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ギルドを追い出された遺物修理屋ですが、赤札の廃棄品はだいたい直せます  作者: 蒼月よる


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10/20

赤札が多すぎる

 蓋を開ける。

 音はしない。

 閉じて、棚に戻す。


 窓から港が見える。秋口の朝風が海の匂いを運んでくる。

 朝、工房の戸を開ける前にダグの声が聞こえた。


「おい、リーネ。今日は荷が多い」


 表に荷車が止まっていた。木箱が三つ積んであり、中に布で包まれた遺物が詰まっている。ダグが一つずつ降ろす。


「今月は異常だ。こんなに廃棄が出たことはない」


 トウヤと二人で木箱を工房に運び入れた。作業台に並べる。数を数えた。十点。


「十点……。いつもは週に三つか四つなのに」


 ダグは帽子を脱いで額の汗を拭いた。


「上から基準の改定があったと聞いた。詳しくは知らない。ただ、倉庫に入ってくる廃棄品の量は俺が一番わかる。先月から倍になってる」


 ダグが帰った後、トウヤと手分けして検品を始めた。


 一点目。小型の排水ポンプ。赤札には「動力部不良」。

 外装を開ける。動力部の魔石受け座を確認した。汚れているだけだ。清掃すると魔石が反応して、ポンプが動いた。

 正常。


「リーネさん、これも正常ですよね……」


「次」


 二点目。温度測定器。赤札には「測定精度低下」。

 感応部を調べた。精度は基準内だった。そもそも基準の許容範囲に入っている。

 正常。


 三点目。小型照明器。これも接点の清掃だけで復旧した。

 四点目。通信筒の部品。内部回路に異常なし。

 五点目。計量器。目盛りのずれを調整するだけで使える。


 五点連続で正常、あるいは軽微な損傷のみ。


「おかしい」


 六点目から八点目——保温容器、加熱器の部品、回転砥石。どれも塗層剥離、端子折れ、油切れといった軽微な損傷ばかりだった。


「八点目まで確認した。全部、正常か軽微な修理で使える」


 トウヤがノートに記録していた。手が少し震えていた。


「リーネさん、この赤札の判定……」


「私が書いた基準と違う」


 赤札を一枚手に取った。判定理由を読む。「動力部不良」。外装を開けて確認した形跡がない。私の基準では、外装を開けて内部を目視確認し、接点試験を行うことが必須だった。

 それが省略されている。外側から動かしてみて、反応しなければ「不良」。それだけの判定だ。


 九点目を開けた。

 これは違った。内部回路が溶断していて、素材ごと変質している。過負荷で焼けたものだ。

 赤札の判定は正しい。修理不能。

 私が赤札を書き直して貼った。


 十点目。

 外装に見覚えのない刻印があった。小さな紋章のような印。遺物本来の刻印ではない。後から打たれたものだ。

 この印には覚えがある。デルガの盗品市場で使われる所有者印だ。


「トウヤ」


「はい」


「これは修理しない」


「なんでですか」


「盗品の可能性がある。この刻印は元の持ち主のものじゃない。後から打たれている」


 トウヤが息を呑んだ。


「ギルドに返すんですか」


「いや。ギルドに返しても廃棄される。元の持ち主に返すべきだ。……見つかれば」


 十点目を布で包み直して、棚の奥にしまった。


 夜。

 トウヤが帰った後、一人で作業台を拭いた。

 今日の結果を整理する。十点中八点が正常か軽微。一点が正当な廃棄。一点が盗品の疑い。


 八割が、捨てなくていいものだった。


 棚の箱を取り出した。蓋を見つめた。


「基準が変わっている」


 声に出した。誰もいない工房で。


「……誰が、何のために」


 蓋を開ける。

 音はしない。

 閉じて、棚に戻した。


 工房を出て、裏通りを歩いた。食堂の窓が橙色に光っている。あの魔石灯は、まだ元気に働いている。

 干物屋の店先に、元保存箱の乾燥棚が置いてあるのが見えた。

 食堂に寄った。女将が水を出しながら言った。「最近ギルドの評判悪いわよ。ちゃんと使えるのに廃棄って言われたって、うちだけじゃなかったみたい」


 直したものは、ちゃんと使われている。

 捨てなくてよかったものが、ここにある。


 なのに、八割が捨てられようとしていた。


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