第10話
バラがそもそもその花――父が空き地で見つけた花は、どうやって誕生したのかと父に訊いた。
……なんかバラは俺より先に父に質問出来て嬉しそうだったわけだけど。
別に先に質問して何か特典があるわけでもないしなぁ……。
でもバラが隣で浮かべている笑みは腹が立つ。「遅いですね、瑠怒さん」とでも言いそうだ。
いや、バトルとかしてねえんだよ。何ですぐにゲーム要素を取り入れたがるんだよ、子供か。子供だな。
俺も子供の頃はすぐにバトルしようとしたし、すぐにゲーム要素を取り入れようとしたけど。
でもそれでも父はそんな俺にちゃんと付き合ってくれてたんだ。そんな父を見習って、バラに対応するべきなのだろうが、いかんせんめんどくさい。
バラのノリに付き合うの結構体力使っちゃうんだよ。でも楽しいと思ってしまうからこれがまた困る。
結局俺は楽しいこと――バラと話したりするのが好きなのだろう。
――好きと言ってもそんな変な方向だとは勘違いしては欲しくない。ほんとに妹ができたらこんな感じなんだろうな、と思うくらいだ。
実際に妹がいる人はどうなんだろうか。妹なんて邪魔だよ、という人とかがいるのかもしれないが、妹がいない側としては妹は欲しいものだ。兄とか弟がいても楽しそうだと思う。ないものねだりだけどな。
父は、そんな妙に火花を散らしている俺達を無視して――もしかすると気づいているのかもしれないが無視して、バラに質問に答える。
「う~ん……。そこのところは分からないんだよね。結局誕生したのが分かるのは本人だけだし。僕が誕生の場に立ち会ったわけではないからね。というよりかはバラちゃんは自分がどういう風に生まれた――ああ、人ではなく花として生まれたかわかるかい?」
「え? うん? え~と……」
バラは首を傾げて、記憶をたどっているようだった。
……そもそも誕生した時のことなど覚えているのだろうか――やはり記憶力というのは人と花とでは違うのか。
思い出したのか、バラは「ああ」と納得した声を出して、
「何か視界が急に広がった感じで――そういう意味では、結果としては分からないですね」
分かっていなかった。
え、じゃあさっきの納得の声は何だったんだよ。俺の捉え方が間違っていたのか?
俺もしかして洞察力低いんじゃねえの? じゃあ洞察力上げるために人をよく観察しよう――で、結局視感しているだけで通報されそうだがな。
バラと会ってからすごい通報という言葉に敏感になっている自分がいて困ってしまう。
バラは冗談で「通報しますよ」と言っているのかもしれないが、俺としては本気で通報するんじゃないかと思ってしまってるんだよ。
バラが警察に適当なことを吹き込めばどうとでもなってしまいそうな感じも否めない。
話を戻すと、バラは覚えていないと言った――ならば記憶力も人よりということなのか。
「急に視界が広がった――ならバラちゃんは耳の方はどうだったんだい? 急に聞こえるようになったのかい?」
「え、ああ、言われてみればそうですね。急に聞こえるようになりました。あと視界が広がったのと同時に、風を感じられるようになりました」
風を感じられる。
それはどういうことを意味するのだろうか。
地面から芽を出したのと同時に、それら――視覚や聴覚、感覚を手に入れたのか。
父は少し考えた素振りをして、
「うん、なら目線はどうなんだい? ――というよりかはバラちゃんは『成長』していたのかい?」
父に言う『成長』――というのはもちろん芽から成長して花になったのかということだろう。
……そんなの成長しているだろう。花は人と同じようにある程度までは伸びるのだから。
花にもそれぞれの種類でどれぐらいまで伸びるのかは決まっているはずだろう。
その花が人になってしまったら、どれくらいまで伸びるのかは予想はつかないが
――だが、俺のこの考えはすぐに打ち消されることになる。
「いや、成長していませんでした。初めて自分の『花』の姿を見たとき――すでに花として完成形だったと思います。」
バラはあっけらかんにそう言った。
「え?」
と俺は声を出してしまっていた。そしてバラに対して、
「え、なんかその話重要じゃない? 何で俺に言ってくれなかったんだよ」
「いや~別に重要な話とは私は思ってなかったんですよ。私は花のとき、周りの花を見て『あれ~みんなは芽が出てつぼみになって花が咲いてるのに、私はどうして違うんだろう』って思ってましたけど」
「いや! もうそれ違うじゃん! 普通の花じゃないじゃん!」
まあまあ、とバラは興奮していた俺をなだめ、
「まあ、重要な話とそうではない話の捉え方には個人差がありますし。結果として話せたんですからいいじゃないですか」
う~む。そう言われてしまうと反論の余地もない。
出会ってまもない奴に自分のことをどんどん言うのもどうかと思うしな。
いや、今も出会ってまもない部類には入るんだろうが。
と、今まで何か考えていた父が口を開いた――それは花――正確に言えば、花から人になりうる奴の、花としての誕生の方法の答えでもあった。
書いてて思ったんだけど、これ全然話進展してなくないですかねぇ……。