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転生女神の英雄譚(リメイク版)  作者: 槻白倫
第1章 女神の始まり
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第7話 ダダ漏れ

こちらを投稿し忘れていたので割り込ませました。


申し訳ありませんでした。

 暫く待つと、ロズウェルが服を持ってきた。着替えるためにロズウェルに部屋から出て行ってもらう。


「アリア様。私は玄関で履物の準備をしております」


 今幸助は、靴は履いている。おそらく、その靴も外行きようなのだろう。


「分かった。着替え終わったら玄関に行くよ」


 そう言った幸助は、すぐさま着替えすませるとロズウェルの待つ玄関へと急いだ。


「待たせた」


 玄関には既にロズウェルがいた。服装はいつもと同じ執事が着るような燕尾服と変わり栄えはなかったが、唯一変わっているところがあった。


「なあ、何で帯剣なんてしてるんだ?」


 そう、ロズウェルは腰に軍刀を下げていたのだ。その軍刀は華美な装飾などは施されておらず実戦的に作られていた。


 ロズウェルは腰の軍刀に手を置くと言った。


「アリア様にたかる悪い虫を駆除するためです」


「悪い虫って? なんか、毒でも持ってるのか?」


「いえ、例えでございます。実際には虫ではありません。虫のような見た目である可能性もありますが」


「ん?」


 ロズウェルの説明に訳が分からないと首をかしげる幸助。


「色々とお聞きしたいことはあると思いますが、それは道中でお話しいたします。日暮れ前にはお屋敷に戻れるようにしたいので」


「おう、分かった」


 二人は玄関から出ると屋敷の前の道を歩き始めた。


 屋敷の周りは、窓から見た景色とほとんど変わりなく、人工物の類はまったくなかった。木々はよく手入れをされていて、林と言うか、大きな庭と表現する方がしっくりきた。


 暫く歩くと道を挟むように木々が鬱蒼うっそうと生い茂った道へと変わった。


 それからまた少し歩くと、幸助は何か薄い膜を抜けるような奇妙な感覚に襲われた。


「ふえっ!?」


 思わず変な声を上げて何事かとキョロキョロして確認してしまう幸助に、ロズウェルは楽しそうな顔をしながら説明をした。


「お屋敷の周辺には結界が張ってあるのです。先ほどその結界を越えました。アリア様が感じたものはそれでしょう」


「そんなのがあるなら先に言ってくれればいいのに……」


 口を尖らせて拗ねたように言う幸助に、ロズウェルはにこやかに微笑む。


「失礼いたしました。ですが、この結界は非常に分かりづらく、肌で感じることなど出来る人の方が少ないので、言うのを忘れていました。アリア様はそうとう魔法に対して敏感なのでございますね」


「魔法!? 魔法があるのか!?」


 何気ない会話の中で突然出てきた『魔法』と言う単語を聞いて、目を爛々と輝かせる幸助。それを驚いたような顔をして見ているロズウェル。


「知らなかったのですか? 昨日も発光する魔道具を使ったところをお見せしたのですが」


「え!? 魔道具もあるの!?」


 どうやら、昨日ロズウェルが点けた灯りがその魔道具らしい。


 ロズウェルの口からさらりと出てくる単語の数々。その一つ一つに驚きを示す幸助。


 なにせ、魔法と言えば一度は使ってみたいと思うものだ。その魔法が、今使えると言うのだ。驚くのも当然と言ったことだ。


 それに、この世界には前世と似たような道具が存在すると言う。であれば、生活水準も上がり、暮らしやすくもなるだろう。実際、照明の魔道具を使っていたが、前世と遜色無いくらいに明るかった。


 幸助は、期待に胸を膨らませながら、しかし、それをロズウェルに悟られないようにうまく隠しながら訊ねる。


「なあ、ロズウェル」


「なんでしょうか?」


「もしよければなんだが、俺に魔法を教えてくれないか?」


 身長差で必然的に上目遣いになりながら、頼み込む幸助。幸助としては意図していないが、眉尻を下げ気弱そうな表情をしている。加えて幸助の外見は、あの美しい女神に酷似している。そんな外見的にパーフェクトな幸助の頼みを断れる者はそうはいないだろう。


「元より魔法についてはお教えするつもりでしたので是非もございません。しかし、私はあまり魔法が得意ではございませんので、うまくお教えできるかわかりません。ですので、初歩の初歩となってしまいますが、よろしいでしょうか?」


「ん、大丈夫。ありがとう」


 冷静を装ってそう応える幸助。しかし、内心では思いっきりガッツポーズをしていた。だが、内心だけに収まらず、小さく「よっしゃ」と言ってしまっていたのを、本人は気付いていなかった。


 魔法も教えて貰えると分かりテンションが上がる幸助を、ロズウェルは温かい眼差しで見つめていた。


 だが、次の瞬間ロズウェルの眼差しが鋭い刃物のように鋭利なものに変わり、その視線を鬱蒼と生い茂る木々の中に向ける。そして、庇うように幸助の前に立ち腰の軍刀に右手をかけた。


 ロズウェルの突然の行動に幸助は驚きつつも、ロズウェルの後ろから前へ出ることはせずにロズウェルに訊ねる。


「ど、どうした?」


「いえ、例の悪い虫が来ましたので」


「悪い虫?」


 例えだと言っていたので、盗賊かなにかかと思っていた幸助だが、ロズウェルの言う悪い虫はそんな生易しい者ではなかった。


 地響きが鳴っていることに、幸助もようやく気づき、その地響きが段々とこちらに近づいてくるのを幸助も察知する。


 思わず身構えてしまう幸助。


 そして遂に、それが姿を現した。


 木々をへし折り二人の前に出てきたのは、三メートルを越える熊のような生物だった。“ような”と言うのも、その熊には前脚が四本あったので幸助の知る熊とは大分外見が異なっていた。なので“ような”なのだ。


 幸助の知る熊は、ツキノワグマやホッキョクグマなどで間違ってもこんな巨大で腕が多い熊ではない。


 熊擬もどきは二人の前に立つと威嚇するように丸太のように太い四本の腕を広げた。


「グアラアァァァァアアアッ!!」


 吠える熊擬きを前にしても幸助は案外冷静だった。目の前にいるのは見たこともない異形の者。体躯も大きく、とても体が少女である幸助が勝てる見込みなどないと言うのに。それなのに、幸助は身の危険を全く感じてはいなかった。


 その理由は幸助の前に立つロズウェルにあった。身長は高い方だが、大柄と言うわけではない。美青年ではあるが、他を威圧するような鋭さを持った美形と言うわけではない。


 相手を威圧する要素は皆無だと言うのに、ロズウェルは他を圧倒しその存在を際立たせていた。その際立ち方は見た目で目立つと言うものではなく、圧倒的強者としての存在感であった。


 戦いのことなど素人である幸助が感じ取れたのだ、熊もどきが感じ取れないはずがなかった。


「グ、ルオアァァァ……」


 何とか唸り声を上げるものの、その唸り声が虚勢であることは幸助にも理解できた。


 ロズウェルは後ろの幸助に威圧感を出している本人とは思えないほど、柔らかく微笑む。


「ご安心ください、アリア様」


 ロズウェルが言ったのはたった一言。しかし、その一言で幸助はこれまでにないほど安心感を覚えた。


 前を向きなおすと、手をかけていた軍刀を抜き放つ。


 抜刀したロズウェルは完全に戦闘態勢に入り目の前の魔物を見据えた。威圧感だけで逃げてくれるようであれば大した魔物ではないので無視するつもりであったが、虚勢を張っていたとしても目の前に立っているこの魔物は、放っておくには危険だと判断したのだ。


 この熊のような魔物は《タイラントグリズリー》と言う魔物だ。


 タイラントのように四本の腕を持っているからタイラントグリズリーと言われている。タイラントは亜人型の魔物でこのタイラントグリズリーよりも知性があり腕力もある。


 なので、この魔物とは脅威の度合いが違うのだが、このタイラントグリズリーもそれなりに厄介な魔物だ。中級の冒険者や王国騎士でも手を焼くそれなりに強い魔物だ。


 ロズウェルは不適に笑うと剣を体の前に立て、少し前に傾けるようにして構える。


「逃げるなら今のうちですよ?」


 一度警告を発するも魔物が人の言葉など理解出来るわけもなく吠えられるロズウェル。


「いや、なに聞いてんの?」


 若干呆れた声で聞いてくる幸助。


「いえ、もしかしたら人語を理解できるかとも思いましたので」


「いや、明らかに理解出来ないだろあいつは」


 確かにそうなのだが万が一と言うのもある。相手が言葉を理解できるのなら説得して引いて貰うに越したことは無いとロズウェルは考えていた。


 だが、それも無理なようなので実力行使に気持ちを切り替える。


「失礼します」


「は?」


 ロズウェルは一言断りを入れると幸助を、左腕で抱きかかえる。


 戦っても良いのだが幸助を放ってと言うわけにもいかないからだ。


「え、ちょ」


「しっかりと捕まっていてください」


「まっ!」


 幸助が何かを言おうとしていたが、それを無視してロズウェルは駆ける。なぜなら、タイラントグリズリーが迫っていたからだ。


 勝負は一瞬だった。


 距離を詰めてくるロズウェルにタイラントグリズリーはその剛腕を振り下ろす。それをロズウェルは難なくかわすと振り下ろされた腕を足場に一気にタイラントグリズリーの頭まで跳躍しその頭に軍刀を突き立てた。そのまま頭を踏み台に跳躍し地面に静かに着地する。


 数秒後タイラントグリズリーは電池の切れた玩具のようにその場に動かなくなり、崩れ落ちるように倒れた。


 戦闘があったと言うのに、服に乱れの一つもないロズウェルは幸助に言う。


「終わりました」


「お、おお~。凄いな、瞬殺だ……」


「お褒めに与り光栄でございます」


 お礼を言いつつロズウェルは死体となったタイラントグリズリーに近づきその頭を持つとタイラントグリズリーが出てきた方へと放り投げた。


 およそ二トン以上はあるだろうその巨体を彼は片腕で放り投げたのだ。その事に幸助は目を丸くして驚く。


 そんな幸助をちらりと見るとロズウェルは言った。


「アリア様、町に着くまでは私が抱えて行きます」


「え、なんで?」


「抱えていた方が迅速に対処できるからでございます」


 言われ、考える。


 確かにいちいち戦闘の度にいちいち幸助を抱えていたら、それだけ相手に隙を見せてしまう事になる。それに、幸助も一応護身術を修得しているが護身術はあくまでも対人戦を想定したものだ。先ほどの戦いを見たところ、とても、魔物に通用するとは思えなかった。


 その事を考えるとロズウェルの案に乗った方が良いだろう。


「う~ん……確かに……でも…………」


 確かに、それが一番安全ではあるのだが、男に抱っこされると言うのも精神的に辛いものがある。


「うう~~~~ん……」


 しかし、安全を考えるのであれば、やはりロズウェルに抱えられていた方がいいのだろう。


 一時の恥よりも、未来の安全だ。


「分かった。それじゃあよろしく頼む」


「かしこまりました」


 ロズウェルは了承を得ると歩き始める。


「そう言えば、さっきの何だったんだ?」


「あれは、タイラントグリズリーと言います」


「いや、固有名じゃなくてだな。あいつらみたいなのを総じてなんて呼んでるんだ?」


「そう言えば説明していませんでしたね。あれは《魔物》と言うものです」


「魔物……」


 魔法があるからいるかもしれないと想像していたが、どうやら本当にいたらしい。事前に予想をしていたためかそれ程驚きはない。


 それに、あんな奇怪な生き物がこの世界で言う動物と言う可能性もあったのだが、そうでないようで少し安心した幸助。


 わりと動物が好きな幸助は、知っている動物があのように奇怪に変化していたら素直に可愛がれるかが不安であったのだ。


「人間に限らず、この世界の生物には《オド》と言うものがあります。オドと言うのは所謂《魂》です。人間はそのオドから魔素まそを捻出しています。魂の力が強ければ強いほど、その捻出される魔素の質は良いものに。量は、より多くなります。しかし、稀ではあるのですが、魔素が多くとも魔法をうまく行使できないものもいます。」


「え、その場合そいつはどうなるんだ? パンクとかしないのか?」


 魔素が捻出され続けているのであれば、魔素の入れ物である体が許容量をオーバーして、爆発しそうであると考える幸助。


「魔法として行使できなくとも、魔素を体外に放出することはできます。それで体内の魔素量を調整しているのです。それに、魔素の捻出を少なくすることもできますよ」


 ですから、ご安心くださいと言い、安心させるように微笑むロズウェル。


 間近で見たロズウェルのイケメンスマイルは、精神的に同性である幸助ですら赤面させるほどであった。


 思わず赤面してしまったことを自覚すると、ふいと顔をそむける幸助。


 そんな幸助に気付いたのか、はたまた気付いていないのか。ロズウェルは説明を続ける。


「逆に、動植物はその魔素を使えるものと使えないものがいます」


「へ、へ~」


「魔物は、その魔素を行使することのできる動植物の事です。行使すると言っても、低級程度の魔物であれば自身の肉体を強化するくらいが関の山ですが」


「なるほどなぁ……」


「それと、補足ですが、空気中にも魔素は漂っています。空気中の魔素を寄せ集めることで魔法を行使することも可能です。ですが、自身の魔素ではないため扱いは難しいです」


 やはり、この世界には幸助の知らないことが多い。闇雲に動くより情報を集める方が先決だと判断したのは間違いではなかった。


「先程の魔物は、恐らくアリア様の魔力に引き寄せられたのだと思います」


「俺の?」


「はい」


 自分の魔力は魔物を引き寄せるフェロモンでも含んでいるのだろうかと考えていると、ロズウェルから解説が入る。


「魔物は魔素の量が多い者に惹かれやすいのです。私も多分に魔素を保有していますが、今はそれを抑えています」


「そうなの?」


「はい、アリア様も直ぐ出来るようになりますよ」


 ロズウェルはそう言うとにっこりと微笑んだ。


 ロズウェルにそう言われ試しにやってみることにした。と言っても幸助は自分の中にある魔素と言うものをまだ理解できていない。


 どういうものが魔素なんだろうと考える。が、しかしまったくわからない。


 幸助が難航しているのを察したのか、ロズウェルがアドバイスを入れる。


「ご自身の中に意識を向けてみてください。そうすれば、魔素の流れが分かります」


(中……)


 ロズウェルのアドバイス通り、幸助は精神を研ぎ澄ませ、自身の中に意識を向ける。すると、自身の体内に流れる何かを感じ取ることができた。


(これか? 案外簡単に分かるんだな……)


 体内を流れる魔素を感じ取ると、今度は、その魔素が体外に漏れ出ているのを感じる。  


(漏れ出てるって、これだよな)


 思っていた以上に魔素が漏れ出ていたことに苦笑する幸助。


(めっちゃ漏れとる……)


 試しに、その抜けていく魔素を吸い込むようにイメージしてみた。


「っ!?」


 すると、ロズウェルが急にバランスを崩し倒れかけた。何とか倒れることはなかったが、少し驚いた顔をしていた。


「アリア様、先ほど私の魔力がアリア様に吸収されていったのですが……それに周囲の魔素まで……」


 どうやら、加減を間違えたらしい。幸助を抱いているロズウェルの魔素と空気中の魔素まで吸ってしまったことに多少驚く。


「ごめん、わざとじゃないんだ。ちょっと出て行った魔力を吸い戻せないかと試してみたんだ」


「そうでしたか。《魔素吸収マナ・ドレイン》を試しにで出来るとは……さすがでございますアリア様」


 敬服したように言うロズウェルに、自分がどんな事をしたのか分かっていない幸助。


 ロズウェルはなれた調子で幸助に説明をする。


「魔素吸収とは、文字通り魔素を吸収する事です。ですが、これはなかなか出来ることではありません。多くの魔法師は自分の魔素を操るのが関の山で、空気中や相手から魔素を吸収するなどと言うことは出来ません。かく言う私も抑え込む事しかできません。それに、自分のでは無い魔素を吸収すると体が拒絶反応を起こすのです。ですので、使えても相手を選んでしか使えないのです」


 どうやら、とんでもないことをしていたと理解する幸助。


「と言うことは、俺も相手を選んで使った方が良いのか?」


「そうですね。アリア様は私と空気中の魔素の二種類を同時に吸収してもなにも起こらなかったので、大した問題はないと思われますが……。しかし、安全のため相手は選んだ方がいいでしょう。耐えられたのは、女神の体ゆえの特性でしょうが、あまり過信はしない方がいいですね」


「なる程。なんだか悪食あくじきみたいだな」


 とても、珍しい技だと言うことはよく分かった。人前ではあまり使わない方が良いだろう。


 そう考えると、今度は、自分の魔素を抑えようと試みる。


 出て行く魔素を体に留めるように強くイメージする。すると、放出する魔素が止まったのが分かった。


「出来てる?」


 自分の感覚だけだと少し心配なのでロズウェルに聞いてみた。


「出来てますよ。お見事です」


 どうやら、出来ているらしかった。


 ダダ漏れ状態から脱却できたので、よかったと一安心した。


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