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転校初日(3)

 一時間後、ついに小夜は校門の前に立っていた。


 「大きい学校ね」

 「そうですね。まぁ、両方の一族が金かけて作ったらしいですから」

 「ふぅん。でも、緑が少ないのね」

 

 目の前に立つ校舎を見て小夜は、感想を述べる。五階建ての建物が三角形の形を描いて配置されていて、2階にそれぞれの校舎を繋ぐ渡り廊下があった。一番奥の校舎の更に奥に講堂らしき建物などがある。


 「かなり面倒だわ」

 「あぁ、お嬢にはきついっすね」


 自分の主人である少女の体力の無さを知っている保は、校舎の作りにかなりの不安を覚えた。一人暮らし中にいくらかは、体力がついただろう。しかし、これでは移動のたびに貧血を起こしかねないし、発作も出るかもしれない。そんな二人の心配など露知らず、保護者として一緒に登校してきた緋乃は、携帯で誰かと話している。


 「どうにかならないかしら? これ」


 転校生が珍しいのか、登校してくる生徒が小夜達を興味深げに眺めては通り過ぎて行く。純粋に好奇心で見てくる者はまだいい。

 だが、その中には粘っこいものやら突き刺す様な視線が混じっているのだ。はっきり言って、不快としか言いようがない。これなら前の学校の方がまだましだ。あちらは、純粋培養のお嬢様が多かったからここまでひどくなかった。


 「いい加減にしてくれるかしら? じろじろ見られる趣味はないのだけど」


 我慢の限界に達した小夜がするどい声を上げると数人の生徒達で構成されたグループが二つ近づいてくる。一方は、紅色のスカーフとネクタイを付けた派手な集団、そして彼らと別の青色のスカーフとネクタイの集団だった。それぞれの雰囲気でどの一族に属する人間か丸わかりだ。自分に近づいてくる間も互いに視線で牽制し合う様を見て小夜は、げんなりする。


 「ようこそ。高塚小夜さん。私は、蘇芳すおう。貴女をお守りする者です」


 そう言って右手を胸に当てお辞儀する紅いネクタイの男子生徒に小夜は、ふんわりとした微笑みを浮かべて首をほんの少し傾げる。

 他人から見たらとても可愛らしい様だが側でそれを見た保は、「やば」と声を漏らす。自分の主が静かに臨戦態勢に入ったのを察したからだ。

 そんな事も知らずに蘇芳と名乗った生徒は、その整った顔に見合う笑みを浮かべた。その瞳に、ほんの少しの欲望を映しながら。


 「あら? ここは学校です。守るだなんて大げさな事を。私は、勉強をしにここに来ただけです。干渉しないで頂けると嬉しいわ」

 「小夜さん。貴女もこの学校に入学するならこちらの事情は分かっていただいてますよね?」

 「私は、親の勧めで進学しただけです。そして何よりこちらのカリキュラムが私に適していた。ただ、それだけです。あなた方の馬鹿げた争いに関与するつもりはありません。ですから、そちらも私には不必要な干渉はしないで頂きたいわ。あと私は、あなたに名前で呼んで欲しいとは言ってませんけど」


 目の前の青年ともう一方の集団に視線を向けて小夜は、笑った。無邪気に微笑みながら毒を吐く彼女のその態度に彼らは若干動揺したようで、小声で仲間達と話している。小夜の応対は、彼らの想定外なものだったらしくそのまま黙り込む。

 蘇芳は、他の生徒と同じく少女はこちら側にすぐ堕ちると侮っていた自分の考えを変えなくてはいけないと思い直す。


 「待たせたな。もう少しで来るそうだ。どうした、お前達」

 「誰が来るんですか? 緋乃さん」

 「ん? 百合と言って私の友人の子供だ。小夜のフォローをしてくれるように頼んである」

 「ということは、紅ですか?」

 「いや、あいつは白だぞ」

 「緋乃殿。あいつに彼女の世話役は無理かと。あの得たいの知れない者を側に置くのは、どうかと思いますが」


 百合という名前を聞いた瞬間、周囲の人間がざわつく。その顔と声には、百合に対する嘲りが見てとれる。主に紅の集団がその傾向が強いようだ。逆に青の集団は、困まっている感じがする。その両極端な反応に小夜は首をかしげた。


 「あら~、私が何か?」


 その場に響いた明るい調子のハスキーボイス。その声の持ち主は、小夜と同じ制服に身を包んだスレンダーな少女だった。

 自分より頭二つ分程背の高い、独特な雰囲気を持つ人物の登場に始めは面食らった小夜だったが次第に興味が湧いてくる。なので自分から近づくことにした。


 「貴女が百合さん? 私、高塚小夜です。お世話になります」

 「初めまして。百合よ、よろしくね。小夜ちゃんって呼んでいいかしら? 私は、百合って呼んでちょうだい」

 「もちろん。よろしくお願いします。百合さん」

 「…………うぅ、我慢出来ないわ~。小夜ちゃん、可愛い!!」


 そう叫ぶなり百合は、小夜を抱きしめる。それを見て保が慌てて引き離しにかかろうとしたのと小夜が彼女にある疑問を持ったのはほぼ同時だった。

 自分を抱きしめた相手の違和感。それは、同年代の少女とは違いどこかごつごつとした体の感触と喉仏。


 「貴女、男なの?」

 「あら? 早速、ばれちゃった? 気持ち悪いから嫌?」

 「いいえ、気持ち悪くはないんだけど。これは趣味? それとも本気?」

 「今のところ本気かしら?」

 「ふぅん。とても良く似合っていると思うわ。ただ、そろそろ離してもらえる? 苦しいわ」

 「あぁ、ごめんなさい」

 「お嬢、大丈夫ですか?」


 小夜に駆け寄り百合の腕の中から自分の腕の中へと彼女を取り戻すと保は、百合を怒鳴りつける。


 「何してんだ? 調子に乗るんじゃねぇぞ。あぁ?」

 「まぁ、怖い。下品よ、保」

 「そうよ。別にいいじゃないの。特に不快感はなかったわ」

 「さぁ、小夜ちゃん。校舎に案内するわね」

 「えぇ、行きましょう。保、鞄」

 「…………どうぞ。きちんとお世話してくださいね。百合ちゃん」

 「まかせてちょうだいな」 


 

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