2ー3
う~ん、今回は特に言うことないですねえ。
部屋は男子2人部屋と女子2部屋に別れていた。中に入ると、なかなか豪華で良い部屋だった。
部屋に入って一息つくと、金田の父さんが飲み物を運んで来てくれた。
「そういえばな。風ちゃんのことなんだけど、彼女は今年の将棋プロ大会の優勝者なんじゃないか?」
「プロ大会の優勝者?親父、それは本当か?」
「ああ。確かにプロ大会の優勝者のはずだ。」
その話が聞こえたのか、隣の部屋に居た風が障子を開けて顔を出した。
「そうですよ~今年は楽しかったです~」
「おう。やっぱりそうだったか。どうだい、俺と勝負しないかい?」
「いいですよ~お手柔らかにお願いします~」
「そうと決まれば、すぐに準備だ。」
金田の父さんは俺たちの部屋の中に入って部屋のすみの棚の扉を開けた。
そこから、将棋の道具一式を取り出して準備を始めた。
俺たち3人は将棋は、いまいち分からないので今後のことでも話し合うことにした。
「まず、一番気になるのは火向の裏切りだよな。」
金田が切り出した。
「そうだな。確かに前々から、あいつは俺たちEクラスを毛嫌いしていた。
今日だって、クラス対抗魔法合戦で俺のことを殺そうとしたしな。
ただ、火向が魔法連合国家に属していたのなら、あいつのいたAクラスの生徒も怪しいよな。」
「そうだよなあ。あいつら魔法が落ちこぼれのEクラスのことを見下してたしな。
魔法連合国家から誘いがあれば裏切るかもな。そしたら、厄介だよ。あいつら魔法はすごいからなあ。」
「静先生に話を聞けたら良いんだけどなあ。お前ら、先生の通話番号知らないよな。」
俺と八重はうなずいた。
「私は知ってますよ~」
風が手を上げた。
「本当か?だったら教えてくれ。」
「いいですよ金田さん~ただし、この対局が終わってからですけど~」
そう言って風は盤面に目を向けた。俺たちも対局の状況をみるために盤面に目をおとした。
勝負は思ったより進行していた。両者とも思考時間は短くどんどん手を動かしていく。
そして、50手目ぐらいだろうか風の手が止まった。そして、頭を下げた。
「詰み、ですね。私の負けです。」
「おう。なかなか楽しかったぜ。またやろうな。
さてと、俺は仕事に戻るか。」
そう言って、金田の父さんはどこかに行ってしまった。俺たちはしばらく、ぼんやりしていた。
「風、本気でやったんじゃないよな。手加減したんだろ。俺の親父に気を遣って。」
「いえ、手加減はしていませんよ~金田さんのお父さんがお強いんです~
対局も終わりましたし、静先生に通話してみますか?」
「そうだな。お願いするよ。」
風はオーブをポケットから取り出して、操作し始めた。ちょっとすると画面に静先生の顔が現れた。
「みんな無事に風に出会えたみたいね。良かったわ。さて、先生に聞きたいことがあるんでしょ。」
八重が手を挙げた。別に授業じゃないのに。
「では、質問させてもらいます。先生はどれぐらいサイエンスやマシンを知っているんですか?
そして、こちらの軍はマシンを使わないんですか?使えないんですか?」
「そうね…私が知っていることは少ないわ。まず、私たちの軍はマシンを使えないわ。
あなたが持ってきた禁書を見れば分かるけど、その本にはマシンの使い方や動力は載っているわ。
けれど、マシンの作り方は載っていないの。それ以前に、世界中のどこを探しても作り方は見つからないの。
なぜか、マシンの作り方だけは伝えられていないのよ。
そして、仮にマシンを作れても、マシンの動力の石油やウランが存在していないのよ。
正確には、今現在見つけることが出来ないの。もしかしたら、昔は採掘出来たのかもしれないけどね。
あと、電気も動力として使えるのだけど、その量が圧倒的なの。
ただでさえ、電気を生み出す魔法を使える者は少ないってのに。
どう分かった?」
「ええ。つまり、マシンの作り方と動力を入手出来ないから私たちはマシンを作れないと。
でも、魔法連合国家はマシンを作っていますよね?現に私が拾った敵の銃はまだ新しい物です。」
「その通りよ。スパイによると彼らは何かしらの手段を用いてマシンの作り方と動力を確保したらしいの。
方法はまだ分からないけどね。そして、スパイから重要な情報が入ったの。
もしかしたら、私たちの首相を殺したのは魔法連合国家じゃない可能性があると。
もし、そうならば魔法連合国家との戦争を止められるかもしれない。
いずれにせよ、情報が確定するまでは、どうしょうもないわね。」
「そうですね。でも、首相を殺したのが魔法連合国家でないとすると、誰が?」
「残念だけど分からないわ。さて、他に聞きたいことは?」
「これから私たちはどうすれば良いかを知りたいんですけど?」
「とりあえず、私と合流することを目標としましょう。
私は今、タンザニア国にいるわ。タンザニア国は島国で人口も少ないわ。
位置は君たちのいるエルジア国の下側よ。君たちが直接タンザニアのポートまで来てくれれば迎えに行けるわ。」
「分かりました。タンザニアのポートですね。」
「そう。お願いね。私は現地のマジックスクールの生徒を保護しているから動けないの。
だから、危険だけど君たちに直接来てもらうしかないのよ。
他に質問もあるかもしれないけど、こっちに来たら聞くわ。それじゃ。」
先生は通話を止めてしまった。ツーツーと言う音が響く。
「切られちゃった…」
八重がため息まじりに呟く。
「なあ八重、俺はまだ海外に行ったことがないからポートを使ったことがないんだよな。どんな感じなんだ?」
金田が八重に聞く。
「ポートは海外に移動するための施設というのは知ってるわね。
ポートの中には、ゲートと呼ばれている円のオブジェがあるの。
そのオブジェの円周の太さは直径30センチぐらいで、円の内側は青い鏡のようになっているわ。
そして、そこを通ると海外の別のポートのゲートから出てくるというわけ。
一瞬で終わるから、特に何も感じないわ。だから初めてでも大丈夫よ。」
「なんほどなあ。それなら大丈夫だな。
そんなことより、今まで黙っていたけど重大発表があります。
なんと、俺の魔法がレベル2になりました!」
金田の大声が虚しく響いた。誰一人興味をいだいた顔をしていない。
「えっ、無反応?なんか悲しいんだけど…
一応説明しておくと、今まで俺の魔法は発動条件として小切手に欲しい物を書くだろ。
そして、額面に出た金額分の金を持っていたら、小切手を破ったりして2つ以上の紙片すると…
欲しい物が出現したわけだが、レベル2では俺以外の人が小切手を破っても良いんだよ。」
金田が話し終えると、八重がため息をついた。
「せっかくポートについて教えてあげたのに、恩を仇で返された気分だわ。」
「そんなに言わなくても良いんじゃないですか~気分を害したぐらいだと思いますけど~」
風がのほほんと言う。すかさず金田がツッコミをいれる。
「いやいやいや、風さん。会ったばかりの人にそこまで言いますか!
少しは気を使ってくださいよ。」
「私のことは風と呼び捨てして良いですよ~」
「いや、そんなことはどうでも良いから!」
八重が手を金田の口の前に当てた。
「金田、女心が分かっていないわね。次にこんなことを言ったら命はないわよ。」
金田が八重の手を取り払った。
「なんで!どこが悪かった?女心関係なくね!」
「関係あるのよ。それが分からなきゃ一人前の大人になれないわよ。」
「そしたら誰もが子供だよ!」
「人は皆いつまでも夢みる子供なのだ、ですよ~」
「いや、意味分からないから!風、少しは落ち着こうよ!」
俺はもう少し、このコントを見ていようと思ったが止めて八重が持ってきた本に目を落とした。
さっき禁書欄で見た本の抜けていたページ、そこに書かれていたGODが気になったからだ。
目次欄を見たがGODの文字はなかった。仕方ないので、1ページずつ確認する。
しかし、いくらめくってもGODについては何も分からなかった。
俺が諦めて本を閉じると、金田のお父さんが夕食をもってきてくれた。
夕食は豪勢で、俺たちはすぐに飛びつき、そのまま無言で一心不乱に食べた。
食べ終わると、今までの疲れのせいか眠くなってきたので、全員今日はもう寝ることにした。
結局、GODとは何なのか。なぜマシンの作り方が継承されていないのか。
疑問は増えるばかりだが、それを解決できそうではなかった。
俺は目を閉じた。