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孤島は本日も異常アリ  作者: ぱでぃ
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枯枝の夢

引き続き登場したものすごい枝。

基本的に”私”の基本装備になります。

自称か弱い少女には、何か身を守るためのものを与えませんと。

まあ、ギャンブル性が非常に高いですが。

お気づきの方もいらっしゃると思いますが、登場人物の名前が決まっておりません。

決まり次第名乗らせていきますのでしばしお待ちを

「さて、できたぞ、持っていけ」


 そういって、博士は、小さな小瓶に入った透明の液体を私に投げてよこしました。

 不幸な事故により痛む左腕に代わりに右手で受け取り、目の前に掲げてみます。


「なんですか、これ?」


 そう問いかけると、博士はお気に入りのキセルを加えながら、


「ふぃふぉふふぉふぃふぉふぇふぉふふぁふふぁ」

「聞こえません」

「リコルの実の解毒薬だ」


 キセルを口から離し、私にも聞こえる言語で説明してくれました。

 どうやらこれを使って、あの狂った畜生どもを鎮めてこいとのことです。

 霧吹きで顔に吹きかければいいでしょうか。量足りますかね。


 博士は神妙な顔で続けます。


「今回の生態系の破壊、主に大規模のスタンピードによる多数の生物の混乱で、三種の生物の絶滅、また、六種の生物の生息地の変化が発覚した。

当然ながら原因はゴブリン達の凶行だが、さらにその原因は新種のリコルの実であることが発覚。報告は以上で間違いんだな?」

「間違いないと思いますよ?私も一口食べてみましたが、なかなかに刺激的な味でした。飛んで火にいる夏の虫になれそうです」


 確かに魅力的な甘みがあり、口の中を心地よい痺れが襲いました。

 炭酸飲料とはまた違った、独特な感覚でしたね。

 あれほどの甘味と快感を味わうことを、彼らが抑制できないことは理解できるというものです。


「悪食め。まあ相当な依存性から見るに、味のほかに、食したものの体を多少作り替える働きがあるようだな。禁断症状も例を見ないほどに重篤だ」

「私食べちゃいましたよ!?」

「ある程度の複雑さを持つ生物にしか働きはしないようだ。効力があるにしてもゴブリン程度だな、お前は、まあ問題ないんじゃないか?」

「はっきりと否定してくれないと私の中に渦巻き始めた不安が消えないんですけど」


 どうにもいい加減な話ですが、まあ博士がいうなら大丈夫なのでしょう。

 ひとまず安心しておきましょう。


「まだ生き残っている生物たちをできるだけ調査しておきたい。そのためにできるだけ奴らの鎮静化を図っておいてくれ。まったく、次から次へとキリがない」


 博士はため息をつきます。

 それもそうでしょう。

 リコルの実、と称される実の突然変異は私が知る限りでも12回発生しています。

 そのたびに依存性があったり、即効性の毒があったり、近づくと爆発したりと、その生態は多様に変化しているのですから。

 変化の際には決まって何らかの影響を周辺に生息する種に引き起こします。

 今回も例に漏れず。

 前回絶滅したのは、確か新種のサラマンダー種でした。

 モフモフで触り心地がよさそうでしたのに。


「この孤島の性質を理解しようと努めてきたが、到底不可能な気がしてくるな」

「人間である内は不可能だったりして。こんな珍妙奇天烈な島を生み出した元凶ともなればあるいは」

「馬鹿言うな。歴史書を読み漁り、例の馬鹿二人について調べてはみたが、考えも何もあったものじゃない。

この島でさえ偶然の産物ともいうべき場所だ」


 馬鹿二人とは、この島をこのような環境に変化させた張本人たちのことです。

 50年程前という割と最近な時代に生きた規格外の生物。

 外見こそ人間だったが、内包する力は化け物と呼ぶにふさわしく。

 秩序ある人間の集団の中だったからこそ勇者と魔王という呼び名の付いた彼らの、すさまじい戦いの余波により生まれたとのこと。



 なんでも、世界を支配しようと企む人間の敵魔王が最後に放った全身全霊の魔法を、勇者が防御とパフォーマンスを兼ねて、盛大に他所へ弾き飛ばしたものが、たまたまこの島に着弾し炸裂。

 あらゆる現存の環境を吹き飛ばし、超密度の魔力を散布して消滅したそうで。

 人間たちの間では救世の英雄だなんだのと祭り上げられたが、その実孤島は地獄絵図。

 超密度の魔力が、かろうじて残った各所の生態系の下地を大きく狂わせ、数日にしてかような混沌とした環境を作り上げた、らしい。

 そして、いまだに各地に存在し続ける超密度の魔力が、一定周期で生物を変化させ続けている。

 今回もその一例というわけです。


 時の人である勇者と魔王を馬鹿呼ばわりとは。

 博士も苦労するところがあるのでしょう。

 博士ったら眉間にしわを寄せて、ますます老け顔になってしまいます。

 すでに結構なおじいちゃんですけれども。


「まあ、それが楽しくてやっているんだが、ここまでだとは始めたころは思っていなくてな。

お前も後を継ぐことになるから、今のうちの慣れておくんだな」

「や、もうだいぶ慣れてますけど...」


 趣味で始めたとは言いますが、博士の行動力には脱帽ですよ。

 本職が諦めてすごすご帰っていくのに、ゆるーく研究を続けて週十年。

 しっかり適応して、いまだに続いているのですから。


 少なくとも、この孤島では文字通りなんでも起こりうるということを理解していますから。

 先刻も、大空を経由してのダイナミック帰還。

 ほんとあの枝は何なんでしょう。

 ...あ。


「博士、私はこれにてお仕事に向かいますので」

「まあまて、まだ話がすんでおらん。ときに、私のコレクションの中から一つ、とても大切なものが無くなっていたのだが、

何か心当たりはないか?」


 バレていらっしゃいます。

 ちゃんと拾ってきた小枝を入れておいたのですけれど。


「名前を、枯木の夢といってな、願いを叶える力を持った稀有な代物なんだ」

「やっぱり枯れ枝じゃないですか!!...あ」

「だろうな。泥棒娘」

「どちらかといえば孫だと思いますけど。あと人聞きが悪いです。ちょっとばかり借りただけですよ」

「そんなものどちらでも構わんし変わらない。とりあえず倒壊した研究所の南棟の修理代はお前の給料から差し引いておくぞ」

「えらく軽い処罰ですね」

「安心しろ。それはただの賠償に過ぎない。仕置きは別だ」

「でしょうね」


 ああ、詰みました。


「そうだな、例の洗髪薬、しばらく輸入凍結だな」

「へあっ!?そんな、ひどいですよ!?」

「じゃあ断髪な」

「禁止のほうでお願いします」


 私の髪のうるおいは当分先になってしまいました。

 オーマイゴッド。カミだけに。


「まあ、今回は重要な案件だからな、引き続き枝の使用を許可しよう」

「あれ、いいのですか?」

「使い方を間違えなければそれほど大事にはならない。よくその程度で済んだものだ」


 博士が、吊り下げられた私の左腕を見て言います。

 確かにあの高度から落下して、左腕の粉砕骨折で済んだのは奇跡としか言いようがないです。

 まあ、ある程度までは博士のつての医者に頼んで直してもらいましたが。


「枯れ枝の夢は非常に使いにくい代物でな。叶えたいという意思を僅かでももってその願いを口にすれば、願いが叶ってしまう。

願いにある程度の制限はあるが」

「本当にそんなことが起こるなんて思ってもみませんでしたよ。お守り感出すための逸話かと思ってました」

「私も同じ過ちを犯したことがある。なんにせよ、軽はずみに願いを叶えようとしてはいけない。

この枝によって叶えられる願いの過程は極力不幸なものになるからだ」


 博士は説明してくれました。

 水が欲しいといえば、例えば終末的大豪雨が襲って来たり、ともすれば水生生物が威嚇のために突然水鉄砲を飛ばしてきたりなど、

 度合いに差はあれど、不幸を伴って願いの結果を作り出す。


「まあ、長年使い方を模索してきたが、大した願いは叶えられんし、その過程で被害は甚大。そんな代物だが、

まあいい機会だ。お前が使ってみろ。それでいい使い方が見つかったら私に教えなさい」

「実験台にする気満々じゃないですか!?」

「そんな失礼なことは言わない。被験者だな」

「どっちも変わりませんよ!!」


 とは言いますが、実際言われるまで返す気はなかったので結果オーライですね。

 いろいろと面白いことができそうで心が弾みます。


「あと願いで生物に危害を加えることはできない。引き起こされた不幸で死なせてしまうことはあるが基本的には、な。

故に戦闘目的で使用することはお勧めしない」

「まあ、アーティファクトですし。それに、か弱い少女がそんな物騒な願いすると思いますか?」

「まあ、お前だからな」


 バッサリと切られてしまいました。心が痛いです。

 博士からの扱いはいつもこんなものですけれどね。


「さて、もう行っていいぞ。いつまでもぐずぐずするなよ」

「引き留めたのは博士でしょうに」

「引き留めさせたのはお前だろうに」


 そんなこんなで口喧嘩を終え、すたすたと、私は研究所の中央棟の出口へ向かいます。

 さっそく例の現場へ向うとしましょう。

 ファムの森、B区、第3エリアでしたっけ。

 地図は地図はっと。ありました。

 鞄は持った、食糧確認、懐中電灯よし、その他いろいろよし。

 スラちゃんを頭にのっけて、と。

 それでは早速行きましょうか。

 私は枯れ枝を握りしめました。

 外に出た私は、



「私が受ける物理的衝撃を限りなく小さくして、ファムの森、B区、第3エリアに行きたいです」



 そう呟きました。

 直後、羽ばたくような音が聞こえ、大きな鳥が私のバッグに爪をひっかけ飛び去って行きました。

 当然バッグを背負った私も強制的に宙へ浮きます。

 それはもうプラプラと。私の左腕と同様です。


「なるほど、お次はこういう感じですか。次からは普通に歩いていきましょう」


 普通に後悔しました。





















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