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星を眺めて


「あ、また星が飛んだよ」

「まぁ、今日は今日はそういう日だしなぁ」


 隣で無邪気に喜ぶ娘の頭を撫でつつ、俺も視線の先、原っぱで星となる光が生まれ空へ飛び立つ様を眺める。


「もぅ!!おとうさんつまんない!かあさんとならもっと楽しいのに!!」


 娘にとってはきっと素晴らしいことなんだろうし、世間一般にもこうして星が生まれる光景を見れる人は珍しいのだろう。しかしだいたい30日に一度こうして星が生まれ飛び立つ様を見守る立場にある俺からしてみれば、何が起きても見守るだけ、という必要かどうかもわからない仕事の必要性を考察するだけの退屈な時間だ。


「おとうさん!退屈だからお話しして!」

「いや、そんなこと言われても」


 こうして星を見続けるのが退屈だと言うのにはひどく同意するが、だからと言って人に無茶振りしてその退屈を紛らわせようというのは非常に迷惑だ。一体誰に似たんだか。


「よし。じゃあこうしよう。なにが楽しみで毎日学校に行ってる?それを教えてくれたらお話ししてあげよう」


「そんなことでいいの?先生!!先生が好き!だから学校楽しいよ?」


「まじか・・・・・・」


 頭の中に娘の担任の教師の顔を思い浮かべる。学生時代からの付き合いのあるそいつは確かに一見爽やかスポーツマンだが、内心は腹黒冷徹野郎で自分の時間に土足で踏み込んでくる相手には容赦がなかった。最近はすっかり丸くなったようだが、昔を知っているだけにちょっとした事故物件扱いを俺の中では受けている。まぁ、卒業するか新しい学年になって担任が変われば大丈夫だろうと思うことにする。


「じゃあどんな話がいいんだ?」


「星!!星の話!」


「えぇー・・・・・・?またか?」


 仕事柄、星の話はいくらでもできるが、おそらく娘が求めているのは目の前の光景の話だろう。

「じゃあ、しゃがんで」


 言いながらまずは自分がしゃがむ。それを真似るようにして娘が俺の隣にしゃがんだ。しゃがんだことで低くなった目の前には、小さな蕾をつけた草がある。星月草というそれはこのあたりにしか生えることができないものだ。


「この星月草、地面から生えてるけど、ご飯は地面からもらってるんじゃないんだ」


 いつもはおしゃべりで、人の話を遮ってばかりの娘は、なぜか星の話の時だけは静かになる。


「この星月草のご飯は人の思い。口にできないけど、でも確かに思っていること。思いはやがて人の中から溢れ出して、それが流れてこの星月草が食べる。そして時間が経って花を咲かせた星月草は思いを咲かせて星にする」


 人の思いはこの花が吸収することで、ある程度人の心はバランスをとるようになっている。いやとるようになっていた、というべきか。今、目の前で広がっている星月草の開花現象。昔はだいたい100日に一度ぐらいだったらしい。


「でも最近は人の思いが溜まるのが早すぎて星月草たちの咲かす星はちょっとずつ色が薄くなっている。その代わりにこうやってたくさんの星が飛ぶようになったって言われてる」


 人一人が触れる情報量が増えすぎて、交友関係が広がりすぎて、今いる自分の環境よりも優れている人が目についてしまって、人の思いが溢れる感覚がどんどん短くなっているという。


「じゃあ昔はもっときれいだったの?」


「そうだな。でも、昔は花が咲く感覚がもっと長かったから、一回見たらそのあとはしばらく見れなかったんだ」


「そう。でも昔の方がいいな。一回に見れる星がきれいな方が、見た時に嬉しい」


 そうか、と頷く視線の先、星月草たちの開花が終わっていく。空に昇る星の量は減り、やがて周囲を照らすのは空にある月だけになる。


「さて、今日の仕事おわり。本日も異常なしっと。じゃ、帰ろうか」


「うんっ」


 娘の手を引き、妻の待つ家に向かって歩き出した。


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