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ギルドを追い出された遺物修理屋ですが、赤札の廃棄品はだいたい直せます  作者: 蒼月よる


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13/20

五つに分ける

 蓋を開ける。

 音はしない。

 閉じて、棚に戻す。


「おはようございます。今日のはでかいですよ、リーネさん」


 トウヤが工房の前を指差した。荷車が止まっている。荷台に載っているのは——布で覆われた大きな塊だった。大人二人分くらいの体積がある。

 探索チームの男が三人、荷車の横に立っていた。


「遺跡の第四層から引き揚げた。崩落しかけてたから急いで出したんだが、でかすぎて他の修理屋は断られた。何とかなるか」


 布を外した。

 金属の塊だった。複数の装置が一体になった複合機械。全体が一つの筐体に収まっている。表面には旧時代の刻印がびっしり刻まれていて、接続部にはパイプや配線の跡がある。

 だが全体を繋ぐ中央の接続部——幹にあたる部分が、緑色の腐食でぼろぼろに崩れていた。


 工房の中に運び入れた。トウヤと探索チームの三人がかりで、作業台の横に置いた。


 私は全体を歩きながら見た。手で表面をなぞる。叩いて音を聞く。腐食部分を避けて、各部の状態を確認していく。


「全体は無理です。幹が死んでいる。中央の接続部が崩壊していて、全体を繋ぎ直す方法がない」


 探索チームのリーダーが肩を落とした。


「やっぱり駄目か……。苦労して引き揚げたのに」


「でも——」


 私は紙を取り出した。炭筆で、この機械の構造を描き始めた。


「ここと、ここと、ここは生きている」


 全体は死んでいる。だが、部分は生きている。

 右上のユニットは発熱機構。魔石を入れれば熱を出せる。

 左上のユニットは発光機構。レンズと反射板が無傷で、給電すれば光る。

 中央下のユニットは水平維持機構。精密な振り子とおもりで、台座を常に水平に保つ。秤の土台に最適だ。

 残りの構造材は二点。旧時代の合金で、強度と形状が工具の柄に向いている。


「分解すれば、五つの道具になります」


 探索チームのリーダーが目を丸くした。


「五つ? バラバラにするのか?」


「一つの大きな遺物としては戻せません。でも五つの小さな道具として生かせる。一つとして死なせたくない」


 分解作業を始めた。トウヤと二人がかりだ。

 まず発熱ユニットの接続部を切り離す。ボルトが四本。旧時代の規格で、手持ちの工具では回せない。工具箱の奥から、ギルド時代に使っていた特殊レンチを取り出した。


「トウヤ、ここを押さえていてくれ」


「はい」


 ボルトが一本ずつ外れる。古い機械油の匂いが立ち上った。発熱ユニットが筐体から離れた。トウヤが受け取って作業台に置く。


 次に発光ユニット。こちらは配線が複雑で、一本ずつ切り離す必要があった。どの線が発光機構に繋がっているかを、回路をなぞって確認する。


「リーネさん、ここで切っていいですか。この線、発光のほうに行ってますよね」


 トウヤが回路の分岐点を指差した。正しかった。


「いい。そこで切れ」


 トウヤがニッパーで線を切った。初めて、トウヤが自分の判断で分解作業の提案をした。


 水平維持機構の取り出しにかかった。精密な部品で、慎重に外す必要がある。振り子を固定して、おもりを一つずつ取り外し、台座を筐体から切り離す。

 トウヤに台座を渡した。


 トウヤの手が止まった。

 振り子の支柱を、じっと見ている。


「どうした」


「……いえ、昔、似たようなのを見たことがあるなと思って」


 トウヤの目が、一瞬だけ遠くなった。ここではないどこかを見ている目だった。


 聞かなかった。

 トウヤが語らないことは、聞かない。壊れた理由を聞かないのと同じだ。語りたくなったら、語るだろう。


「続けるぞ」


「はい」


 トウヤの手が動き出した。いつも通りの器用な手だった。


 残りの構造材を二つに切り分けた。工具の柄として使えるように、端を整える。


 五つの部品が作業台に並んだ。

 発熱ユニットは、薫製職人に声をかける。あの人なら使い道がある。

 発光ユニットは、港湾管理局に。水路の点検灯として使える。

 水平維持機構は、ノルに手紙を書こう。精密秤の土台に最適だ。

 構造材二点は、工具の柄として工房で使う。


「一つの遺物が五つの道具になって誰かの役に立つなら、壊れた甲斐がある」


 言ってから、自分の言葉に少し驚いた。

 壊れた甲斐がある。壊れたことを、肯定する言葉を口にしたのは初めてだ。


 戻せないなら、別の形で生かす。

 当たり前のことだ。


 探索チームが帰った後、トウヤが片付けをしながら言った。


「リーネさん、五つに分けるって発想、俺にはなかったです」


「全体が見えれば、部分が見える。部分が見えれば、何が生きているかがわかる。壊れたものを見る時は、壊れた場所じゃなくて、生きている場所を探せ」


 トウヤがノートに書いている。「壊れた場所じゃなく、生きている場所を探す」。


 棚の箱を見た。

 あの箱の中にも、生きている場所はあるだろうか。焼けた歯車の隣に、まだ動く部品はないだろうか。


 今まで、焼けた歯車ばかり見ていた。

 他の部分を、ちゃんと見ていただろうか。


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