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秋の楽しみ方

 家の裏にある倉庫からリクライニングチェアと小さめの投光器を持ち出し、家の庭に設置する。何度か据え直し、座った状態で多少身じろぎしても問題ないことを確認した初老の男性は、自分の仕事ぶりに一つ頷いた。

 時計を確認。そして空を見上げる。

 時間は5時を少し回ったぐらい。 

 ついこの前まではまだまだ明るかったこの時間も、西の空にある太陽がだいぶ傾き、少しずつ夜の足音が聞こえるようになっている。

 夏の終わりとともに、秋の訪れを感じていると、耳が捉えたのは後を引く虫の羽音。夏の終わりも近いといえども、まだまだ生き残りはいるらしい。どうやら蚊取り線香も用意せんといかんかな、と家の中から持ち出すもののリストを更新する。

「あらあら。まだ明るいわねぇ。先にご飯食べる?」

 庭先で季節の移り変わりを実感していると、家の中から20年来の付き合いになる妻が顔を出していた。その手は頬に当てられており、あざとさを感じさせるのだが、本人にそんな気はかけらもないところに育ちのよさがあわられている、と思う。

「そうだな。先に飯にしよう。・・・・・・あぁ、蚊取り線香はあるか」

 玄関からではなく、庭に面した窓から家の中に入る。靴を脱ぎながら妻に尋ねると、「どこにあったかしら」、とつぶやきながら家の奥に引っ込んだ。

 それを見届け、もう一度庭に目をやる。

 あと必要なものは机と飲み物ぐらいか。机を出せばあとは妻が飲み物の用意はしてくれるだろう、と考え、彼はテーブルを取りに倉庫へ向かった。


 夕食を終え、食器を洗ったり洗濯をしたりしていると、外はすっかり暗くなった。

 今、彼とその妻は庭先に広げたテーブルに飲み物を置き、投光器から明かりをもらい、椅子に座って読書に勤しんでいた。

 秋の夜長にこうして屋外に出て本を読む。

 それが二人にとっての秋の楽しみであり、ここ数日は天気が崩れることもなかったので毎日こうして庭で読書をすることができていた。

 秋の空に、虫の音色と本のページをめくる音だけが響いていく。


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