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転生女神の英雄譚(リメイク版)  作者: 槻白倫
第1章 女神の始まり
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第8話 魔法

最近忙しくてまともに執筆時間が取れずに遅れてしまいました。また、このようなことがしばらく続くと思います。改めて、ご容赦を。

 ふと、魔素吸収と魔素を抑え込むことが出来るようになったのだから、自分の意志で放出も出来るのではないか、放出したら魔法になるのではと考えた。


 そう考えると、早速魔素を放出してみる。だが、放出された魔素は魔法になることはなくただ放出されるだけとなった。


 だが、今度は放出する箇所を限定したので、全方位ではなく一方向だけに出るようにはできた。


「何をなさってるんですか?」


 手から魔素だけを放出する幸助にロズウェルが訊く。


「いや、魔素を放出すれば魔法になるんじゃないかと思ってな……そんな単純じゃなかったか」


 考えても見れば、魔素を放出するだけで魔法になっているのであれば、無意識に放出されていた魔素も魔法になっているはずである。


 そのことに気付かず魔素を放出していたとなれば、ロズウェルが疑問に思うのも無理はない。


(うわ、恥ずかし! 絶対に馬鹿だと思われたよ……)


 少しだけ恥ずかしい思いをしている幸助。しかし、そんな幸助を馬鹿にするようなことはせず、ロズウェルは納得したように頷く。


「なる程、魔法が使いたかったのですね」


「おう。でも、放出するだけじゃダメみたいだな」


「そうですね。魔法はイメージが大切ですから」


「イメージ?」


「はい、例えばこの様に」


 そう言うとロズウェルの手のひらを上に向ける。


 すると、どこからともなく水が現れ、あっという間に球状に形を形成した。 


 魔法と言う現象を目の前にし、幸助は興奮気味にロズウェルに問う。


「おお~っ!! これが魔法か!?」


「はい、そうです」


 目をきらきらと輝かせ、ロズウェルの手のひらの水球を見つめてツンツンと指でつつく幸助。


「魔法には魔法を使う術者のイメージが必要です。ただ、そのイメージをするのが難しい場合があります。そのイメージを補強する為のものが《詠唱》です」


「詠唱?」


「はい。この様に水球を作るくらいは詠唱など無くとも訳ないのですが、それ以上のものとなると詠唱が必要になってくる場合がございます。慣れれば無詠唱でも出来ますが」


 ロズウェルは簡単にそう言うが、しかし、その慣れるまでが長いのだ。


 発動までの兆候や注ぐ魔素の量。発動後の効果など、それらを体感で覚えるしかないのだ。そのため、魔法師は無詠唱に至るまで何度も同じ魔法を反復練習する。


 そのことを説明していなかったロズウェルだが、説明する必要はないと考えていた。魔素吸収を容易にやってのける幸助であれば、無詠唱ぐらい容易にやってのけると思っていたからだ。


「なる程、イメージか……」


 幸助はロズウェルの説明を聞くと自分の手のひらに直径五センチメートルの水球が出来るのをイメージする。


 すると、幸助のイメージ通りに手のひらには水球が形成されていった。


 直径五センチメートルくらいの水球がふよふよと幸助の手のひらの上で浮遊している。


 その様子に、幸助は興奮気味に喜ぶ。


「おお~! 出来た! 出来たぞロズウェル!」


「はい、とてもお上手です」


 どうやら、この世界の魔法には難しい理論は必要ないらしい。ただ、自分の想像だけがものを言うのだと、考える幸助。


 しかし、先ほども言った通り、無詠唱にはそれ相応の努力が必要である。だが、ロズウェルから説明を受けていない幸助はそのことを知らない。


 そして、このまま水球の形状を変化させることも可能なのではと考え始めた幸助が、そのことに思い至ることもなかった。


 幸助は手のひらの水球を、矢じりのような形状にして近くの木へと飛ばす。すると、水の矢じりは木を三本貫通した後、空中に霧散した。


 その思いもよらぬ威力に戦慄する幸助。


 軽く当たればいいなとイメージしただけなのだが思いの外威力が強かった。威力に修正が必要だなとどこか冷静な部分で考えながらも、その威力に戦々恐々とする。


 若干青い顔をしながらロズウェルに言う。


「お、思いの外威力があったな……」


「ええ、威力の調整が出来るまでは人に向けて使わない方が良いでしょう」


 当たり前の事を話ながらも黙々と歩き続けるロズウェル。


 ロズウェルは、幸助の魔法の威力を見ても慄くことはなく普段通りであった。それは、ロズウェルが強者であり、あの程度の攻撃であれば難なく対処することが可能だからである。


(威力もちゃんとイメージしよう……)


 先ほどの魔法が誰かに当たったことを考えると、冷汗が止まらない幸助は、掌の上で水球をグニャグニャと変化させながら、魔法に慣れようと特訓を始めた。


 そうしてしばらく歩いていると、また何かが近づいてくるのを感じた。今度は、魔法に集中していた幸助ではあったが、周囲に気を配っていたため気付くことができた。


 魔素に対して敏感な幸助は、少し意識してみれば周囲のものが内包する魔素を見分けることができた。それを使い、周囲を気にかけていたのだ。


 しかし、そうした方法を用いて周囲を警戒していたにも関わらず、何者かの接近に気付くのはロズウェルの方が早かった。


(こいつはどうやって察知してるんだろう……)


 気にはなったものの、今は接近してきているものへの対処が先決だ。


 幸助は意識を完全に接近者に向ける。


 接近者が有している魔素の量が、周囲に生えている木々よりもかなり多いことが分かる。そのことから、接近者は十中八九魔物だろうと判断する。


「ロズウェル、降ろしてくれ」


「なぜですか?」


「あれは、俺がやる。魔法を試してみたいんだ」


「そうですか。しかし、降ろしてしまうと危険ですので、このまま魔法をお放ちください」


「誤射が怖いんだが……」


「大丈夫です。私、これでも頑丈ですので」


「むむぅ……」


 ロズウェルが自信満々にそう言うと、幸助としては何も言えない。


 それに、そう言っている内に木々の問から魔物が現れてしまった。


 幸助は、一つ溜息を吐くと、諦めたように言った。


「じゃあ、頼んだ」


「かしこまりました」


 ロズウェルの返事を半ば聞き流しながら、現れた魔物を見据える。


「またお前か……」


 姿を見せた魔物は、先程も現れたタイラントグリズリーだった。


 先ほどのよりも少し小柄だが、それでも幸助やロズウェルよりも大きいことには変わりない。


 だが、幸助はその大きさに臆する事なくタイラントグリズリーに手のひらを向ける。


「悪いが、お前は練習台だ」


 そう言うと幸助は魔法を発動させる。


(イメージは、掌を向けた先、水球四十個、矢じり型に変形)


 そうイメージすると、幸助の前にイメージ通りに水球が四十個現れ、その形を瞬時に矢じり型に変える。


「ほいっと」


 そして四十個もの水の矢じりをタイラントグリズリーに放つ。


 タイラントグリズリーは逃げようとしたが、矢じりの及ぶ面積が広く、逃げ切ることが出来ずにその体を穴だらけにして絶命した。


「ふう……」


 うまくいったことと、ロズウェルに誤射をせずに済んだことに安堵する。


「お見事です。もうここまで魔法を使いこなせるとは……さすがはアリア様です」


「いや、まだまだだ。水球の大きさも威力もバラバラだった。もっと、精密にコントロール出来ないと」


「これほど出来てなお慢心せずに邁進する心掛けを持っていらっしゃるとは……私も見習わせて頂きます」  


 ロズウェルの手放しの賞賛に幸助は若干照れ臭くなる。


 その照れ隠しに幸助は突っ込む。


「慢心せずに邁進ってゴロがいいな。もしかして狙って言った?」


「私のちょっとしたお茶目に御座います」


 にこりと微笑みそう返すロズウェルに、アリアは意外感を覚える。


「ロズウェルもそう言うこと言うんだな」


「ええ、私こう見えて結構お茶目なんですよ?」


 その言葉と同時にウィンクでもしそうな雰囲気ではあったが、主にウィンクするのが不敬に当たるのか、そんなことはしなかった。


 ともあれ、ロズウェルの見た目にそぐわぬ意外な一面を知った幸助は、自分がロズウェルの事をあまり知らないという事に気付いた。だが、それもこれから知っていけばいいだろうと思っている。


 ロズウェルがどんな奴であれ、いい奴であることには変わりはない。昨日今日の付き合いしかないがそれくらいは分かっていた。


 一度、前世で人間不信になった幸助がそう思うのだから間違いはない。人間不信になった分、人の事はよく見ているのだ。


(あ、そうだ)


「なあ、ロズウェル。勇者って、知ってるか? 会ったこと、あるか?」


 幸助は、道中勇者のことを聞こうと思っていたのを思い出し、ちょうど話も一区切りついた今、聞いてみようと思った。


「勇者、ですか?」


「そう。勇者」


「知識としては知っております。ですが、実際にお会いしたことはございません」


「そうか……」


 勇者は幸助と同時にではないが、少し前に送られたのだ。普通に送られたのであれば、時期はずれていないはず。


 それなのにロズウェルが勇者と会ったことがないとなると、勇者が来る前にロズウェルがこちらにいたか、ロズウェルがこちらに来てから勇者が来たかだ。


 まあ、どちらであっても結果としてロズウェルは勇者に会っていないわけなので、その推測に意味はない。


「しかし、私がこちらに来てから勇者がこの世界に来た、と言うのでしたら、そのうち私宛てに書状が届くと思います」


「そうか……」


「一応、帰りましたら、こちらからも確認の手紙を送ってみましょう」


「うん、頼んだ」


 例え手紙がすれ違いになったとしても、向こうが手紙を送った後であった場合は、返信は結構だと書いておけばいいだけだ。


 しかし、そうなると勇者の情報を得られるのがいつになるのかが分からない。


(すぐに書状が届いてくれればいいんだけどな……)


 いつ勇者が来たのか分からない上に、その手紙がいつ来るのかも分からない。そもそも、手紙が送られてきていなかったらこちらから手紙を送る時間も含めて、更に時間がかかることになる。


 焦っていても仕方はないのだが、せめて美結の安否だけでも早く知りたかった。


 焦燥感が募っていく。


「……」


 幸助がなにか焦っていると言うことを、幸助の目と雰囲気で理解したロズウェルであるが、幸助が何に焦っているのか分からなかった。勇者がらみであることは今の会話から何となくであるが理解できたのだが、幸助と勇者に何の因縁があるのかは、分からなかった。


 どんなふうに声をかければいいのか分からないもどかしさから、幸助から視線を外し、前を見るロズウェル。


 すると、ちょうど目的の街の外壁が見えてきたところであった。


「アリア様、見えてまいりました」


 自身の気持ちを誤魔化すように、ロズウェルは幸助に声をかける。


 幸助も、思考を中断し進行方向を見る。


 進行方向には街が見えてきていた。


 ここまでたどり着いた時間として約三十分くらいだろう。徒歩で三十分と言うことはそれほど離れてもいないのだろう。


 馬車などがあればもっと早く着くかもしれない。


「あれが《シーロの街》でございます」


「シーロの街か……」


 思えばこの世界に来て初めてロズウェル以外の人と接触するな、と思いながら街を見やる。


 外観だけで、それなりに大きな街であることが分かる。


 街を覆う大きな壁は真新しいところや古いところがあり、修繕を繰り返しているのが一目で分かる。


 道の先には大きな門があり、検問所と併設しているのか兵士らしき人が立って身分証の確認などをしている。


「アリア様、ここからはこれを着て下さい」


 ロズウェルがそう言って腰にあるポーチから取り出したのは、ベージュ色のフードの付いたポンチョであった。


 とりあえずロズウェルの指示に従い、幸助はそれを受け取ると被るようにして着る。


「何でポンチョなんか着るんだ?」


 着終わった幸助のポンチョのフードを、ロズウェルはアリアに被せながら言った。 


「これから、このシーロの街を治めている、領主のムスタフ伯爵に会いに行かなくてはなりません」


「なにゆえ?」


 貴族に会うと聞いて、露骨に面倒くさそうな顔をする幸助に、ロズウェルは苦笑する。


「私個人としては会いに行かなくても良いのですが、少なくとも門番をしている兵士にはアリア様のお顔を見られてしまうので、遅かれ早かれムスタフ伯爵には、アリア様がシーロの街に来ていることが分かってしまいます。ですので、挨拶にいかないと向こうから迎えにくる可能性があります。そうしますと、騒ぎになってしまいますので、こちらから出向いた方が、騒ぎを小さく収められます」


「別に、俺は貴族じゃないんだ。顔合わせる理由なんてないと思うけど」


 幸助は、女神であっても貴族ではない。それに、そのムスタフ伯爵とやらとは知り合いでもない。幸助が会いに行く必要はどこにも感じられなかった。


 幸助がそう言うと、ロズウェルが申し訳無さそうな顔をする。


私事わたくしごとで大変申し訳無いのですが、私の実家が公爵家ですので会いに行かないと実家の方に迷惑がかかってしまうのです」


「あ、俺じゃなくてお前がまずいのか。て言うか、公爵家の子息だったんだな」


 身なりが整っており礼儀作法もしっかりしているので、どこかいいとこのお坊ちゃんなのではないのかと思ってはいたのだが、まさか公爵だとは思っていなかった。


「それに、例え私がいてもいなくても、迎えには来ると思います」


「それは俺が女神だからだろう? だけど、なんでフードを被んなきゃならないんだ?」


「アリア様は女神様です。よからぬ事を企む者がいないとは限りません。ですので、ポンチョを着ていただいたのです」


 ロズウェルの言に、幸助はなるほどと納得する。


 幸助は、仮にもこの国を象徴する女神なのだ。この国に住むものなら会いたいと思うのは当然である。


 つまりは顔を隠すためと言うことだろう。だが、それにしても大袈裟だと幸助は思った。何せ幸助はロズウェル以外の人間に会ったことがない。つまりはロズウェル以外には顔を見られていないのだ。


(どうでもいいけどロズウェルがポンチョっていうとなんか可愛いな)


 などと、本当にどうでもいいことを刹那的に考えつつ、幸助はロズウェルに疑問をぶつける。


「誰も俺の顔なんぞ知らないはずだぞ? ばれやしないだろ」


「顔を見ていなくても女神かどうかは、一目見れば直ぐに分かってしまうのです」


「え、なんか目印が付いてるとか?」


 そう言って幸助はおでこや顔、体などを見始める。それを見てロズウェルは微笑みながら言った。


「ふふっ、そうですね。目印と言えば目印です」


「ん?」 


 訳が分からないと言う顔をする幸助にロズウェルは言う。


「その髪と瞳は、アリア様以外は持っていません」


「そうなの?」


「ええ、どの人間も持っていませんよ」


 この世界でオンリーワンの髪と瞳だと知り軽く驚く幸助。自分の髪の毛をいじり始めた幸助のフードを、ロズウェルはそっと目深まで下げる。


「そろそろ、検問所につきますので」


 そう言われ進行方向を見ると確かに検問所はもうすぐだ。


 幸助は初めての街に心躍らせながら検問所へ向かった。


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