第12話
父が花から人になる奴は、成長すると言った。
「やったー!」
完成を挙げたのはバラだ。
……いや、まあだいたい想像はつくのだが。
「やりましたよ瑠怒さん! 成長するんですって! 私の体も成長するんです! この少女体型とも近々おさらばです!」
「近々ではないけどな」
少なくともその体系を脱するには数年かかるだろ。
「成長するスピードも人と同じだしね」
と、父が付け加える。
しかしバラは訊く耳を持っておらず、ガッツポーズをして俺の背中を叩く始末である。
痛いから止めろ、それ。嬉しいのは分かるけど人を叩くことで喜びを表現するな。
仕切り直し。
「なら父さん。そいつに会えば何か分かるかもしれないじゃないのか? その花から人になった奴に会うことはできないのか? いや、そもそも何でそいつが発見した父さんのところじゃなくて、母さんのところにいるんだよ」
俺は記憶にない母を思いつつ、父に問いかける。
そりゃ会ったことはあるだろうが――母親なのだから絶対に会う以前に生まれた瞬間に顔は見ているわけだが。
顔なんて全然覚えていない。母との思いでなんてありもしないのだ。
俺を生んで父と母は離婚したらしいからな。
俺は母の写真さえも見たことがない。
父は「そんなもの必要ないだろ」とか言って写真を撮らなかったそうだ。
「ああ、それは僕が自ら元妻のところに連れて行った――預けに行ったからだよ。数年間は面倒を見てたんだけどね。……さすがに三人の子供の世話をするのは大変すぎる。だからその花から人になった人を連れて行ったんだ、元妻の元に」
離婚してるから妻とは言わないんだろうが、なんか『元妻』って言うのは悲しいなぁ……。名前を言うのさえ嫌だというのか。
「なるほど。でもなら会いに行くことは出来るんじゃないのか? そもそも俺は母さんの顔を覚えていないし、父さんが俺を母さんに合わせてくれないし」
やはり子供としては母の顔を知っておきたいものである。
――もしかすると、もしかするとだ。
この不可解な現象について、我が母が知っている可能性もあるのだ。
先祖みな分からないのだから、知っている確率で言えば、それこそ花が人になるぐらい低いのかもしれない。
この例えで『花から人になった』のを出すのは若干変な感じもしてしまうのだが。
結局確率は確率であり、確率的にゼロのものが――ありえないことが起こることだってあるのだ……と俺は思ったりする。
そもそもだ。そもそも『花が人になる』確率というのはどれくらいなのだろうか。
いや、確率でははかりきれるようなことではないだろう。
世の中にこんな確率を計算した人がいるとはなかなか考えにくい。というよりかはどうやって計算して確率を出すのか。
平凡な学力の俺には到底分かりっこない話だ。考えても時間の無駄であるとさえ思ってしまう。
「すまない、瑠怒」
と、父が謝った。
中々人に謝らないことで有名な父が謝った。
……よく謝らないで社会の中で生きていけるな。
「え、何がだ?」
急に父が謝りだしてしまい、俺は戸惑ってしまった。
なぜ、謝ったのだろうか――いや、先ほどの俺の質問からして、だいたいの謝った予想はついてしまうのだが。
「母さんには会わせられない――というよりかは会わせたくても会わせられないんだ」
会わせられない――というのは元々俺が、帰ってくるであろうと予想していた答えだった。
しかし、会わせたくても会わせられない――とはどういうことなのだろうか。
もしかするともうすでに母は命を落としてしまっているとでも言うのか。
――が、それはありえない。母は現在も花から人になった奴を育てているのだ。
必ずこの世界のどこかにはいるはずだ。――一瞬宇宙にいるという可能性も頭の中をよぎってしまったのだが。
……いや、仕方がないじゃないか。
こんなこと――花が人になるぐらいのことが起こっているのだ。宇宙にいるという考えも間違っていないだろう? なあ、そうだろう?
ああ、待ってくれ。バカかお前は、とか言わないでくれ。想像力が豊かだと言ってくれ。
と、俺が様々なことを、想像力の豊かさを活かして割と真剣に考えていると、
「やったー! 成長できる! やった! やりましたよ! これは叫ぶしかありません! 叫んでいいですよね、近所の方々のことなんて考えなくていいですよね! もう瑠怒さんやお父さんの許可なんて取りません! 思い通りに叫びます! 『やったー!』って叫びます! 今言った『やったー!』以上に! せーの、やったー!!!!!!」
バラは絶賛歓喜中だった。
さすがにもう少し落ち着いてほしいのだが。
一応、今物語の大事なところだから黙っていてほしい。
父は父で微笑ましそうな感じで見てるし。やっぱ俺との扱いが違すぎる。差別は良くないと思う。人類皆平等であるべきだ。
ただやはり、バラには落ち着いてもらわないと父と俺の会話に支障が出てしまう。ので、黙ってもらうことにしよう。
「なあ、バラ。もう少し落ち着いてくれないか? 花から人になった奴が成長するって分かってから、結構時間経ってるんだけど」
「なんですか瑠怒さん! これが喜んでないでいられますか! じゃあ瑠怒さんには特別に、私が成長したら胸を触らせてあげますよ! 成長した胸を!」
なんで『じゃあ胸を触らせてあげる』となったのかは甚だ疑問だが。
ここで『ああ、その時はしっかりと胸を揉んでやるよ!』とか言ってしまったら、それこそこの状況に収拾がつかなくなる。
しかもセクハラが本人公認になっちゃってるし。
一応親が目の前にいるので、そういう発言は控えてほしい限りだ。
あと、一応心の中で言っておくけど、胸が成長するとは決まってないからな? そのままの状態をキープして成人しる可能性もゼロじゃないからなぞ。
「ひゃっほー! どんな風に成長するのかなぁ! 待ちきれませんよ!」
うん……まあ、喜ばせておいてもいいだろう。信じられないほど騒がしいし、この後に待ち受けているご近所さんへの謝罪のことを考えたら気が引けるけどな。
可愛いからいいか。
なんか話に矛盾が生じている感じがします。
そんな矛盾を見つけたらぜひ教えてくださいな。