#6 キツネ狩り(2)
森に緑はほとんど残っていなかった。赤や黄に染まった枯葉が地面に落ち、食べれるかわからない実が樹木いっぱいに実っていた。とても綺麗で狩りの緊張感がなければ、紅葉狩りを楽しめただろう。私としては狩りもほどほどにして、ピクニックに移って欲しかった。
イスカ様が楽し気に話していたが、リア様がジェスチャーをすると私とイスカ様は黙った。
リア様が指を指すとそこには冬に向かって換毛期のウサギがいた。
リア様は、イスカ様に仕留めるように促した。
イスカ様は右手に魔力を収束させると魔力が球体になった。
「【第一術式 丸弾】」
しかし、気のせいかもしれないが、イスカ様はその球体に集中し過ぎて覚束無い様に見えた。
「【第一術式 投射】」
投げるようにして魔力を放つとウサギに向かっていった。
しかし、ウサギはそれに当たる前に気付くと逃げて森の奥に消えていった。
「##$€」
「そうですね。惜しかったですね」
「惜しいものか!」
リア様に同意する様にイスカ様を慰めようとするが、どうやら逆効果だったみたいだ。
「兄上なら五歳の頃には、第五術式まで習得していたと言うじゃないですか」
魔術について知識は全くないが、彼が言うことを予想するには、数字が大きければ大きいほど凄いのだろう。
「・・・・・・」
兄弟間の嫉妬。歳の離れた兄と比べられてしまうことへの不満。それが周りに従者が居ないこともあり、噴出してしまったのだろう。
しかし、こんなものは、可愛い嫉妬に過ぎない。
ただリア様はそれを慰める言葉も持っていない。
リア様は馬を近づけようとする。
「あっ、ごめんなさい」
イスカ様は怒られるかもしれないと思ったのだろう。そう謝って逃げる様に馬を歩かせた。しかし、私はリア様の手が中途半端に上がったのを見逃さなかった。
リア様はイスカ様を撫でようとしたのだ。その言葉も行動も届かない。
「私が後で勘違いを解いておきます。リア様が優しい方だとはイスカ様もわかっていますから」
相変わらずこの御方の言いたいことは全て伝わらない。私ならわかっていた筈なのに。咄嗟に伝えてあげられなかった。馬鹿みたいに不格好な慰めしか出てこない。
「%」
しかし、首を横に振った。
言わなくてもいいということだろうけど、そういう訳にもいかないだろう。
「しかし」
「##%」
頭を撫でられた。リア様の為に何も出来ていないのに。リア様は一体どのような表情をしているだろうか。しかし、リア様の顔は決して見れない。だって今私の顔は真っ赤で人に見せるのは難しいから。
先を行っていたイスカ様に追いつくとまた獲物を探すところから始まった。私自身狩り自体はしたことがあるわけじゃなかったから知らなかったけど、狩りというのは探す時間が一番大変だ。お父さんは罠を利用して狩っていた理由がわかった。基本的に退屈だ。それに獲物が逃げてしまうということもあって、お喋りをしてはいけないのだ。一回それでイスカ様に怒られた。だからこの狩りは非常に静かで、気まずかった。
ガサガサと動物が草木を通る音がした。
その場の誰もがその音を聞き、その動物と目があった。それは大きな鹿だった。
それを見てイスカ様は魔力を収束させるが、リア様が止めた。
「.......」
イスカ様はどうして止めるのですかとでも言いたそうな顔をしていたが、リア様は答えない。それが説明出来なかったのか、説明しなかったのかはわからない。
イスカ様は疲労もあったのか、少し不機嫌に見えた。
「少しお茶の時間にしませんか?」
「何故お茶なぞ!」
とまあイスカ様が怒ることはわかっていた。
「#÷#」
でも、リア様がそうしようと言えば、イスカ様はそれに従った。
多分イスカ様は疲れているのだ。思った様に魔術は上手くいかないし、獲物すら見つからない。ただ怒りっぽいからといって目くじらを立てることでもない。それに良い所もいっぱいある。何よりも自分のやってしまったことを後悔できることだ。
少し開けた場所に行くとリア様に馬から降ろして貰った。その間にリア様は周りを見回った。バスケットからティーセットを取り出すと一つ問題が起こった。
「これってどうやって使うのでしょうか?」
「メイドのすることなんて知るわけないだろうが。誰かに教えて貰わなかったのか?」
「ピクニックに出るのも、実はこれで二回目なんですよ。その時は御茶を外で汲むなんてやっていないですし。今回も従者の方におまかせするつもりだったので…」
そう言うとイスカ様は少しバツが悪そうな顔をした。
「ああ、いや、そういうつもりじゃ…」
「わかっている」
本当に従者がいないことを責めるつもりなぞなかったのだが、結果的に責める事になってしまった。
「貸せ。魔石の使い方ならわかる」
責任を感じたのか私から魔石を取ると魔石に魔力を込めた。
「これでいいのだろう」
そう言って炎を灯した魔石を捨てるかのように地面に捨てた。
この上に鍋を乗っければいいのかな?
しかし、私は失念していた。経験がないということは危険性がわからないということなのだ。今の季節は秋。紅葉の時期、そして地面に、乾いた葉っぱが沢山あるのだ。
「ど、どうしましょう。枯葉に火がついています」
「なっ」
怖いのは火事である。枯葉は燃えやすく、この時期枯葉なぞが地面いっぱいに敷き詰められている。これでボヤ騒ぎなぞ起こしたら、あっという間に森が焼けてしまうだろう。
火こそ出ていないが、枯葉を焦がす熱が、どんどんと広がるのがわかる。
「リア様を呼びましょう」
リア様は少しだけ離れていて私達の様子なぞ気づいてもいない。
「駄目だ」
リア様が消せるかどうかはわからないが、それを判断するにも、私達では未熟過ぎた。しかし、イスカ様は駄目だと言ったのだ。
「背に腹を変えられまい」
そう言うともう一度魔力を込め始めた。
「【第一術式 水】」
イスカ様の右手から水が滴るとジューという音を立てながら、枯葉の火が消えた。
よかった。これで消火できた。しかし、これが使えるのならどうして使わなかったのか?
「このことは兄上にも誰にも言うなよ」
「わかりました」
まあ、大方バレるのが恥ずかしかったのだろう。
「しかし、これで使い方がわかりましたね」
枯葉を靴で払った。枯葉で敷き詰められた地面は禿げてしまったかのように、真っ黒な地面を剥き出しにした。
そうしてスペースが出た所にそこら辺の石を置く。
「イスカ様、もう一度魔石に魔力を込めて貰っても?」
「お前、一度失敗したのに馬鹿なのか?」
「一度の失敗を悔やんでいたら、成功は訪れません。どんな人でも最初は失敗するものです」
今度は上手く枯葉に火が移ることもなく、出来た。
「上手くいきましたね」
そうやってイスカ様を見るとイスカ様もこっちを見ていた。イスカ様は直ぐに目を逸らした。
「…よくやった」
外で飲むお茶は美味しかった。まだ本格的な冬ではないと言えど、外気は私達の身体を冷やしていた。熱いお茶を飲むと身体の内側から暖まるのがわかる。料理人が作ってくれたサンドイッチも美味しい。西の国は土地が痩せていて、農業よりも畜産のほうが向いている土地だ。だからこそサンドイッチに新鮮な野菜が入っているかどうかで、裕福かどうかわかってしまうそうだ。当然西の国一番の貴族であるクローバー王のサンドイッチは新鮮なキュウリが入っていて美味しい。
「さてと」
バスケットに入っていたサンドイッチも紅茶も全て三人で食べてしまった。火をしっかりと消し終え、リア様にしっかりと馬に乗せてもらった。
「狩りを再開しようか」
また地獄の時間が始まってしまうのでした。正直もう帰らないかなと期待していた私もいましたよ。でも、サンドイッチを食べたからなのかイスカ様は元気を出したようで、また狩りに行ったようでした。
当然リア様の馬が無ければ帰ることもできない。疲れも出たのか、暖かい紅茶を飲んだからなのか少し眠くなって欠伸をしてしまいました。
「##゜#」
リア様が何か仰られて私はリア様が真後ろにいるのを思い出しました。
「す、すいません。気を抜いていたようです」
しっかりしないと。
リア様は馬のスピードを上げて、イスカ様に近づくと指を差した。指を指した方向をイスカ様も私も見るとそこにはもう一匹ウサギがいた。
「兄上今度は近寄って仕留めましょう」
イスカ様が言う通り、確かに距離は離れていて、視認するのもやっとの距離だった。
「%」
しかし、リア様は首を横に振った。
「しかし、兄上。この距離じゃ到底届かないですよ」
ジェスチャーで魔術を撃つように促すとイスカ様は恐る恐る魔術を構えた。
「【第一術式 丸弾】」
恐る恐る構えたせいか、心なしかさっきより球体がぶれている用に見えた。
「#」
その横でリア様は同じ術式を使う。それはイスカ様と比べても光が強く、球体が安定して、力強かった。
「兄上?」
今度は、イスカ様が収束させた魔術を薄い膜で包んだ。これも魔術なのだろうか。しかし、イスカ様には、全く意図が伝わらなかったみたいだ。
「イスカ様その膜を満たすように魔術をやれってことではないですか?」
魔術なんて全く知らなかったから、適当に言ったのだが、どうやら合っていそうだ。
その膜は綺麗に球体となっている。それに比べてイスカ様の魔術は、形が不安定で楕円を描いている。
イスカ様はそれに気付くと膜を満たすように魔術を形成した。今度はさっきよりも球体に近く、形が安定している。
「こうですか。兄上」
魔術に集中して真剣な表情になっているものの、声は嬉しさを隠せていない。
リア様は一度頷くと今度はイスカ様の身体を触って姿勢を正した。
「はい」
リア様の言っていることを汲み取るようにイスカ様は返事する。しかし、今度はまた魔術が不安定になってしまったらしい。魔術を安定させていたら今度は姿勢がまた…といった具合にしばらく奮闘していたが、どちらも合格点がでたのかリア様が頷いた。
「【第一術式 投射】」
今度は、真っ直ぐ飛んでいった。しかもさっきよりも早くウサギはまるで気付いていない。ウサギが気付く頃にはもう遅い。魔術は土を抉って、砂埃が俟った。
「流石です。イスカ様」
馬を進ませウサギに当たった場所まで近づいた。さっきまで満面の笑みだったイスカ様の表情が曇った。
それもそのはず、ウサギは魔術が直接当たったわけではなく、魔術に驚いて気絶してしまっただけだった。ウサギには、全く傷一つなかった。
「魔術は当たっていませんが、狩りとしては成功ですね」
「う、うん」
納得していない様子だった。リア様が馬から降りてウサギを取ると戦果をイスカ様に渡した。
「ありがとうございます。兄上」
想像通りではなかったが、ウサギを見てイスカ様は嬉しそうだ。
「そうだ。イスカ様ウサギを絞めちゃいましょう」
「絞める?」
そうか。お貴族様はそういったことをやったこともないのか。
「首をぐいってやって殺すんです」
「殺す!?」
「で、その後血抜きをすれば今夜はご馳走ですよ」
イスカ様は私が言うことを頭で想像するように、目だけ上を向いた。
すると血相を変えて言った。
「この悪魔!」
え?
イスカ様は怒って馬を翻して帰った。
そこに残されるリア様と私。
「私、間違ってないですよね?」
リア様はにこやかに笑いながら馬に乗った。
「リア様何か言ってくださいよ」
馬を走らせながら、リア様は頭を撫でてくる。
「#゜€#」
「え? 今何と言ったんですか?」
リア様は答えない。
「リア様〜〜〜」
後日同じ部屋のディジーにこの話をしたら引かれたので、ウサギを絞める話はこれ以降しないと決めた。




