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14話「悪意のある行動より善意だけの行動の方が面倒だ!」

「足りねぇ!被害の無い奴にも川から水を取りに行かせろ!ここを抑えればなんとかなる!!」


リーダーらしき体格のいい中年の男が火の粉の舞う中、辺りの男達に大声で指示を出し、燃える家屋に水魔法で水をかけていた。

俺達が《ダリル》に到着した頃には既に町の3分の1が炎を纏い、町を赤い光で照らていた。


「兄ちゃん!俺たちも手伝おう!」


その様子を見たコウは居ても立ってもいられず、リーダーらしき中年男性の元へ走っていってしまった。

俺たちも揺らめく赤い光と熱気の中をコウのあとに続いて駆け抜けていく。


町の人達が怪我などをしていないか走りながら見ると、何故か妙に落ち着いている。

俺は町の人の妙な落ち着きに一抹の不安を覚え、危険が無いことを確認しておきたくなった。


「ナタリー、町の人達に違和感を感じるんだが危険はなさそうか?」


「違和感?水魔法を使っているものが少ないのが気になるな・・・恐らくもう野盗はいないだろうから焦っていないのだろう。または・・・・」


野盗がいないからなのか?

何か予定調和のような雰囲気が俺には感じ取れた。それが一番引っかかる。

この襲撃があることを知っていた、または・・・・


「すでに“支配”されてる可能性がある。」


やはり、見解は同じか・・・・


「アキラ殿、アリアス、兎に角ここは消火を手伝おう!」


「ああ。」「はい!わかりました!」


追いつけない速さで走っていたコウは既に消火に加わっており、遅れて到着した俺とアリアスも水魔法で消火を始めた。

ナタリーは最初うちは水魔法を使っていたのだが、「すまない」と途中から家屋を崩し始めたのだった。魔力の総量たる魔素量はそんなに多くないのだろう。

ならば俺は人並みにはある方なのか。


粗方消火は終わった頃には町全体が太陽の光に照らされ、小鳥の囀りが聞こえていた。

アリアスは途中から怪我人の治療を始めて、今も治療の真っ最中だ。

さすが聖女だな。俺も回復魔法使えるのだろうか?

またアリアスに教えてもらおう!


俺たち3人は「後は片付けだ」と聞くと、一息付くために消火し終わった家屋の一角に集まって腰をおろしていた。


未だ焼け焦げた臭いが息を吸う度にまだ鼻の中を通り過ぎている。

落ち着いて町を見回すと、並び立つ建物の造りや転がる家具、人々の服装などに改めて元の世界との文化の違いを感じた。

こちらに来て怒涛のように過ぎていく時間と突きつけられる現実に、周りを落ち着いて見るタイミングがなかった。

機械化、デジタル化が進んだ世界の俺には、中世ヨーロッパにタイムスリップしたようであり、おとぎ話やゲームで出てくるような光景は違和感でしかない。

だがそこに人が生きている。生活している。臭いも太陽の暖かさも感じ取れる。

『現実なのだ』と脳細胞に訴えつづけていた。


暫くするとアリアスが手を振って笑顔で戻ってきた。

治療はうまくいったのだろうか。


「皆さんお待たせいたしました!」


「お疲れ様。アリアス、怪我人はどのくらいいたんだ?」


「15人くらいですかね?でも重症な方はいませんでしたよ!本当によかったです!思ったより魔力を使っちゃいましたけど」


やはり少ないな・・・・

全焼の家屋はざっと見ても20軒はあった。

少なく見積もっても1家屋2人だとして40人はいるはずだ。

その割に怪我人の人数が少なすぎる。


「やはり少ないな。」


ナタリーも同様に引っかかるらしい。

顎に手を当てて表情が明るくない。やはり懸念通りであろうか・・・・


「なんで?怪我人少なくてよかったじゃん?」


「コウ、リーダーっぽい人と話はしたか?」


「うん、なんか『すまない、迷惑をかける』って謝ってたよー」


迷惑をかける?これは本格的に面倒なことになりかねないな。早いとこ必要物資を調達して町を出ないとな・・・・


そんなやり取りをしていると、あのリーダーらしき人物がこちらに向かって歩いてきた。

あー、これは巻き込まれたな・・・・


「旅の人たち、本当にありがとうございます!そちらのご婦人は噂に聞く《聖女アリアス》様でお間違いないでしょうかか?怪我人を治して頂きありがとうございます!」


「あ、アリアスで、け、結構です!当然のことをしたまでです!」


アリアスは顔を真っ赤にしながら俯いて手を突き出して振っている。

名前が知られているとは、アリアスは結構有名人なんだな。


「それではあなたが《独剣のナタリー》様でしょうか?」


急に名前を呼ばれてナタリーは目を見開いて驚いていたが男の問いかけに頷いた。


「失礼しました。私は《ダリル》を任されております町長の息子ヘルマンと申します。《ワンド》の御一行に助けられたこと深く感謝いたします。」


俺たちも《ワンド》に数えられたのか・・・

まあいい、兎に角速く抜けよう。えっと水と、パンと・・・・


「ヘルマンのオッチャン、町に何があったの?」


「そうです!お力になります!!」


聞くな!聞くではない弟よ!!そしてアリアス!!!


「よくぞ聞いて頂けました!実は少し面倒なことになっておりまして・・・・」


俺とナタリーは頭を抑えたがコウとアリアスは聞く気満々だ。

ナタリーも俺と苦労は同じか・・・・

ええい!ままよ!


「実は、この一件なのですが野盗ではごさいません。」


「だったら何が原因だ?身内の不始末とかやめてくれよ」


身内とか本当に面倒だ。野盗のように討伐して終わりではない。仲を取り持つなど時間もかかるし襲われても強い反撃ができない。

そうでない事を祈って俺は自らの考える一番面倒な事を言葉にした。


「はい、まさにその通りでごさいます・・・」


面倒くさ・・・・・




次回10月15日

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