2ー4
今回で前置き(?)は終わりです。
次話から話は舞台を変えます。ただ、その前に今回の分をお楽しみください。
夜、トラベルたちが寝静まった頃。動いている者がいた。
風。その様子から察するに水を探しているようだった。
そして、そのまま台所に向かった。台所には金田のお父さんが先にいた。
「よう、風ちゃん。ずいぶんと早起きだな。」
金田のお父さんの方が先に気づいた。
「ええ。喉が渇いたので。それより、聞きたいことがあります。
先ほどの対局で何をなされたんです?失礼ですが、あなたは素人ですよね?
なのに私が負けた。けして油断していたわけではないのに。」
金田のお父さんは、いたずらっ子のようにニヤリと笑った。
「いったいどう言うことかな?」
「誤魔化さないでください。あなたは対局中、どこか別の方を見ていた。違いますか?」
「う~ん。なんのことか分からないな。
それより風ちゃん、君は真剣になると口調が変わるのかい?」
風が金田のお父さんを強く睨む。
「話をそらさないでください。
それに、私が一番疑問に思ったのは私の指し手を見ずに、あなたが駒を進めたことです。
たとえ初心者といえど、相手の指し手を見てから駒を進めます。
なのに、あなたはそれをした。しかも私に勝つというオマケ付で。
納得のいく説明をしてください。」
金田のお父さんは多少迷う素振りを見せたが、結局首を横に振った。
「今はまだ教えられないね。もう少ししたら、嫌でも分かるから。
それじゃ、おじさんは眠いから布団に戻るとするよ。」
そのまま、手を振りながら金田のお父さんは寝室に戻ってしまった。
後に残った風も、金田のお父さんを追うべきか悩んだが、諦めて寝室に戻った。
そして、時間は過ぎていき朝になった。
俺たちは眠そうに目をこすりながら布団から起き出た。
パジャマを着替えると、床の間から良い匂いがしたので行ってみると、朝食が並んでいた。
俺たちは寝ぼけながら食事を口にしたが、あまりの旨さに目が覚めた。
そして、食事を食べ終えてゆっくりした後、俺たちはポートに行くために外に出た。
「ポートヘはスカイボードを使えばすぐに着くわ。みんな、準備はいいわよね?」
八重が俺たちに確認する。俺たちは全員うなずいた。
「じゃあ、行きましょう。おそらく、ポートには魔法連合国家がいると思う。
だから、スカイボードに乗ったままゲートに突っ込むわよ。」
つまり、タンザニア国に着くまでは休憩は無いのだと八重の言葉を脳内変換する。
俺と同じ考えなのだろう、金田が小さくため息をついた。
嘆いてばかりはいられないので、俺たちはスカイボードに乗り込んだ。
そして、俺はゆっくりと目を閉じた。永遠の眠りにつかないよう祈りながら。
スカイボードが急発進するのを体で感じてから20分ほどたった頃、急にスピードが落ちた。
目を開けると、スカイボードは空中で停止していた。目の前にはポートが建っていた。
「おかしいわ。人が誰もいない。何があったのかしら。」
八重が腑に落ちない表情でポートの入り口のドアにスカイボードを進めた。
ドアが俺たちを感知して、自動で開いた。
その瞬間、火の玉が飛んできた。八重がとっさに分身を作りガードする。
中には火向がいた。口にマスクを着けている。
「よお、また会ったな。さっきは油断していたが今度は逃がさねえよ。」
「なぜ私たちを狙うの?私たちを捕まえて得るものはなに?」
火向は八重の質問に対して少し考える素振りを見せた後、話し始めた。
「お前たちもマシンについては少なからずの知識は持っているんだろう。
だが、GODについては知らないはずだ。GOD、俺たちはそれを求めている。
そして、GODを復活させるためにはトラベルの力は必要不可欠なんだよ。
他の奴らはどうでも良いんだがな。」
「GODって何なのよ!人の命を狙ってまで造りたいものって何!?」
「史上最強最悪のマシンさ。これ以上はお前たちが知る必要はない。
お前たちに時間をやるよ。もし、トラベルが無条件でこっちに来るのなら、他の奴らの命は助けてやる。
さあ、考えな。」
俺たちは顔を見合わせた。答えは考えずとも出ていた。
火向は俺が無条件降伏しようとも、みんなのことを殺す。そういう目付きだった。
「私に考えがあるわ。あれを見て。」
八重が火向の後ろの方を指差した。そこには青く光るゲートがあった。
「標識によると、あのゲートはタンザニア国に通じているわ。
風の魔法を利用してスカイボードのスピードを最大限にして、一瞬でゲートに突っ込むのよ。
おそらく、時速500キロぐらい出せれば火向を振りきることが出来るわ。
もし、タンザニア国に魔法連合国家が居たとしても時速500キロ出してれば大丈夫よ。
まあ、そもそもスカイボードの限界自体が500キロなんだけどね。
風、どれくらい時間があれば良い?」
風は何回も顔をしかめながら思案した。
「5分…いや、3分あればなんとかなると思います~」
「分かったわ。じゃあ、詠唱を開始してちょうだい。私たちで時間を稼ぐから。」
風が詠唱を始めた。しかし、すぐに火向がそれに気づいた。
「チッ。交渉決裂だな。まっ、どうせ殺す気だったからどうでも良いんだけどな。」
火向が手から火球を生み出して俺たちに投げつけてきた。
「クズどもがっ!さっさと死ね!」
火向の火球は八重が分身を作りガードする。
火向は次々と火球を作り投げつけてくる。八重が逐一それを分身でガードする。
俺は、そのどさくさに紛れて瞬間移動を繰り返して火向の後ろに立って火向を捕まえようとした。
「考えがまる分かりなんだよ!クズがっ!」
火向の背中を守るように炎の壁が現れた。俺はとっさに手を引っ込めた。
「ならば、これはどうだ!」
火向が俺の方に注意を向けている間に金田が木刀を投げつけた。
だが、火向はすぐに反応して木刀を炭に変えてしまった。
「何度言えば分かるんだよクズが!俺に飛び道具は効かねえ!」
火向が手を上に掲げた。すると、手のひらの上の空間にゲートのようなものが現れた。
その青い円の中から手榴弾が1つ出てきた。火向がそれを手に取った。
「お前らこれは何か分かるよな。手榴弾だ。お前らにこれ以上魔力を使いたくねえんだよ。」
火向が手榴弾を投げつけてきた。手榴弾が地面の上を跳び跳ねて、止まった。
八重が分身を作って、分身が手榴弾の上に覆い被さった。
そのまま手榴弾が爆発した。八重の分身のおかげで俺たちは爆発には巻き込まれなかった。
「今度はそんなんじゃ防げねえよ。」
火向がもう一度手を上にかざした。ゲートが現れて、中からは先ほどの5倍以上の大きさの手榴弾が出てきた。
「やめなさい。そんなことをすれば、あなただって無事には済まない。」
火向が八重に侮蔑の笑みを向けた。
「俺がこの程度の爆発で傷を負うとでも思ってるのか。俺は炎使いだぞ。
死ぬのはお前らだけだよ。じゃあな。」
火向が手榴弾をじめんに落とした。俺は周りを見た。
「あれだ!」
俺は火向の右手側の奥に大きな噴水があるのを見つけた。そして、手榴弾に手を伸ばした。
「今さら投げても遅えよ!」
火向が声を出して笑う。俺は、手榴弾を投げるのを止めて、手榴弾を持って瞬間移動をした。
何回も瞬間移動をし、噴水にたどり着いた。そして、手榴弾を水の中に落とした。
すぐに瞬間移動を繰り返して、その場から逃げた。
俺が八重たちの所に戻るのと手榴弾の爆発は同時だった。
「なるほど、短い距離しか瞬間移動を出来なくても連続で移動すれば長距離も瞬間移動出来ると。
だが、魔力を相当使用するんじゃないか?息があがっているぞ。
クズにしたら上出来か。まあ、どうせ次で終わりだけどな。」
火向が両手を上にかかげた。両手の上に大きなゲートが現れた。
そして、ゲートから無数の手榴弾が落ちてきた。あっという間に火向の足元は手榴弾でいっぱいになった。
「終わった…」
「終わった~!」
金田の絶望した声と風の声が重なった。
「今よ!みんな乗り込んで!」
俺たちはすぐにスカイボードに乗り込んだ。風も自分のスカイボードに乗り込む。
「待ちやがれ!」
火向が足元の手榴弾に向かって火を放った。手榴弾がいっせいに爆発する。
スカイボードの加速と手榴弾の爆発、速かったのはスカイボードのほうだった。
風の魔法のおかげでスカイボードは一瞬で最高速に達した。まさに風になった気分だった。
爆風よりも速く俺たちはゲートへとたどり着いた。そのままゲートをくぐる。
そして、俺たちが行ってすぐに爆発が辺りを包み込んだ。
「くそっ、くそっ、くそ!」
火向は悔しがって大声をだすが時すでに遅しだった。タンザニアへのゲートは爆発によって使用不可になっていた。