1ー1
色々諸事情があって、他の小説は一時中断とさせていただきました。
その代わり、新しい小説を初めさせてもらうことにしました。
中々カオスな物語ですが、読んでいただければ幸いです。
俺の目の前にいる火向炎が笑った。
「まったく、話にならねえな。お前、それでもマジックスクールの生徒か?」
火向は笑うのを止めると詠唱を始めた。俺に止めを差す気らしい。
「唸れ火の精霊。我をも焦がせ!」
そのかけ声とともに俺の目の前に巨大な火球が出現した。
「これで終わりだ!ビッグバン!」
その瞬間、火球がはじけて熱波が俺を襲った。しかし、俺は火傷を負わなかった。俺の体を暖かい光が包んでいたからだ。
「そこまで。この勝負、Aクラス、火向 炎の勝ちとします。」
俺のことを守ったのは静先生らしい。俺に向かってにっこりと笑った。
「火向君。トラベル君を殺す気でもあるの。私が止めなきゃ大ケガよ。」
静先生が火向を睨む。火向はわびれる様子もなかった。
「あんぐらい、魔法が使える奴なら誰だって対応できますよ。まっ、Eクラスは例外ですけど。」
「火向君、口を慎みなさい。さて、これでクラス対抗魔法合戦を終えます。」
そう言って静先生は去っていった。俺もそれについて行くようにその場を去った。
「さあ、魔法史の授業を始めますよ。」
クラス対抗魔法合戦の次の授業は魔法史だった。先生はもちろん静先生だ。
先生はEクラスの授業全般を一人で行っている。先生は学園のアイドルのような存在だ。
Eクラスの唯一の特権、それは静先生だと言われるほどだ。
「ちょっと、トラベル君。話を聞いてましたか。」
静先生が俺が上の空だったのに気づいた。
「まったく。教科書、66ページを読んでください。」
俺は、気だるそうに教科書を開いた。
「前述のとおり、人類は初めて魔法というものに気づき、使い始めました。
そして、現代にいたります。今では誰もが個人差はありますが魔法を使えるようになりました。
しかし、それゆえに魔法は戦争に使われることがしばしありました。現在、起きている冷戦もその一つです。」
俺は教科書を閉じた。
「はい、ありがとう。では、八重さん、冷戦の説明してください。」
八重。うちのクラス、いや、学園内でもトップの頭脳をもつ俺の幼なじみ。
しかし、魔法に関してはからっきしなのでEクラスにいる。
「冷戦とは、魔法能力の差で階級をつける、魔法選民思想の魔法連合国家と我々が所属している地球連合国家との争いです。
今は、互いに力が拮抗しているため血を流す争いにはいたっていないので、冷たい戦争。通称、冷戦と呼びます。
しかし、近年、緊張状態が高まっており、首相どうしで話し合いをしてはいますが、まだ効果はでていません。」
先生が拍手をする。
「素晴らしい解答ね。さすが八重さん。
さて、国立魔法学園、通称マジックスクールは私たちの在学する学園ですが、この学園は3年前に設立されました。
これがどういう意味か分かる人はいますか?」
八重が手をあげた。先生がそれを見つけ、八重を当てた。
「冷戦は5年前に始まりました。
つまり、この学園は冷戦が終わり、血を流す争いになった時に魔法連合国家と戦うための戦力を育てる施設と言うわけです。」
「またまた、素晴らしい解答ね。それで合っているわ。
そう、この学園は有事に対応出来るように魔法のエキスパートを育成するために設立されたのです……」
俺は半分、上の空で話を聞いていた。
(魔法のエキスパートか、俺たちEクラスには無理だな。
なにせ、EクラスのEはイレギュラーのEだとすら言われてるしな。
規格外、つまり論外だと言うことだ。
それに、このクラスは俺を含めた3人しかいなくて、俺と八重と金田、全員、一種類の弱い魔法しか使えないし。)
ジジ…スピーカーから雑音が聞こえた。何か放送が始まるらしい。
『緊急放送です。たった今、この学園に不審者が侵入しました。全校生徒は先生の指示に従ってください。』
「早かったわね。」
静先生が呟いた。先生が次の言葉を言う前に、教室のドアが開いた。
そこには軍服に身を包んだ男が立っていた。手に何か筒のような物を持っている
「見つけた。トラベル、俺についてきてもらいますよ。」
男が近づいてきた。それを止めるかのように先生が声をあげた。
「待ちなさい。あなたは魔法連合国家の人間ね。トラベルは渡さないわ。」
男が先生を見て、驚きの表情をみせた。
「これは驚いた。まさか精霊使い静さんですか。この子のお守り?」
「あなたには関係ないわ。しかし、まさかこんなに早く来るとはね。予想外よ。」
男がニンマリと笑った。
「ええ。俺たちにも嬉しい誤算でした。もうすぐ冷戦が終わります。そして、ゴッドを復活させるのですよ。」
男が手に持っていた筒を先生に向けた。
「とりあえず、あなたは眠っていてください。」
パンッ、乾いた音が鳴った。男が手に持っていた筒から煙が出ている。
一方、先生はバリアを張ったらしい。体が光っている。
「チッ、これほどの魔法を詠唱破棄出来るとは。まったく、厄介なお方だ。
あなたがいるとは予想していませんでしたよ。また、来ますよ。」
そう言い残して男は姿を消した。どうやら瞬間移動をしたらしい。
先生が息を吐いて、安堵の表情を浮かべた。
「行ってくれたようね。」
今度は俺たちの方を向いた。
「あなたたちに言っておくことがあります。ただ、ここじゃ話せないから、今から私の家に来てもらいます。
私の家の場所は分かるわね。先生が早退手続きしておくから今すぐ向かいなさい。」
先生は有無も言わせない様子だ。八重が遠慮がちに声をだした。
「いったい、どういうことですか。」
「残念だけど説明している暇はないわ。時間が惜しいの。早く行って。」
先生の迫力に負けた俺たちは、先生の家に向かうことにした。
学校を出てから俺たちは八重に、さっきの男が手に持っていた筒のことを聞いた。
「おそらく、あれは銃よ。マシンの一種ね。」
「マシン?なんだそりゃ?」
金田が首をかしげる。
「ロストテクノロジーの一つよ。昔、人類はサイエンスと言うものを学んでいたらしいわ。
マシンはその知識を用いて作られたと言われているわ。
そして、銃はマシンの一種で人を殺すための道具よ。あの筒の先から弾丸を高速で発射するの。」
金田が感心して声をだした。
「へえ~。よく知ってるな。どこでそんなことを知ったんだ?」
「幼い頃に国立中央図書館の禁書欄で見たのよ。」
「禁書欄!?あそこは立ち入り禁止のはず。」
「ちょっと工夫したのよ。そしたら見ることができたわ。
しかし、何でさっきの男はトラベルを捕まえようとしたのかしら。あなたの能力って…」
話の続きは俺が引き継いだ。
「ただの瞬間移動だ。しかも、1メートルしか移動できないな。でも、お前らも同じようなもんだろ。」
「そんなことないわ!私は自分の分身を作ることが出来るのよ。」
八重が反論する。俺はそれを鼻で笑った。
「何言ってんだ。分身はお前に瓜二つすぎて、身体能力も一緒なんだろ。
それに、他に魔法を使えないんだろ。運動音痴が2人になるだけだ。」
金田が笑った。
「ハッハッハ。やっぱり、俺の魔法が一番だな。この俺の魔法、マネーには及ぶまい。」
「いや、お前には負けない。」
「あなたほど使えない魔法はないわ。」
俺と八重の声が重なった。思わず、金田がたじろぐ。
「えっ、2人そろって全否定!?」
「そりゃそうよ。だって、あなたの魔法はお金を何か別の物に変化させるだけでしょ。
そのうえ、変化させる物と同等のお金を消費するんでしょ。
しかも、発動条件として小切手に欲しい物の名前を書いて、それを破る必要があるんでしょ。」
「八重、そこまで言うか。一応言っておくけどな。俺の魔法は詠唱破棄できるから一瞬で使用できるんだぞ。」
「そんなの、みんな一緒よ。私たち3人は全員詠唱破棄できるんだから。」
「ぐっ、痛いところを突いてくるじゃないか。」
「何が痛いところよ。馬鹿馬鹿しい。」
俺はため息を吐いた。
(また始まったよ。いつもいつも、よく飽きないな。)
俺は息を吐き終えて目の前を見た。すると、軍服を着た、さっきとは別の男がいた。
手には銃を持っていた。そして、無言のまま銃を俺に向けた。
危険だ、俺はとっさに魔法で少し右に瞬間移動した。その勘は当たっていたみたいだ。
銃の先から煙が出ていた。どうやら、銃を使ったらしい。
「危ねえな。いったい、目的は何だ!」
男は俺の問いかけには答えず、そのかわり銃を俺に向かって構えた。
パンパン、乾いた音が連続で辺りに響いた。俺はそれらを紙一重でかわした。
男は連続で銃を使った。俺はそれをずっと避け続けた。
しかし、6回避けるのが精一杯だった。
(やばいな。もう魔力がない。次の攻撃を避けたら、本当に魔力が空になるな。)
パン、男が銃を使った。俺は、それをなんとか避けたが魔力が底を尽きてよろめいた。
男はそれを見逃さなかった。冷静に銃を構え、引き金を引いた。
「危ない!」
八重の声と銃声が重なった。そして、八重と俺の体も重なった。
鈍い音がした。それは八重の体に弾丸が当たったことを意味した。
八重がゆっくりと前のめりに倒れた。
「八重!!嘘だろ!?」
俺は八重を抱き抱えた。しかし、八重の体は動かなかった。
俺は八重の体を揺すった。俺の体が八重の血で赤く染まっていく。