第14話
――『正しい選択』それは人それぞれで、捉え方が違うものだ。
自分が正しい選択じゃないと思っていても、実は相手からしてみれば――周りからしてみれば、正しい選択ということもあり得るのだ。
その逆もまたしかり。
今回の場合、俺は自分の起こした行動――『バラを警察に通報せずに、保護した』という行動を、俺は自分自身で『正しい選択』をしたと自信が持てなかった。
が、父は『正しい選択』をした。と言ってくれた。
やはり他人から言われると、心が幾分楽になる――他人ではなく父に言われたというのも大きいだろう。
そんな、俺が『正しい選択』について考えていると父は、
「例えば、例えばだ。もし瑠怒がバラちゃんを警察に預けていたとしよう。そうすると、捜索届なんて一つも出されていない。ということは、バラちゃんは必然的に施設に保護されて、自由に行動ができなくなる。バラちゃんはそんなの嫌だろう?」
父は先ほどから、真剣な顔つきで話を聞いていたバラに話を振る。
バラは声を荒らげて、
「当たり前です! 私は自由に生きたいです! だから瑠怒さん気にしないでください。私は瑠怒さんが私を保護してくれて良かったと思ってるんですから」
バラがこちらを向いてやんわりと微笑んでくれた。
危うくデレたと勘違いしてしまいそうになる。いや、デレたと思っていいのか。
今までのツンが強すぎて、少し優しくされただけでもデレたと勘違いしてしまいそうになる。
正直そんなに柔らかに微笑まれると、なんか俺が哀れな奴に思えて仕方がない。
「さて、じゃあもう前置きは十分だろう。僕の昔話も十分話したつもりだ。むしろここからが本題だね。もちろん、バラちゃんにも関係することだからしっかりと聞いてくれ」
十分今までの話が本題な気もするが。
今までの話よりも大事なことだということなのか。
父は口を開き、
「これからは花言葉について話そう」
花言葉。それは先ほど――父が昔話をする前に発した言葉。
その時父は確か、『花言葉』がこのことに関係していると言ったはずだ。
ようやくこの現象に『花言葉』が関係している理由が分かり、父の言った本題に入ることができるわけだ。
……思い起こしてみると、ただ父が昔話を語っていただけな気がする。
しかし、結局はその昔話がないとこれからのことは語れない。理解できないということなのだろう。
それに父の話で得れたものもあるわけだ。
真剣に俺とバラに向き合ってくれている父には感謝しなくてはならない。
「結局、僕はその子――花から人になった人を元妻に預けるまで育てることになったわけだけど、育てていて一つ気づいたことがあったんだ」
その気づいたことが花言葉に関係するのだろうが、どう考えても花言葉はこの話には無関係な気がする。
が、話している以上、確実に関係のあることなのだ。無粋に話をとめるのはやめて、おとなしく聞こう。
「……いや、そんなに真剣な顔されちゃうと話づらいんだけど。まあ、いいか。騒がしくされるよりはマシだしね」
ということは今までの俺とバラはうるさかったということになってしまうんだが。
否定はしない。さすがにうるさいという自覚はあった。
「話を続けよう。その気づいたことっていうのがその子――僕が保護した子には……、いや、僕が保護した子に限らず、花から人になった人には『花言葉』が少なからず関係していることなんだ」
まだ、父の言っていることは分かりかねている。
もちろんこれから、説明について入るのだろうが、俺は素直に父の言葉を信じきれるだろうか。
信じなければそこまでなのだが。
……もしかしたら父が嘘をついている可能性も否めないのである。
今まで父が話していたことがすべて虚言かもしれない。
「まあまあ、そんな信じきれないみたいな顔はしないでくれよ。バラちゃんも瑠怒も」
隣を見ると、バラも俺と同様、父の話を信じ切れていない――信じていいのか分かりかねているようだった。バラとしては自分に大いに関係する話だ。
疑心暗鬼になるほど慎重になるのも分からないでもない。
「大丈夫、信じてくれよ。今まで話していることも、これから話すことも虚言なんかじゃないから」
自らそんなことを言ってしまったら、逆に疑ってしまうんだが。
「大丈夫です。私はお父さんが嘘をついているなんて、一度たりとも思ったことなんてありませんから」
嘘をつくな。明らかにさっき思ってただろ。完璧に顔に出てた。
しかもその言い方だったら、俺は嘘だと思ってるみたいになるだろ。思ってるけども。
「なら今まで通り僕を信じて聞いてくれるとありがたいよ。もちろん瑠怒も僕を信じてくれ。嘘なんてついてないから」
俺だけ信じてないようになってないか?
父の中で素直に信じてくれたバラの高感度だけが上がっている気がする。
……父からの高感度なんて別に欲しくなんてないが。
俺がバラの方をジロッと見ると、バラは人の悪そうな笑みを浮かべて俺を見返してくる。
やっぱろくな奴じゃねえや、こいつ……。
そんな俺とバラの状態を無視して父はなおも話を続ける。
「気づいたことっていうのは、育てているうちに花言葉のように――花言葉通りの性格のようになっていったことなんだ」
何言ってんのこいつ……。みたいな目で見てはいけないんだ。
真剣な顔で言ってるんだし笑っちゃいけないんだ、絶対に。
「あっはっはっはっはっ!」
あれ、笑い声出てるよ? 女の子の笑い声が聞こえるよ?
この場にいる女の子はただ一人。
俺がゆっくりと隣を見ると、そこには見事に大爆笑していたバラがいた。
「あっはっはっはっはっ! な、なに言ってるんですかお父さん。まるでそんなのファンタジーみたいじゃないですか!」
お前が言うな。お前の存在自体すでにファンタジーなんだよ。
……あれ? もしかして俺はファンタジーの世界に迷い込んでしまっているのか?
バラはなおも笑い続け、涙を浮かべるまである。
「あっはっはっはっ! うっ! く、苦しい……」
笑いすぎておかしくなっちゃってんじゃねえかよ。
誤字脱字があれば教えていただけると幸いです。
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