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トラブル体質(2)

 ――――私が一体何をしたというのでしょうか?


 前夜の疲れを引きずりながら出社した朝、小夜は途方にくれた。

 小夜が務めていたのは小さな清掃会社。規模は小さく社長も含め社員4名で毎日現場を回っている。それでも社長は度量が大きく、小夜のように問題を抱えている人間も受け入れてくれる優しい人。だから、恨んではいけない。いけないのだが今の自分の状況が状況なだけに納得が出来ない。


 『当社は、本日をもって倒産しました』


 そんな紙が一枚、扉に貼られていたら誰だって納得出来ない。小夜は、会社の扉を勢いよく開け放ち、中に足を踏み入れた。


 「社長! いったいどういうことですか!」

 「あぁ?」


 しかしそこにいたのは、社長ではなくその筋と見られる目つきの悪い男達。普通の人間ならその場を走って立ち去るだろう。しかし、今の小夜は自分のこれからのことで頭が一杯だった。


 「何だ? 姉ちゃん、ここの人かい?」


 男達の中で親分格であるだろうグレーのストライプ柄のスーツを着た男が近づいてくる。


 「これはいったいどういうことですか?」

 「おたくの社長さん、借金していなくなっちまったんだ。姉ちゃん、居場所を知ってるなら隠さず教えてもらおうか?」

 「借金? じゃあ、今月のお給料は!!」

 「そんなもんある訳ないだろう。それよりこっちの話聞いてるか?」

 「うるさい! こっちはそれどころじゃないの! 黙っててくれる?」


 小夜の物言いに男の顔は引きつる。


 「えらい、度胸がすわってるな。何だったら、うちで働き口でも世話してやろうか?かなりのべっぴんさんだしな」


 男は小夜の顎を片手で掴み、値踏みでもするかのように視線を這わす。


 「気安く触らないでくれる?」


 小夜は男を睨みつけるとピシャリとその手を叩き落とす。


 「いいかげんにしろよ。姉ちゃん…………。ううん?その首にあるのは…………」


 男の言葉に小夜は顔色を変えると急いでその場から駈け出す。


 (まずい、見られた!!)


 「おい、ちょっと待て!!」


 男は、逃がすものかとばかりに小夜の跡を追いかけてくる。 小夜も必死に走って男を引き放そうとするがそこは男と女。どんどんとその差は縮まる。

 その上、小夜の顔は急速に青ざめ額からも汗が滝のように流れ出す。そんな自分の体の変調に小夜は舌打ちする。


 (何で、こんな時に………)


 何とか大通りに出た所で小夜の足は完全に止まる。後を振り返るとあと7、8メートルというところまで男が迫ってきていた。


 「待て! それ以上走るな!!」

 「待てと言われて待つ人間がいる訳ないでしょうが!」


 そう叫ぶと小夜はなんとかもう一度走りだそうと視線を前に向ける。その時だった、何とも暢気な声が聞こえたのは。


 「おや、追われているのかい? よかったら乗らないか?」


 その声の主は、すぐ側のコンビニの前に止まった洒落たスポーツカーの男。少し長めの髪にブランド物であろうスーツを着込み、その上サングラス。

 それは小夜が一番苦手とする部類の男。本来なら絶対にその言葉になど乗らない。しかし、この場合は仕方がない。


 「乗るわ! 乗せてちょうだい!」

 「どうぞ」


 小夜は、急いで助手席に乗り込みシートベルトを着ける。


 「じゃあ、ちょっと飛ばすから気を付けて」


 そう言うと男は慣れた動作で勢いよく車を発進させた。


 「こら! 待ちやがれ!!」


 すれ違いざま、小夜を追ってきた男が叫ぶ。しかし、男はさらにアクセルを踏み込むとあっという間にその場から走り去った。

 その様子を見ていた小夜は、ホッと息をつく。そこで力を抜いたせいか、小夜の意識は急速に落ちて行った。そのせいで小夜は運転席に座った男の呟きを聞き逃すのだった。


 「捕まえたよ、お姫様。まさか、こんなに簡単に見つかるなんてね」

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