作りし轟音を我が前に、理の外にて現れよ。フォルトウイン(強風)!」
アリアスの詠唱が聞こえた。準備完了か・・・・
ウォルターバリル(水弾)を手元に発動し地面へ。
その後、ウォルターバリル(水弾)を再び作り出して、ナイフを取り出し電解!
それを何度か繰り返す・・・・
魔力が・・・・魔力がマズい・・・
魔法を使うたびに体から『何か』が抜けていくのが分かる。
その度に集中力が弱くなっている気がする。
魔人との距離が4メートルほどになった。
アリアスの作った風で揺れていた魔人の髪の毛の揺れがその地点で止まる・・・・・
ここだ!
手元の油まみれの紙から握り拳ほどの塊を地面へ放す・・・
「みんな!伏せろぉぉぉ!!!」
けたたましい爆音が響きわたり、辺りは二度目の朝日のような光に包まれ、土壁が砕け飛んだ。
次回11月12日




