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第13話

 現在、俺の隣では引き続きバラが――花から人になった奴が成長すると分かって喜んでいるわけだが……。

 長い。喜ぶのが長い。

 さすがに、俺と父が呆れ始めていると、


「やったー! ……ふう、よし、一生分喜びました。どうぞ、お話を続けてください」


 テンションの差が激しすぎる。

 もっと落ち着いて欲しい――このようなところは普通の、年相応の少女という感じではある。


「いや、一生分喜んでいいのかよ……」


 一生分喜ぶとか本気で言ってる? 

 いや、本気で言ってたらヤバいけどな。これから先一回も喜べずに一生を終えるわけだ。なにそれ、いやすぎる。

 俺が呆れたような視線を向けていると、


「え、瑠怒さん。普通に考えて嘘って分かるでしょうに。え、もしかして瑠怒さんって嘘通じないんですか? うわぁ……」

「分かってるよ! 分からなかったらそいつおかしいだろ!」


 そんな見下した目で見られてもうれしくない。ただ辛いだけ。


「そのおかしい『そいつ』が瑠怒さんでしょ?」

「違うわ!」

「え、違うんですか……」

「いや……。実は『そいつ』が俺なんだ――とか言わねえよ!?」

「うわ……今のノリツッコミは無理がありますね……。瑠怒さんにノリツッコミは向いていませんよ。しゃべらないのが向いてます」

「しゃべらないのが向いているってどういうことだよ!」

「ああ、ほら、しゃべっちゃったら空気がよどみますから……」

「え、マジで言ってんの? それ。俺、発言許されてないの?」


 父は「オホン」とわざとらしく咳をして――咳というよりかはただ「オホン」と言っただけだったが。

 そして、俺らに向かって、「いい加減にしろよ。ちゃんと聞けよこのクソ餓鬼どもが」とでも言いそうな顔で言ってきた。


「いい加減にしろよ、クソ餓鬼ども――なんて僕は言わないよ?」


 言っちゃってるし。若干優しい口調で、満面の笑みで言った。

 いや、笑ってるんだけど目が笑ってない。怖すぎる。

 笑顔は時には攻撃して傷つけるものだからな。奥深いものである。

 俺とバラはしっかりと父の言われた通りに、しっかりと話を聞く――完璧にバラが悪いと思うのだが。

 俺が悪いところなんて一切なかったと思うのだが、まあこれは連帯責任ということで納得しておこう。

 ……そして後でバラにたくさんセクハラしよう。さっき本人公認でセクハラしていいことになったからな。


「さっき僕が言った『母さんには会わせられない――というよりかは会わせたくても会わせられない』というのにはちゃんと理由があるんだ。まあ、理由と言えるほどでもないんだけどね」

「会わせられない、というのはもしかしてすでに瑠怒さんのお母さんは、お亡くなりにでもなられてるんですか? ……もしそうだったらなんかすごい申し訳ないことを訊いてしまった感じもするんですけど」


 バラはおずおずと俺が思っていたことを代弁してくれた。

 バラと思考回路でも似ているのか。先ほどから考えていることが同じな気がする。

 ……少女と思考回路が似ているってなんか悲しい。俺の脳年齢は少女なみということか。


「ああ、それは安心してくれ、死んではいないよ――いや、死んでいないと確定することもできないか。なんせ、瑠怒の母とは連絡を取ることは出来ないんだから」

「え、なんでだ? 離婚はしていても普通、連絡とか住所とか知ってるもんじゃないのか?」

「それが知らないんだよ。住所も変わってるし、連絡先も変わってしまっているから、今どこにいるのかは分からないんだ。だから元妻に会えないのと同時に、元妻の元で育てられている花から人になった人には会えない――どうなっているのかは分からない」


 八方塞がり――そんな言葉が俺の頭の中に思い浮かぶ。

 もう、話を聞けるような人は残されていないということだ。

 ご先祖さんのことは父が訊いているし、父の話も俺が訊いている。母と花から人になった奴にも会えない。

 まあ、話を聞いたところでどうにかなるとは思いにくいのだけれども。


「じゃあ、話を戻そうか」


 父は俺の思考を止めさせるかのように、手を叩き言った。

 急に手を叩くの止めてほしい。意外とびっくりしてしまう。

 ビクッとなってしまった俺のことを、バラが隣でくすくすと笑っているのが見なくても分かる。


「くすくすなんて笑ってないですよ。微笑んでいるんです」

「今のところに微笑む要素なんてないけどな」

「いやいや、ありましたよ? 瑠怒さんがお父さんの手を叩く行動に体をビクッとさせるのは、とても可愛くて微笑ましかったです」

「可愛いなんて言われても嬉しくないことが俺にはよく分かったよ」


 そりゃ、可愛いと言われて喜ぶ男子もいるのだろうが、どうやら俺はそちら側ではなかったようだ――かと言って、カッコイイとか言われても嫌味を言われてるみたいで、絶対に腹立つと思う。

 俺らの会話に父は蚊帳の外なんだけれども、しっかりと俺らのやり取りが終わるのを待ってくれている。

 そして、やり取りが終わったのを見計らって、父は話を続ける」


「結局僕はその日――花から人になった人を見つけた日に、見つけた子をどうしたと思う?」


 んん……? なんか父の言っていることがややこしい。『その子』の名前――花の名前さえ分かっていれば、随分と話がすっきりとするのだが。忘れてしまっているのだから、しょうがない。思い出したら言ってもらうことにしよう。


「どうしたって……。さっき父さんは数年育てて母さんに預けたって言っていたから、家に連れて帰ったんじゃないのか? その当時は」

「うん、まあ正解だね。でもまず見つけた時に僕は思ったんだよ。『あ、警察に通報しなくちゃ』って」


 警察に通報――それは当然考えることだ。

 でも俺はバラを見つけた時に通報はしなかった。

 なぜなら――


「警察に通報して、自分がこれに関与してるんじゃないかと、疑われるのが嫌だった」


 そう言ったのは俺――ではなく父だった。

 要するに、父も当時俺と同じ考えだったのだ。


「その顔を見る限り、瑠怒も僕と同じ理由でバラちゃんをこの家に連れてきた――保護したんじゃないか?」

「まあ、その通りだ。……でも俺はバラから『自分は花から人になった』と言われているけど、父さんはその時点では――見つけた時点では花から人になったとは思っていなかったんだろ?」

「元々僕はその日には花を見に行った――花がまだしっかりと咲いているかどうかを見に行ったんだ。そして、その花が消えていて、その場所に子供がいた。その時点で僕はもしかしたら花が人になったんじゃないかと、そんなファンタジーな予想はしていたんだけどね」


 やはり父の発想力がすごすぎる。どうやったら即座に、人が花になったと考えつくのか。


「でも父さんはまだ仮定の段階で、俺みたいに本人からはっきりと人から花になったとは聞いてない。なのになぜ警察に通報しなかったんだ? ――ああ、これはさっき父さんが言ってたか。『警察に疑われるのが嫌だった』って。でももしその子が誘拐でもされていたらどうしたんだ? そうなったら父さんはただの誘拐犯だったんだぞ?」


 本当にその可能性も否めない。

 誘拐されて、その空き地に放置されたかもしれないのだ。


「ああ、その部分に関しては安心してくれ。さすがにその子が誘拐されてないかは家に帰って確かめたよ。ニュースを見たり、捜索願が出されていないか確かめたり」


 一呼吸置いて、父は続ける。


「で、結局は誘拐されたなんてことはなかった。もしかしたらその子の本当の親が、その空き地に放置したのかもしれないけどね。そうしたら、警察に通報して、施設に入れられるより、子供を捨てる親のところにいるより、僕のところで暮らす方がよっぽどマシだったわけだ。ま、それで誘拐なんてされてないことが分かって、僕は『花から人になった』という予想が確実的なものに変わっていったんだよ。そしてそのことについて調べるようになって、僕の家系の話に行き着くわけだ」


 なら安心だな。いや、それでも俺がとったバラを保護することというのは最善の手だったのだろうか。

 もっと別の手段があったのではないか。


「そんなに深く考え込まなくていいって、瑠怒。君は『正しい選択』をしたよ」


 その一言は俺の不安を消してくれるには、十分な一言だった。

誤字脱字があれば教えていただけると幸いです。

評価などお願い致します。

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