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11話「盤上の弱者は夕日に溶ける。」

「ックックック・・・と言うことは『死』を選ばれたのですね。愉快です!」


青髪に角の生えた男が歪んだ笑顔で俺を嘲笑っている。

足が震える。不快だ。本当に不快。

俺はコウのように肝なんか座ってない。

準備は万全だ・・・・だが稽古ではない人との本当の殺し合い。

脳裏に付き纏う『死』

それが足を否応なく震わせる・・・・


「その選択で村が消えるんですよ?本当に残りカスは思考も『カス』ですね。」


いいんだ。俺はカスでいい。

だが間違っていない。勝算はあるんだ。

みんなを守れれば、死ななければそれでいい・・・・

確かに村のみんなを危険にさらす選択は確かにカスだ。

それで結構。


「だが皆、死なない。だから望み通りの結末にはならない。」


「ックックック・・・ここまでの馬鹿、いやカスは初めてですよ。でも・・・」


アリアスとナタリーが構える。


ハステルはその歪んだ笑顔で肩を震わせて・・・・


「・・・・それ、大好きですぅぅ!!!!」


その言葉と同時にハステルが俺に向けて踏み込んだ。


予定通りだ。


「アキラさん!!!!」「アキラ殿!!!!」


2人の叫びが聞こえるが、無視。


途端、ハステルの踏み込んだ地面が溶けて足が膝まで埋まった。


水魔法と土魔法による泥沼。

アリアスに習った中級とされる混合魔法。


ハステルは俺が魔法が使えるとは思っていなかっただろう。

実は初撃への対応が一番悩んだところだ。


俺に対するハステルからの攻撃は物理攻撃だと予測していた。

昨日の戦闘でもほぼ物理攻撃。ハステルの魔法は無詠唱だがタメが入るので、手を見ておけば解りやすい。

だが物理攻撃はコウと違って反応速度の低い俺では、初手を防げないかもしれないと思っていた。

ただ、昨夜のアリアスとの魔法の勉強で混合魔法を使った俺にアリアスがびっくりしていた。

そこで思いついた策。

防がれる懸念もあったが、無詠唱魔法が可能になったからこそ成功率が格段に上がった。


まぁもしもスルーされたら自分を水で囲い衝撃を緩和するつもりだったが・・・。


「っ何!?無詠唱!!?」


俺はハステルの足が一瞬止まった瞬間に横に走り出し、距離をとった。


「こっちだ!『カステル』!」


俺は思いつく限りの怒らせることばを吐く。我ながら稚拙だ・・・

ナイフを持って両手を前に構えて次の準備を終えていた。

俺が叫ぶと同時にハステルの足が抜けた。


「アリアス!どうゆうことだ!?無詠唱の混合魔法だと!?」


そこまでの動きを見たナタリーが驚いたのか、口を開けて惚けている。


そう、この世界は魔素という「何か」以外は物理が通用する。

そして本当は魔法には詠唱なんていらない。声だけでは何も変化しない。

俺はそれに気づいた。


「くぁぁすぅぅがぁぁぁあ!!!!!汚れたじゃないかぁぁぁぁ!!!!」


先ほどまでの歪んだ笑顔から一変。ハステルのツノが青白く光り、瞬時に両手に光りが集まる。


「死ねぇぇぇえ!!!!」


ハステルの放った光が何発も何発も轟音とともに地面を巻き上げた。

草原は巻き上げられた土煙で茶色く染まっていた・・・・


「父上から頂いた名前をバカにした報い・・・・ガァァっ・・・・!」


ハステルは叫んだその瞬間。口から紫の液体を吐き出した。

俺に集中するあまり後ろから近付くコウに脇腹を刺されていた。

これは昨日、ハステルに唯一傷をつけたコウの速度があったからこその策。


「ギィサァア゛マァァァァ!!!!」


コウはハステルの脇腹から剣を抜くと、一気にアリアスとナタリーの前に戻った。

ダメージは溜まっている・・・・・

だが、まだ終わっていない。ハステルはまだ動ける。


「油断大敵!ってね!まだ終わってないよ?ほら!」


巻きあげられた土煙が薄れていく・・・・


俺の頭上にはバケツに配分くらいになるだろう液体の大きな塊が出来上がっていた。

ハステルはもちろん、アリアスとナタリーさえ言葉を失った。


「バカな・・・先程の魔法が当たったはずだ!・・・ックまぁいいでしょう。だがそんな初歩魔法が効くわけないでしょう!!!」


ハステルが地面を蹴り上げて俺に向かい飛びかかってきた・・・・・


そして三歩目の泥沼。


「っがぁ!!!!」


だがハステルの体は地面を蹴った移動エネルギーを残したまま地面に転がった。


「クソがぁ!クソがぁクソがクソがぁ!お前ら全員、いや、この村ごと消し去ってやるわぁ!」


ハステルの雄叫びに、アリアスとナタリーが青褪めて腰を引いている。


「お前にはもう無理だ。」


「殺す‼︎殺してやるぁぁあぁ!!!!」


ハステルが両手を上に上げて光を集め始めた。

まずいか?もう少しか?頼む!!!


「ゴフッ!!!」


ハステルは光を集めることはなく、口から泡を出し首をボリボリむしり始めた。


「ゴフッ!・・・何を・・・した・・・毒!?・・・『異界の戦士』か!?・・・」


ハステルは再び手に光りを集め始めた。おそらく「解毒魔法」だ。


だがここで終わり。


「俺の盤上で勝てると思うな。チェックメイトだ。」


俺は頭上の液体をハステルにゆっくり下ろす。ハステルの全身が液体に飲まれた。俺は洗濯機のように水流を与えながらハステルの周りを巡らせる。


「ゴフッ!・・・・そんな威力で・・・・・・・っが!!!!」


まずは毛・・・・・

抜け落ち、溶けていく・・・・・


次に皮膚・・・・


ハステルの全てがみるみるうちに溶けていく。


響き渡る叫びごえ、解毒魔法も途中で行使できず・・・・・・・


皮膚から鼻から指先から・・・・


掻きむしっている首が一番最初に体から離れた・・・・・


そして魔人は動かなくなった・・・・


「な・・・んなんだ、今のは・・・・・・」


膝から落ちたナタリー。


「・・・この魔法は・・・・なんなんですか・・・・・」


剣を手放し寝転がるコウ。


「二人ともオツカレー!ね!兄ちゃんならなんとかしてくれたでしょ!」



「・・・・・アキラさんは本当に『異界の戦士』ではないんでしょうか・・・・・?」


力が抜けてヘタったアリアス。





沈みゆく真っ赤な夕日に照らされながら、人が溶けゆく姿を目の当たりにして吐いている俺。



日が落ちるまで俺たちはそのまま動かなかった。

次回10月5日

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