黑い匣
オーストラリアに住むブラックさんは技術職に就いている。
近年のオーストラリアの夏は連日の猛暑に見舞われ、日中の外では50℃を超す日すらある。
特に暑さの苦手なブラックさんはそのような地球規模の温暖化から逃れるために、11月~2月は季節的に冬である日本にやってきていた。その時期の仕事は閑散期であり、バカンスとしても毎年遊びにきているのだ。
ブラックさんは大学と院の6年を日本で暮らし、大の日本ファン。すっかりオタクになってしまった。
大学時代に所属していたワンダーフォーゲル部にて登山の魅力にハマり、以降母国のオーストラリアに帰っても山登りを続けている。
特に来日の際の雪山の登山がお気に入り。肌が張り付くほどの冷気と雪。オーストラリアではこのような一面銀世界は経験できない。日本に拠点となる別荘も購入してある。
その年も例年に漏れず日本の雪山を登山していた。すると目前で飛行機が山肌に墜落する光景に遭遇する。現場に一番近い場所にいるブラックさんは救助できる命があるなら助けねばと使命感を感じ、4時間程かけて急ぎ事故現場に到着した。
すでに火はほぼほぼ鎮火していたものの辺り一面に油の匂いが立ち込め、雪が解け土が剥き出しになっていた。幸か不幸か人間は原形すら確認できない。金属の残骸があちこちに散らばる焼け焦げた地帯があるだけであった。飛行機の大きさや死者が何人出ているかなどは事故現場に立っても全く見当がつかないので、NEWSにて搭乗者名簿の報道を待つしかないのだろうが、生存者がいないことだけははっきりと分かった。
ブラックさんはこれまでの人生で飛行機に乗る機会が多く、飛行機に積まれているブラックボックスというものに興味を持っていた。 そこで機首が落ちたであろう辺りを調べてみるとすぐにそれらしきものが見つかった。ブラックボックスは色がオレンジか黄色だと何かで見た気がしていたのだが、煤だらけでそれは真っ黒であった。
ブラックさんはいけないことだと知りつつ黒いソレを自身の日本の別荘まで持ってきてしまった。
2か月程、別荘に籠り録音されていた音声を解析し、不眠不休で音声データを聞き続けていた。
そこにはこれまで世界中で起こった飛行機事故の墜落の音声データが入っていた。
全ての音声データの墜落直前。機長の声で「予定通り」と吹き込まれていた。
墜落する飛行機は誰かの思惑で決められていたことが判った。
何度も何度も落ち、何度も焼け焦げ、この匣は真っ黒になったのだろう。
1年後
太平洋上に墜落した飛行機のニュースが流れる。その搭乗者名簿の中にブラックの名前が載せられていた。




