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転生女神の英雄譚(リメイク版)  作者: 槻白倫
第1章 女神の始まり
18/59

第18話 それぞれの戦い

2017/09/25加筆修正

 幸助とロズウェルはそうと決まればすぐさま行動に移した。


「ハイロはこのことを伯爵に伝えに行ってくれ」


「いえ、その必要は無いかと。もうすでに目視できるところまで来ております。じき――」


 ロズウェルの言葉を遮って、カンカンと金属同士のぶつかり合う甲高い音が響き渡った。


「このように、鐘が鳴らされるでしょうから」


「そうか。それじゃあ、ハイロはここに居て皆を安心させてやってくれ」


 隣の部屋では鐘の音に驚いたユニとニケが起きてきていた。二人を安心させられるのは、頼れる兄であるハイロだけだ。


 ハイロもそれが分かっているのか、覚悟を決めた表情で頷く。


「アリア様、どうかお気をつけて」


「ああ」


「ロズウェルさんも、どうか」


「かしこまりました」


 二人は、ハイロの言葉に力強く返すと、すぐさまかけて行く。


 一瞬の内に家を飛び出して行った二人。その背中はもう見ることができない。


「兄さん、なにかあったの?」


 隣の部屋から、不安げな顔をしてユニとニケが出てきた。


「大丈夫だよ。今、お二人が向かったところだから」


 ハイロが安心させるような声音でそう言えば、二人とも事情を察したのか、納得したような顔をする。けれど、その顔は浮かず、不安げな顔をしていた。


「あーちゃん、だいじょうぶ?」


 ニケが不安になってハイロに訊ねる。隣にいるユニも同じ気持ちなのか、こうこくと頷いていた。


 そんな二人に、ハイロは優しい笑みを浮かべた。


「大丈夫。二人が心配してるってこと、お二人は知ってるから。だから、ちゃんと戻ってくるよ」


 そう、あの二人は――と言うよりも、あのロズウェルは強いのだ。


 お世辞でもなんでもないが、メルリア王国は数で押さず個で覆す戦いが得意だ。しかし、圧倒的な数を覆せる個などそういるものでもない。にもかかわらず、このメルリア王国には一騎当千の猛者が数多くいる。


 一人で戦況を覆し、勝利を収める、そんな強者が多いのだ。


 そして、そんなメルリアで剣の頂点に立つということは、並み居る猛者を蹴散らさなくてはいけない。


 ロズウェルは、並み居る猛者を全て蹴散らし、今から二年前――当時十四歳と言う異例の若さで最強の剣士の称号を手に入れたのだ。


 そして、その地位を一度も譲ることなく不動のものとしている。それがどれほどの偉業なのかは語るまでも無いことだろう。


 そんな、メルリア、ひいては世界でも右に出る者はいないとされるほどの剣士であるロズウェルがいるのだ。最早、この街は守られたと言っても過言ではないだろう。


 だからハイロは、安心して二人の帰りを待っていられる。


 けれど、だからと言って心配しないと言うわけではないのだ。頭ではロズウェルの勝ちを理解していても、もしもがあったらと不安が鎌首をもたげる。


(いけない。俺まで不安になったら、二人が不安になっちゃう)


 ハイロは不安に歪みそうになる顔をどうにかして取り繕う。


「ハイロ! いるか!?」


 笑顔が崩れそうになったとき、玄関の扉が勢いよく開け放たれる。


 そこには、肩で息をする兵士の先輩であり、近所の兄のような存在――ソロージが立っていた。


「魔物の襲撃だ! 俺たちにも招集がかかってる!」


 焦った顔で言うソロージに、ハイロは顔を引き締める。


 この街で《女神アリア》がいることを確実な情報として知っているのは、恐らく伯爵とウィル、その他伯爵家に仕える者たち、そしてハイロたちだ。


 だから、二人が魔物の群れを迎撃に向かったことをソロージは知らない。だから、ソロージは慌てている。


 多分、他の住民も同じ気持ちだ。


 大丈夫だと分かる心の支えがあるのはハイロたちだけ。でも、それだけじゃいけない。ハイロは、守られるために兵士になったわけじゃない。家族を養って、大好きな街を守りたかったから兵士になったのだ。


「ごめん、ちょっと行ってくるね」


 ハイロは優しく妹二人にそう言葉をかけると、サリに目配せをする。サリは何も言わずに微笑みを浮かべながら頷く。


「先輩行きましょう」


「お、おう。なんだよ、なんか、今日のお前たくましいな……」


「そうですかね?」


 もしそうであったら、それは二人の影響を少なからず受けている証だ。


 二人が街を守りたいと思うように、ハイロだって街を守りたいのだ。二人の、不器用な主従の熱い想いがハイロの心にも飛び火して、覚悟と使命という炎を燃やしているのだ。


「じゃあ、行ってくるね」


 ハイロは、ボロボロだが頑丈な兵服の上着を着る。


(俺は俺にできることをします。ですから、どうか――)


 ここから先はハイロのただの願いだ。けれど、願わずにはいられない。


(街を守ってください)


 ハイロはソロージを伴って走り出した。大切なものを守るために。



○○ ○



 街の中を二つの影が全速力で駆け抜ける。


 片方は銀。月夜を反射して光り輝く銀色の髪は、この世にたった一人しかいない者の証左。しかし、あまりにも速過ぎて住人には銀色の光の帯が通ってるくらいにしか認識できない。


 片方は黒。宵闇を纏ったかのような色の服に、黒髪黒目の少年。黒髪黒目はこの世界でも珍しくないが、ここら一帯では茶髪が多いため少しばかり珍しかった。けれど、常人が目で追いかけられないほどの速度で走っている彼は黒い何かが通り過ぎているくらいにしか認識されない。もしくは、闇に紛れてしまい見つけられなとかであろう。


 そんな二人――幸助とロズウェルは、規格外の速さで街を囲む巨大な壁へと向かっていた。


 門を出てむかうのでは遠回りになってしまうので、壁を越えて行こうとしているのだ。


 ロズウェルは、無論容易に壁越えをできるが、幸助にいたっては出来るかどうかは半信半疑であった。


 この世界に来てから異様に体が軽かった。最初は、小さくなったからいつもよりも体が軽く感じるのかとも思ったが、こうして走ってみて、どうやら、そうではないということが分かった。


 軽く一歩を踏み出すだけで、とてつもない膂力が引き出され、想像よりもずっと速い速度で駆けることができた。


 一歩、一歩と踏み出すごとに加速していき、今では常人には捉えられない速度で走っていた。


(こりゃあ驚いた……本当に人外になっちまったんだなぁ……)


 人の形をしていても、女神は神様なのだ。人よりも優れていて当然と言えた。


(しっかし、俺の速度も大したもんなのに、それに付いて来るロズウェルっていったい……)


 幸助がちらりと後ろを見れば、幸助の速度に余裕で付いて来るロズウェルの姿が。


(最強の剣士、一騎当千は伊達じゃないってか……?)


 おおかた、ロズウェルは人類の枠から外れた規格外なのだろう。でなければ、幸助の速度に簡単についてこられるわけがないのだから。


(まあ、敵じゃないなら頼もしい限りだな)


 確かに、ロズウェル程敵に回したら恐ろしく、味方にしたのならば心強い相手はいないだろう。


 しかし、だからと言って幸助の安全が保障されているわけではない。戦場に出れば、死の確立は付きまとってくる。その確率がどれほど低くとも、それはいつも戦場に立つ者の首に鎌を突き立てているのだ。油断など、出来るはずもない。


 しかし、緊張しすぎてもいけない。幸助は肩の力を抜こうとするが、これがなかなか難しい。


(まあ、初めての戦場なんだから、緊張して当然か)


 まともな戦闘はこれが初めてだ。道中出会ったタイラントグリズリーとの戦いは、前哨戦、いわばチュートリアルみたいなものだ。まあ、魔法しか試せていないから、ちゃんとしたチュートリアルと言うわけではないのだが……ともあれ、まともな戦闘は初めてだ。きちんと戦況を見て魔法を放たなくてはいけない。


「そういえば、ロズウェルさ」


 幸助は、緊張を少しでも解きほぐすためにロズウェルに声をかけた。


「はい。いかがいたしましたか?」


 幸助が声をかければ、常と変わらぬ声音と表情で返してくるロズウェル。そんなロズウェルのいつも通りの姿勢に、少しだけ肩の力が抜けた気がした。


 緊張しているロズウェルなんて想像できないが、それでも少しくらい強張っていてもいいだろうにと、呆れたような笑みが浮かんでしまう。


「ハイロと、随分仲良さげだったな」


「はい。ハイロとは、友人になりましたので」


「え、マジで?」


 ロズウェルの言葉に、幸助は驚愕を表す。


 確かに、仲良さそうだと思っていたが、まさかもう友人になっているとは思わなかったのだ。


 自分が人付き合いが苦手なのに、従者であるロズウェルが人付き合いが得意であった事実に、幸助は理不尽な怒りを覚える。


「お前、人付き合い得意なんだな……」


「いえ。ハイロが人の懐に入ってくるのが上手なのです」


 幸助の少し湿度の込められた視線に、ロズウェルは常と同じ声音で答える。


「そうか~?」


 ロズウェルの言葉に、幸助は頭に疑問符を浮かべる。しかし、思い返していくと、幸助とロズウェルの仲を取り持ったりと、随分と迷惑をかけたことを思い出す。


 確かに、今日あったばかりの相手の仲を取り持つなんてそうそうできることではない。泣いたりおどおどしたりする印象が強かったため、思わず否定的な声を出してしまったが、そう考えると確かにと納得できた。


「……うん、確かに……」


「私は相変わらず人に対しては不器用でございます」


「うん、まあ、それも確かに……」


 ロズウェルの言葉に、幸助は先ほどのことを思い出す。


 幸助も、ロズウェルも人付き合いが苦手だ。二人とも、あえて人に近づいていかなかったのだから、自業自得と言われればそれまでだ。


 けれど、二人には近づきたい、知りたいと思える相手ができた。


 未熟なのは二人とも同じだ。なら、どうやってその未熟な部分を克服していくかだ。


 それには、いっぱい話をする必要があるだろう。いっぱい、同じ時を過ごす必要があるだろう。


 付き合っていきたい人も多い。今まで通りの付き合いを望む相手も多い。捜しだして、感謝をしたい相手も、謝りたい相手もいる。


 だから、死ねない。死なせない。


「とりあえず、そこらへんは帰ってからよ~く話そう!」


 幸助がそう言うと、ロズウェルは少しだけ目を見開いた。


「よく考えれば、俺たち出会ってまだ二日だ! そりゃあ、お互いのこと知らなくて当たり前だよな!」


「はい」


「だったら、いっぱいおしゃべりしよう! 覚悟しとけよ? めっちゃ質問とかしまくるからな?」


「はい。私、ちょっとやそっとでは斃れませんので、何時間でもお付き合いいたします」


「ははっ、そりゃあ心強いわ」


 それ体力の使いどころ間違ってるだろ? だなんて、野暮なことは言わない。幸助もロズウェルと仲良くなりたいから、だから、ロズウェルのその行為に甘えるのだ。


 と、そうこうしているうちに壁の目前まで迫っていた。


 幸助は意識を切り替える。肩の力は、もう程よく抜けていた。


 この後、やりたいことができた。知りたいことがたくさん増えた。だから、守る。


 少なくとも、ここには幸助が関わってきた誰か(・・)がいるのだ。だったら、その誰かを守るために、戦ってやる。


 自身と関わった誰かが死んでしまうだなんて悲しいし、後味が悪い。


 それに自分の心を偽れないくらいに繋がりを持ってしまった人たちもいるのだ。


 幸助は足に力を込める。


「それに!」


 走ってきた速度そのままに、地を蹴りつけ宙高く飛びあがる。


「未来のメイドちゃんもいることだしな!!」


 そう声を張り上げながら、一度の跳躍で見事壁の上まで来ることができた幸助。


 その後に続き、ロズウェルが涼し気な顔で壁の上に降り立つ。


「あれが魔物か……」


 壁の上まで来れば、その姿を見ることができた。


 街に迫る有象無象の集団。その集団を見て、幸助は思わず息を飲む。


「ははっ、どう思うロズウェル? こんな夜中に集団で来るって。どこかで大規模なパーティーでも開いてるのかね?」


 しかし、幸助は気丈にもそう冗談を言って己を落ち着かせる。


「どうでしょう。探せばパーティーを開いているところは見つかるかもしれませんが、すくなくとも、この近辺の貴族家からはそのような通達はありません」


「じゃあ散歩でもしてるのかね? ほら、今日って月が綺麗だろ?」


「確かに、アリア様の御髪(みぐし)がより一層輝くほど良い月です」


「ふふん、だろう?」


 そう言って幸助は得意げに髪を払う。


「さてまぁ、冗談はさておいてだ。大分緊張もほぐれてきた! 行くぞ、ロズウェル」


「かしこまりました」


 緊張も大分ほぐれた。手も足も問題無く動く。


「ロズウェル、足止めってできる? 一瞬、あいつらの脚を止めるだけでいいんだけど」


「お望みとあれば」


「じゃあ、任せた」


「かしこまりました」


 綺麗に一礼をした後、ロズウェルは軽い足取りで壁から飛び降りた。


 ロズウェルが飛び降りた瞬間、幸助は魔力を溜め、イメージをする。


 幸助が魔力を溜めているのを背後で感じながら、ロズウェルは主が何を考えているのかを悟り、足止めの方法を決める。


 地面に降り立ち、軽い足取りで数歩前へ進めば、ロズウェルはすぐさま抜刀して、自らの足元に向けて剣を振るう。


 直後、轟音を響かせてロズウェルの足元を中心に(・・・・・・)横一列の巨大な亀裂が走る。


 その亀裂はゆうに百メートルを超えており、ロズウェルがどのような威力を持って剣を振るったのかが伺えると同時に、ロズウェルが見せる余裕の態度が、ロズウェルがまだまだ本気でないことを相手に知らしめた。


「ここが最前線(フロントライン)です。ここから一歩も通す気はありません」


 ロズウェルが威圧を込めてそう言えば、言葉が通じていないにもかかわらず、ゴブリンたちの脚がぴたりと止まった。


 その瞬間を、幸助は待っていた。


 壁の上から飛び出すと、空中で、魔力を溜めた右手を軽く開いた状態で後ろに引き絞り、左手を、照準を合わせるように前へ突き出す。


 そして、十分に射程内だと感じた瞬間、右手を勢いよく突き出す。


「《氷ノ巨大蛇(アイスサーペント)!!》


 瞬間、大質量の一本の氷がうねるようにして飛び出てきた。その様子はまるで蛇のようで、まさしく氷の巨大蛇と呼ぶにふさわしい威容であった。


 氷ノ巨大蛇が冷気をまき散らしながら(あぎと)を広げ、ゴブリンの群れを呑み込んだ。


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