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第11話

「結論から言えばバラちゃんは急にその場――バラちゃんの場合であれば公園だね。その公園の花壇に急に現れたことになる」


 父はそう言った。

 急にその場に現れた――すなわち何もない空間から出現した……と父は言っているのだろう。

 普段――今までの俺なら信じ切れていなかっただろう。

 しかし、バラの話を聞いていくうちにその案は俺の頭の中には浮かんでいたのだ。

 いきなり目が見えるようになり、いきなり耳が聞こえるようになり、いきなり風を感じることができるようになったのだから。

 ただ、それを信じ切れていなかった。

 なぜならあまりにも現実離れした話だったからである。

 でも父が言ったことによって、その案はすんなりと信じられた。これは俺がなんだかんだいって父を尊敬している証拠でもあるのだろう。

 この年になって父を尊敬するのもどうかと思うが……。


「まあ、そういうことになりますかね……」


 バラも途中から感づいていたようで、父の案に納得する。


「そもそもの話、公園に自然にバラが咲いていること自体がおかしいんだよ」


 ん? そうなのか? ――言われてみればそうか。

 基本的に薔薇はそこらへんに自然に生えているものではないだろう――俺の勝手な思い込みかもしれないが。

 いや、でも誰かが植えたということは考えられないのか? ――そうなってしまうと先ほどの『突然発生説』は消えてしまうのだが。


「誰かが公園の花壇に植えていたとは考えにくいだろう。まあ、あの公園には多数植えられている花もあるけど、それはすべて『複数』だ。薔薇一本単独で生えるのはおかしいよ。それに、バラは一年中咲くはずがないんだ。これは今の世の中でも皆が当然のように思っていることであり、不思議にも思わないことなんだ」


 父は軽やかに――饒舌に言った。

 やはり花のことになると楽しいのか、若干顔がニヤついている――怖い笑みではあるが。自覚はないのかよ。若干バラも引いちゃってるし。


「それに今までのバラちゃんの話を聞いて、それを考慮すると、やはり突然花壇に現れた――花の状態で現れた。そう考えるのが妥当なんじゃないかな?」


 そうか? この考えにたどり着いている俺たちがおかしい可能性はないのか? その考えは止めておこう。

 まあ、父の意見には賛成だ。突然現れた以外には説明がつかない。

 確実にそうであるという証拠はないんだけどな。まずは仮定してみるというのも大切なことだろう。何も考えないよりかはマシだ。


「なら父さん。父さんが十数年前に出会った花も、当然現れたということになるのか?」


 父は俺の問いかけに心底呆れたような顔をして、


「はあ……。それでも本当に僕の息子かい? 僕が引っ越してきたときには、もうすでにその空き地には花が一輪だけ咲いていたんだよ? 当然現れたかなんてわかりゃしない。そんなことが分かっていたらバラちゃんに質問なんてしていないよ」


 うん、考えてみればそうだな。これは恥ずかしい質問をしてしまった。

 バラもニヤニヤしてるし……。え、なにこれすごい恥ずかしいんだけど。人生でかなり上の部類に入る恥ずかしさなんだけど。


「じゃあ、お父さんが空き地で見つけた一輪の花は私と同じだったのかは言い切れないんですね?」

「うん、まあそうだね。でもその花はバラちゃんと同じように一年中咲いていたんだ。そして僕の調べによると、その花も一年中は咲かないことが分かっている。正しい管理をすれば一年中咲くのかもしれないけどね。雨風にさらされて誰も管理していなかった――だから普通は枯れるはずなんだ。まあ、バラちゃんと同じ部類に入るんじゃないのかな?」

「ふむふむ……」


 お前本当に分かってる? 「ふむふむ」とか言っておけば大丈夫みたいに思ってないか? 

 でも俺の洞察力低いから間違ってるかもしれない。


「なあ、父さん」


 俺は父の話を聞いていた中で、疑問に思うことがあった。

 なんか『それ』を意図して言っていないように感じたのだ。


「ん? なんだい? 何でも聞いていいよ? 答えられる範囲なら丁寧に答えるから」

「なら遠慮なく質問させてもらうよ。まあ、丁寧に答えてもらう必要のない質問なんだが――」

「ぜひぜひ質問してくれよ」

「――その花はなんという名前の花だったんだ?」


 正直どうでもいいことなのかもしれない――否、そうでもいいことではないだろう。

 今の状態からいくと、どんな些細なことから問題が解決するか分からない。多少のヒントでも欲しいところなのだ。


「ん? ああ、言ってなかったっけ? え~と……。あれ? なんて名前だっけ……」


 父はう~んう~んと悩み、導き出した答えは――


「ごめん。忘れた」


「……マジで? 結構大事なことじゃないか? それ。忘れる方が難しい気もするんだけど」


 年のせいなのかなぁ……。もう父さんもそんなに年をとってしまったのか。悲しいなぁ……。


「いやいや、ごめんね瑠怒。本当に思い出せないんだよ。もう僕も年なのかねぇ……」


 まだ四十にもなってないはずなのにな。体は大事にしてもらいたいものだ。家族のことも考えてほしい限りである。


「なら、その花の名前は憶えてなくても、そいつはどうなったんだ? 今どうしているんだ?」

「ん? ああそれは、僕の元妻――瑠怒のお母さんのところにいるよ」


 ――俺の父と母は俺が生まれた直後に離婚したそうだ。

 そして父は俺と『もう一人』を母から引き取り、この街に引っ越してきて男一人で二人を育て上げたのだ。

 ……離婚した原因は気が合わなくなったかららしい。

 そんな理由で――かと思ってしまうが、個人は個人の自由だ。俺がワーワー言うべきではない。


「なら、そいつに訊けば何か分かるんじゃ――ああ、ダメか。小っちゃい頃――ましてや2、3歳の頃なんて覚えてないか。ん? いや、待てよ? そもそもそいつは成長しているのか? 花から人になった奴は成長するのか?」

「成長? ああ、しているよ、現在進行形で。花から人になった人は成長するよ。これは僕自身が、目で見ているから確かだ」

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