鬼頭の思惑
保や鬼頭と別れた小夜は、そのまま寮へと戻った。しかし、自分の部屋に入るのが気が重い小夜は、扉の前に立ったまま動こうとしない。
そんな彼女を見て緋乃は、自分の部屋へでお茶をしようと誘う。すると、小夜は素直に頷いた。そして緋乃が淹れてくれたお茶を一口飲むとホッと息をつく。
「で、どうしてそんなに機嫌が悪いんだ?」
「だって、いきなり学校に通え。それも音楽科って」
小夜も普通科の高校なら、素直に承諾した。こちらに出て来てから見かける自分と同年代の少女達の制服姿をうらやましく思ったりもしたから。
「まぁ、私も少しばかり無茶だと思った。せめて普通科にしてやれと言ったんだが。事情があってな」
「事情?」
「あんたが通う学校は、表向きは普通の高校だ。だが本来の目的は、鬼克と夜叉の融和を進めるという目的の元に作られた。まぁ、思惑通りには行ってないがな」
「ふぅん、まぁそんな事だろうとは思ったけど。今さら学校に通えだなんて」
鬼頭の真意を悟ったのか小夜は、口を尖らせる。そんな彼女の様子に緋乃は、苦笑した。小夜は、頭の悪い子ではない。緋乃の言葉からぼんやりとだが鬼頭の企みを察したからこそ、この顔なのだろう。
「うまくいってないからって、部外者の私にどうしろって言うのよ」
「いや、別に何かしろという訳ではないと思う。あんたがその学校に通うだけで奴らが勝手に動くさ」
「何それ?」
「あんたは、夜叉が何を糧にしているか分かるかい?」
「糧? …………人間とか?」
その光景を想像したのか顔を引きつらせ答える彼女に緋乃は、吹き出す。きっと彼女は昔からのお伽噺でも想像したのだろう。鬼が人間を食らうという話を。食らうという点では、間違っていないが食らう物が違うのだ。
「我々が普段食べるのは、人間と変わりない。ただ力の補充の為に必要な物を人間から摂取する必要がある。その物とは、人間の生気だ。まぁ、手っとり早く摂取する方法としては、人間との性交渉だな。あとは、興奮した人間から出る生気とかな、これは人間が多く集まる場所にでも行けばいい」
「せ、性交渉って…………」
緋乃の明け透けない説明に小夜は、顔を赤らめる。
「あぁ、すまん。ただ、事実だからな。まぁ、夜叉族は比較的容姿がいいから不自由はしない。だが、相手の人間にも限界がある。それで多く取られる方法が後者だ。だから、夜叉が抱える会社にはそういう類のものが多い。その為の人材育成の場でもあるんだ、あの学校は」
「つまり、音楽科の人間は夜叉にとって餌を生む家畜ですか」
「ひどいな。まぁ、彼らを利用している事には変わりないからな。だがその変わり最大限彼らの才能を伸ばし、将来の道を作る」
「別に私は、その道に進むつもりもないから関係ない」
「そりゃそうだ。で、本題に戻ると、そういう目的のせいか学園内は見事に夜叉派と鬼克派の真っ二つに分かれている。普通科にいる鬼克は、音楽科の人間を良くは思っていない。夜叉は、逆に彼らを契約者として保護する立場だ。だいたい、夜叉と交流のある家からの推薦者ばかりだからな。そこにあんたの登場だ。鬼克でも夜叉でもない言わば中立の立場の人間が入ればどうなるか、それも夜叉にとっては何より魅力的な人間だからな」
「でも、私もどちらかと言うと夜叉派に属する立場じゃないの?」
「それが、あんたの親父さんは狸でな。どちらとも付き合いが深い。だからこそ、一代であれだけの会社を興した」
「パパが狸なのは否定できない。あ、でも私は、こっちでは偽名で過ごすんだけど」
「偽名を使ったところで調べられたらすぐあんたの素性なんてばれるさ。でも、偽名を使うってことで何か理由があるとどちらも思うだろう。そしたら自然と争いになるだろう、どちらもあんたを取り込もうとして」
そう言って笑う緋乃は、美しく妖しさ満点で小夜もくらっとする。何がしたいのだろう、鬼頭も緋乃も。一触即発と思われる場所にわざわざ爆弾を落とす。そんな事をすればどうなるか、想像出来るだろうに。
「まぁ、とにかくあんたは、学園生活を楽しめばいい。周りに流されることなく発言、行動すればいい」
「えぇ~。私は目立たない方向で行く。ひっそり生活出来ればいいもの」
「そう出来ればいいがな」
緋乃の予言めいたこの発言通りに小夜の学生生活は、本人の望むものとは別のものになっていくのだった。




