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第9話

「あれは今から何年前かな……。十年以上前のことだね。ちょうど僕が実家からこの家に引っ越してきた時のことだ」


 十年以上前――ということは少なくとも俺は生まれていたと考えてよいのだろうか。


「休日にプラプラと散歩していたんだよ。その時瑠怒は確か家で寝ていたと思うけど」


 子供をほったらかしにして散歩と言うのもどうかと思うが――まあ、仕事と育児を一人でやっていたのだ。それぐらいの自由は許されるだろう。

 そして正確には家で寝ていたのは俺一人ではなく二人だったのかもしれないが。

 幼少期のこと―ましてやそんななんのとりえもない日のことなど、俺はもちろん覚えているはずがない。


「そして空き地に着いたんだよ。ほら、今はちょうど本屋が建っている」


 本屋――と言ってもこの付近には一軒しかない。比較的大きい方の本屋だと思っているが。ちなみに俺も時々行っていたりする。

 その本屋のことを思い浮かべながら、俺は父の言葉に耳を再びかたむける。

 バラは先ほどの父の言葉が効いている――もしくは自分に関係することかもしれないこそなのか、おちゃらけた雰囲気ではなく、正座で真剣に父の話を聞いている。

 ……俺と父の座り方も知りたい人がいるかもしれないので記述しておくが、あぐらをかいている。


「その空き地は今までにも何回か来てたことがあったんだよ、当時。その何回も来てたっていうのには一つ確認したいことがあって来てたんだけど……」

「その確認したいっていうのが『花』なのか? いや、その時はまだ花だったのか?」

「そう。その空き地には一輪の花が咲いていたんだよ。たった一輪だけ。そして僕はその一輪の花を見て興味を持ったんだろうね。何回も空き地に通い詰めた――無事かどうか確認するために」

「でもその日は違かったんだろ?」


 その日――というのはもちろん、父がプラプラと仕事がない休日に散歩していた時のことである。

 そして、父が『花』が『人』になった奴にあった日のことでもある。


「そう、『その日』はその空き地には人がいた――正確な日付は覚えてないけど、確か冬だったような気がするなぁ……」


 と、ここで俺は一つの違和感を覚えた。違和感というよりかは、些細な疑問のようなものだ。


「ん、ちょっと待ってくれ。父さんは冬にその花を見つけたのか?」

「ああ、そうだよ?」

「え、でもありえないんじゃないか? 花が冬に枯れないなんてあるのか? ましてや屋外で」


 屋外、室内で変わるかどうかは知らないけど、俺は花は冬になったら枯れるものだとばかり思っていた――いや、今も思っているのだが。


「ああ、そこも説明しなくちゃいけないね」


 父は勝手に俺とバラが理解した上で、冬に花が咲くと言っていたようだ。それは困る。

 俺もバラも頭は良くないのだから。できるだけ噛み砕いて説明してくれないと理解できない可能性だってある。


「さっき僕は数回その空き地に通い詰めたと言っただろう?」

「ん、ああ」

「その数回訪れる間に『一年以上』経過していたんだ」

「え、じゃあ一年間ずっと咲いていたということになるのか?」

「まあ、そういうになるね――というか瑠怒の隣にいるバラちゃんもそうだったんじゃないのかな?」

「え、そうなのか?」


 俺は隣にいるバラを見る。

 バラは、


「言われてみればそうですね……。周りの花たちは皆枯れるのに、なんで私は枯れないんだろうと思ってましたし」


 ていうか俺は学校への登校の時、下校の時――冬に薔薇が咲いていることを不審に思わなかったのだろうか。

 多分目につかず、気づいていなかっただけだとは思うのだが。


「なら『花から人になった奴』――なる奴はずっと枯れないままなのか?」

「多分、ね。これはあくまでも僕の推測だ。でもバラちゃんがそうだったと言うのならかなり信ぴょう性は増すんじゃないか? 僕としては一つの謎が解明できてうれしいよ。ああ、あと言っておくけど、なんで一年間ずっと咲き続ける――枯れないのかは僕は知らないよ? 知ってたらとっくに自慢げに言ってるよ」


 自慢げには言ってほしくはないな。

 でも逆に考えれば自慢げに語っている父の姿を見れなくて、残念がった方がいいのか?

 なぜ一年間ずっと咲き続けるのかは質問しようとしたのだが……父に答えられないと言われてしまったらどうしようもない。父が知らないことを俺が知っているわけがない。

 一年間枯れない――ならそれはもう今までの花の概念というのをぶち壊してしまったいるのではないだろうか。


「ああ、ちなみに冬に咲く花というのは意外に――いや、意外と言うほどでもないか。普通にあるんだよ?」

「ほー、そうなのか」

「うん。でも『一年中』――ましてや屋外で何も手入れされずに、一輪だけ咲いていたのは奇妙だけどね」


 一輪だけ? 俺はてっきり他にも花が咲いていたものだと思っていた。一年中でなくとも他の季節には。


「まあ、一輪だけ咲いていたから、僕はその花に興味を持ったんだけどね」


 これは俺の勝手な推測なのだが、一輪だけしか咲いていない――ということはその空き地の土は花が育ちにくいということではないのだろうか。

 しかし、その花は一年中その空き地で咲き続けた。偶然咲いたというのもあるのかもしれないが、父が奇妙に思っているのだから、奇妙なことなんだろう。

 ……父に流されやすすぎるな、俺。

 えーと、でもそもそもその花はどうやって誕生したんだ?

 基本的には花は受粉して増えるものだ。受粉して誕生した花がたまたま『花から人』になったとでも言うのか。

 ……たまたまでは語れない出来事ではあるのだが。

 俺が父に「どうやって誕生したのか」を聞こうとしたところ、バラが


「その『花』はそもそもどうやって誕生したんですか?」


 おい、何で俺の方見て勝ち誇ったような顔してんだよ。

 俺より先に質問できたのがそんなに喜ばしいことだったのかよ。

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