第15話 三人娘と男子二人
ちょっと余裕ができたのでまたちょくちょく投稿します。
他作品も投稿する予定ですので、よろしければそちらの方も。
「あいつら、何話してるんだ?」
仲良く話をしているように見えるロズウェルと、ハイロ。その二人の声が、内容までは分からなくともこちらまで聞こえてきたのでそちらに少しだけ意識が向く。
しかし、何を話しているのか分からないので、気にしても無駄だと思い、幸助は目の前のことに意識を向ける。
今幸助たちは、公園に咲く野花を摘んで、花冠を作っているところだ。幸助は、美結にせがまれてよく花冠を作っていたので、簡単に作れてしまうのだが、ユニとニケはそうもいかないらしく、少しばかり苦戦をしていた。
「こうですか、アリア様?」
「そうそう。そこを下に通すんだ」
「こう、ですか?」
「うん、上手上手」
ユニとニケが時折やり方を訊いてきて、幸助はそれに丁寧に答える。
教えながらも、幸助はさくさくと花冠を作っていく。
そうして、二人が作り終わるよりも早く、二つの花冠を完成させた。
「ユニ、ニケ、ちょっとこっち向いて」
幸助がそう言えば、素直にこちらを向く二人。そんな二人を可愛いなぁと思いながら、作った花冠を二人の頭にそっと乗せる。
「うん、似合ってる」
「あ、ありがとうございますっ」
「ありがとうっ!」
ユニは若干恐縮しながら、ニケはにこにこと喜色満面にありがとうと言う。
そんなニケに、ユニが慌てたように注意をする。
「こ、こらニケ! ちゃんと、ございますをつけなさい!」
「いいよ、別に。むしろ、普通に話してくれた方が、俺的には落ち着く。ユニも普通に話してくれていいんだよ?」
「い、いえ! そんな恐れ多いことできません!」
「別に、恐れ多くも無いんだがなぁ……」
幸助は、確かに女神なのだろうが、元はただの一般人だ。なので、普通に接してくれた方がやりやすいのだが、この世界の人たちにとってはそうもいかないのだろう。
ロズウェルが言っていた。幸助が良いと言っても、周りが良しとしない時もあると。
けれど、今は三人しかいないのだから、普通に話してほしいのだが……。
(まあ、強要するわけにはいかないしな……)
幸助が普通に話せと言えば、恐らくユニは普通に話してくれるだろうが、それはなんだか違う気がした。幸助としては、言われたからでは無く、自分の意思で普通に話してほしいのだ。
だから、命令では無く、お願いしてみる。
「慣れてきたらでいいから、俺と普通に話してくれるか?」
幸助がそう訊けば、ユニは少し逡巡した後、こくりとゆっくり頷いた。
「あ、あの、アリア様が良ければ……その、慣れたときにでも……」
「うん、ありがとう。あ。あーちゃん、とか、ありちゃんって呼んでもいいんだよ?」
「そ、それはハードルが高すぎますっ」
茶化したように愛称で呼んでも良いといえば、慌てたように両手と首を振って拒否をするユニ。
そんなユニの様子に、幸助はくくっと人の悪い笑みをこぼす。
「あーちゃん……?」
笑っていると、ニケが小首を傾げながら先ほど言った愛称を呟く。
そのことに、幸助とユニは驚き目を見開く。とは言え、二人とも驚きのベクトルは違うのだが。
幸助はすぐに我に返ると、喜色を浮かべてニケを見る。
「そうそう。あーちゃんって呼んでいいからな?」
「あーちゃん」
「そうそう。良い子良い子」
愛称で呼ぶニケを、花冠を壊さないようにかいぐりかいぐりと撫でる。
ニケは気持ちよさそうに目を細めて笑う。
その光景を見て、ユニはほっと一安心と言ったように息を吐く。
そんなユニに、幸助は苦笑する。
「なあユニ。別に俺とは普通に接してくれていいんだよ? 別に俺はそんなことで一々怒ったりしないし」
そう言って、幸助はニケを抱き上げて胡坐をかいた自身の脚の上に座らせる。ニケは、特に抵抗することも無く成すがままになっている。それどころか、嬉しそうに頬を緩めていた。
「で、でも、その……不敬ではないでしょうか? アリア様は、女神様なわけですし……」
「不敬だと思ったらこんなことしないし、二人とも一緒に遊んでないよ。そもそも、俺は堅苦しくされる方がいやだ。なんか距離感じるし」
ニケが幸助の胸に頭を預ける。
幸助はそんなニケのお腹辺りに腕を回して軽く抱きしめる。
「こんなことだって普通にするし、全然不快じゃない」
幸助にとってこういうことは初めての体験で、人と接することは好ましくすらあった。
「まあ、でも、お前たちが俺のことをどう思っているのかは、理解してるつもり。だから、それを押し付けたりはしないよ。けど、俺は普通にしてくれるのが一番嬉しい。それだけは覚えておいて欲しい」
「……はい」
幸助の言葉に、神妙に頷くユニ。
見た目と行動通り、ユニは真面目なのだろう。だから、こうしてほしいと言われても、簡単に融通を効かせることができない。
そんなユニに対して、自分の気持ちを話し過ぎてしまったかなと、少し心配になる幸助。
ユニは真面目だから、幸助の言葉をそのまま素直に受け取って、そうしなくてはいけないと思ってしまいそうだからだ。
「あーちゃん、できたっ!」
幸助とユニが話している間に、ニケが花冠を完成させたようだ。
少し歪な形をしているが、ニケくらいの年齢の子が作ったものにしては、うまいだろう。
「うん、上手。よくできたね」
「うん!」
幸助が褒めながら頭を撫でれば、ニケは嬉しそうにニコニコと微笑む。
「ん!」
「ん? どした?」
ニケはすくりと立ち上がると、幸助の膝の上から退く。
そして、ユニも前に行くと、ユニの頭に花冠を乗せる。
「お姉ちゃんに上げる!」
「え、あ、ありがとう」
ニケに花冠を貰い、嬉しそうに頬を緩めるユニ。その様子を微笑まし気に見る幸助。
「良かったな、ユニ」
「はい」
幸助の言葉ににっこりと微笑んで応えるユニ。
そんなユニの膝に、ニケが座り、また花冠を作り始める。
「こんどは、あーちゃんにあげる!」
「ありがとう。じゃあ、楽しみにしてるな」
元気よくニケがそう言えば、幸助は顔を綻ばせてお礼を言う。
そこで、丁度良く、幸助が作っていた追加の花冠が二つ出来上がった。
「ちょっと、渡して来るわ」
「あ、はい」
幸助は立ち上がると、ロズウェルとハイロのいるところまで向かう。
駆け足で向かい、二人の前に着くと、幸助が立ち上がった時点から幸助の動向を見守っていたロズウェルが訊ねる。
「アリア様、いかがなされましたか?」
「いや、これ渡そうと思ってさ」
そう言って、幸助は二つある花冠を見せる。
「と言うわけで、ロズウェルしゃがんで」
「かしこまりました」
幸助が言えば、ロズウェルは即座に身を屈めて、頭を幸助の手が届きやすい位置に持っていく。
幸助は、ロズウェルの頭に花冠をそっと乗せる。
花冠が乗った後、ロズウェルは頭を上げる。いつもと同じように頭を上げているのに、花冠が落ちる気配はない。それどころか、ずれ一つないのだからとてもないバランス感覚と言えよう。
そのことに少しばかり感動を覚えながらも、頭を上げたロズウェルを幸助はまじまじと見る。
きりっと凛々しい面、黒を基調とした執事服。腰に下げた過度な装飾がついていないながらも、美麗さを湛える軍刀。そして最後に、花冠。
……正直に言ってしまえば――
「似合ってない……」
である。
幸助があつらえた花冠は、公園の野花で作ったといえ、慣れているだけあってそれなりにいい出来だ。ほころびは少なく、大小のサイズも整えてある。
けれど、その花冠は『可愛い』であって『綺麗』では無かった。
ロズウェルの顔は整っている。しかしそれは、可愛い系ではなく綺麗系である。そのため、可愛い花冠が頭に乗っていては、どうも違和感があるのだ。
それが直ぐに分かったからこそ、率直に似合わないと言ってしまった幸助なのだが、何事も言わぬが花であることもある。
「そうですか……」
幸助の言葉に、しょんぼりと肩を落とすロズウェル。例によって、表情には出ていない。
「あ、べ、別に、悪く言いたいわけじゃないんだぞ? ただ、綺麗なロズウェルには、可愛い花冠ってあんまり似合わないって思っただけで、だから……」
しどろもどろになりながら、弁明をする幸助。
しかし、ロズウェルとしては幸助の期待に添えられなかったから肩を落としただけで、似合わないと言われて傷ついたわけでは無い。
「いえ、ご期待に添えられず、申し訳ございません」
弁明をする幸助に、ロズウェルが綺麗に一礼をして謝罪をする。勿論、花冠は落とさない。似合わないと言われても、幸助から賜ったものなのだ。それを落とすような愚を犯すようなことを、ロズウェルがするはずもない。
「ロズウェルが謝ることじゃないだろ! 俺が余計な事言ったんだから、俺が謝るべきなんだ! ごめんなさい!」
そう言って、幸助が頭を下げる。
その姿に、今度はロズウェルがわたわたと慌ててしまう。
「そ、そんな! 頭をお上げくださいアリア様!」
「い・や・だ! 俺が余計なことを言ったんだから、俺が謝るのが筋だ!」
ロズウェルに言われるも、かたくなに頭を上げない幸助。
確かに今回のことは、幸助が口を滑らせたのがいけない。沈黙は金、雄弁は銀だ。まあ、多少意味合いは違ってくるが、いらぬことを言ってしまったことには変わりない。
今回は、幸助が謝って正解なのだが、ロズウェルは未だ自分の正しい身の振り方を理解していない。本来であれば、ここは、角が立たぬように主を立てながら謝罪をやんわりと受け取るのが正しいのだが、今までのことや、幸助の他の貴族とは違う態度に、どうすれば良いのか分からなくなってしまっているのだ。
結果、幸助はかたくなに頭を上げず、ロズウェルは慌てるしかない。
二人だけであれば、しばらくこの気まずい空気が続いただろうが、幸いなことにここには第三者であるハイロがいた。
「お二人とも、もうその辺でいいんじゃないですか?」
ハイロはやわらかな口調で二人に声をかける。
「今回は、アリア様が口を滑らせてしまったのがいけないです。けど、アリア様には悪意は無かったんですよね?」
「ああ。綺麗系なロズウェルには似合わないと思っただけで、別にロズウェルを悪く言ったつもりはない」
「だったら、ロズウェルさんはアリア様の謝罪をちゃんと受け取って、それで終わりってことでいいじゃないですか。アリア様が口を滑らせてしまったのは、悪意が無いとは言えいけないことなんですし、どんなことであれ悪いことをしてしまったらごめんなさいなんですよ?」
ハイロに言われ、ロズウェルも少しだけ冷静になれた。冷静になり、自分の状況を鑑みることができた。
「分かりました。謹んでお受けいたします」
ロズウェルはそう言うと、うやうやしく一礼する。
その姿に、ちょっと大仰だなとハイロは思ってしまうが、女神とその従者の関係であれば、これくらい大仰にもなってしまうのかもしれないとも考える。
「うん。ありがとう」
幸助は、ほっとしたような顔で弱々しく微笑む。
やはり、人との関わり合いが薄かった幸助は、少しのことで感情を揺さぶられてしまうようだ。
「ハイロも、ありがとな。あとこれ」
お礼を言いながら、幸助はもう一個あった花冠をハイロの頭に乗せる。
「ありがとうございます」
「うん」
お礼を言うハイロに、幸助はぎこちない笑顔で返す。
そして、ちらりとロズウェルの方を見ると、踵を返してユニとニケの元へと戻って行ってしまう。
その姿を見て、眉尻をさげるロズウェル。
「嫌われてしまったでしょうか……」
「まさか。少しだけ気持ちを落ち着けたいだけでしょう」
弱々しく言うロズウェルに、ハイロは苦笑気味に答える。
(この人、これで最強の剣士だっていうだから、不思議だよなぁ……)
内心で、少しばかり失礼なことを考えながらも、フォローに入る。
「アリア様は、まだ人との距離を掴みあぐねているだけです。多少ぎこちないのも今だけですよ。そのうち冗談を言い合える仲になれますよ」
「だと、いいのですが……」
(アリア様もアリア様だけど、この人もたいがいネガティブだよなぁ……)
しょんぼり俯くロズウェルに、そんなことを思うハイロ。しかし、花冠を落とさないのはさすがと言えよう。
さて、どうロズウェルの気分を盛り上げようかと考えていると、幸助がとてとてと駆け足で戻ってきた。
「ろ、ロズウェル、しゃがんでくれ」
「は、はい」
戻ってくるなり、ロズウェルにそう言う幸助。
ロズウェルはなんだか分からないが、主の言葉に従う。
「こ、コサージュ。普通は、女の人がつけるけど、ロズウェルならこっちの方が似合うかなって……」
そう言いながら、幸助は野花で作ったコサージュをロズウェルの胸ポケットに差し込む。
「うん。こっちのほうが、似合ってる」
そう言って、幸助は満足そうに微笑む。
「ありがとうございます」
胸に差されたコサージュを見て、ロズウェルは顔を綻ばせる。珍しく、口角が上がっているのが分かる。
その二人の様子を見て、ハイロの顔も自然と綻ぶ。
(案外、直ぐに仲良くなれそうですね)
ハイロは妙な確信を覚えながらも、そう思った。




