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ギルドを追い出された遺物修理屋ですが、赤札の廃棄品はだいたい直せます  作者: 蒼月よる


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7/20

水底の灯台

 蓋を開ける。

 音はしない。

 閉じて、棚に戻す。


 トウヤが作業台の上にノートを広げている。工房に入った遺物の目録を作り始めたらしい。品名、入荷元、状態、修理日、修理内容。几帳面な字で整然と並んでいる。

 私にはできない仕事だった。直すことに集中すると、記録まで手が回らない。


「リーネさん、今日ダグさんから廃棄品あるって聞いてます」


「ああ」


 午前中にダグが寄った。今週は廃棄品ではなく、別の持ち込みがあった。


「港湾管理局の役人が来る。引き揚げものを見てほしいそうだ」


 昼前に、役人が来た。堅い服を着た中年の男で、表情が硬かった。


「デルガの地下水路の定期点検で見つけたものなんだが」


 両腕で抱えた包みを作業台に置いた。布を外すと、重い金属の塊が現れた。

 円筒形の装置。大人の頭くらいの大きさで、表面全体が白い結晶に覆われている。まるで岩に貝殻が張り付いたような見た目だった。


「水路の壁に嵌まっていた。近づいたら薄く光っていたんだが、引き揚げたら消えた。危険物かどうか判断がつかない」


 赤札が結んであった。「発光遺物。危険性不明。廃棄」。


 私は装置を両手で持ち上げた。重い。結晶が分厚い。

 結晶の表面を指でなぞった。硬いが、ざらつきがある。水中で長年かけて堆積した層だ。


 結晶の一部を小刀で削り取った。白い粉末が手のひらに落ちる。

 匂いを嗅いだ。無臭ではない。かすかに金属的な匂いがする。

 舌の先に少量載せた。


「リーネさん、舐めて大丈夫なんですか」


「量が微量なら問題ない。……魔素を含んでいる。この結晶は、魔素が水中の鉱物と反応してできたものだ」


 結晶層を削って外装を露出させた。その下に、照明装置の構造が見えた。発光部のレンズ、反射板、内部に回路。

 回路を調べた。指で端子を一つずつ確認する。


「断線が三箇所。発光部への給電経路が途切れている。照明としてはもう動かない」


 役人の顔が曇った。


「やはり使えないか」


「照明としては、はい」


 私は結晶層に意識を戻した。削り取った粉末をもう少し集め、小さな器に水を入れて溶いた。白い懸濁液ができる。

 工具箱の隅にあった鉄の端材を取り出して、液に浸した。


「トウヤ、これを窓際に置いて。明日の朝、見てみろ」


「はい。何がわかるんですか」


「明日わかる」


 翌朝。

 棚の箱を開けた。音はしない。閉じた。


 窓際に置いた鉄の端材を取り出した。通常、一晩窓際に置けば朝露で鉄の表面に薄い錆が浮く。

 端材の表面を指でなぞった。滑らかだった。


「錆がない」


 トウヤが覗き込んだ。


「本当だ。全然錆びてない」


「この結晶は魔素を微量に放出し続けている。発光するほどの力はもうないが、金属表面の酸化を抑制する——防錆効果がある」


 結晶層を丁寧に剥がす作業を始めた。小刀と針で、装置本体を傷つけないように少しずつ剥がしていく。剥がした結晶を乳鉢で粉末にする。

 トウヤが横で粉末を小袋に詰めていった。


 午後、役人を呼び戻した。


「照明は直せません。でも、この結晶の粉末は使えます。水に溶いて金属に塗れば、防錆塗料になる。港の鉄鎖、船の金具、水路の柵——海水に晒される金属を守れます」


 役人がまじまじと粉末を見た。


「光らせるんじゃなくて、この白い粉のほうが使えるのか」


「この遺物は長く水の中にいました。その間に、本体が放出し続けた魔素が周囲の鉱物と結びついて、この結晶ができた。照明は死んでいますが、結晶のほうは生きています」


 赤札をほどいた。


「危険物じゃありません。港を守れる素材です」


 役人は粉末の小袋を受け取って帰った。後日、港湾管理局から正式な注文が来た。水路に同様の装置がまだあるかもしれないから、見つかったら結晶だけでも回収してほしいと。


 夕方、工房を片付けながら、トウヤが言った。


「本体は死んでも、身体が覚えていたもの、か。いい言葉ですね、リーネさん」


「別に。見たことをそのまま言っただけだ」


 棚の箱を見た。

 あの箱も、長い間何かを覚えているのだろうか。動かない歯車の中に、まだ何かが残っているのだろうか。


 開けなかった。朝に開けている。一日に二度も確認する必要はない。

 でも、少しだけ手が伸びた。


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