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#11 食事会での事件(4)

 穴の中は意外と暗くなかった。魔力が持つ光が穴の中を照らしていたのだ。

「リア様この穴から出る方法は何かありますか?」

「%」

首を横に振った。壁は土が入って来ないように魔術で隙間なく覆われていた。触ってみてもただ硬い感触が返って来るだけだ。

「あの槍でも通せないんですよね」

リア様は天井を叩いた。

「##€」

多分この土の天井を壊したとしても土が流れ込んで来ると言いたいのだろう。

「まだ助かってはいませんよね」

もし運よく出れたとしても、待ち構えているかもしれない。でも、足は疲れ切ってその場に座り込んだ。

まだ、何も終わっていない。

でも、どうしても気持ち的に緩くなってしまう。

「はあ、はあ」

リア様は別に息が乱れた訳でもないのに、私は息が乱れていた。

そればかりか息が薄い気がする。

「あっ」

口を閉じて息を潜める。隠れたい訳じゃない。できるだけ呼吸をしないようにしているのだ。

「リア様、早くここから出ないとまずいです。人間には密閉された空間で呼吸し続けると呼吸ができなくなってしまいます」

昔壺を頭から被ったからわかる。あの時と同じだ。ずっと同じ空気を吸うと苦しくなってしまう。

「%」

でも、出れないとばかりに首を振った。

一つ疑問が浮かんだ。

「リア様、私の安全を考えなければ出る方法はあるんじゃないですか?」

「%」

首を振ったがさっきよりも振りが大きい。少し演技臭い。

「リア様、ここで2人死ぬよりもリア様が1人生き残れる方が良いです」

「%」

首を横に振った。

「⋯⋯」

これ以上は不毛だし、リア様を疑うのもあまりしたいことではない。

それでもここから抜け出さないといけない。

いけない。落ち着かないと。

体力減らさないように

しかし、何もできないまましばらく時間が過ぎた。

私は一体何をやってるんだ?

リア様を助けに来たのにこれではただのお荷物だ。いや、それはそもそもが傲慢な考えだ。

頭を動かしているだけで身体が熱くなった。何もしてないのに今度は体調が悪くなるのか?

いや、違う。

これは知恵熱ではない。

リア様のお顔を見るとリア様もまた真っ赤になっていた。

酸欠だ。

「リア様」

喋ると頭痛がする。

「そろそろ出ないとまずいです」

しかし、口で言ってみるだけだ。出れる見込みも無ければ、出れると思ってもいない。でも、何もしなければ後はこれが棺桶になるだけだ。

何でもいい。

何かないか?

このスカートを使って上から落ちてくる土を受け止められないか?

何を馬鹿なことを考えている。スカートなんて使ってもどうしようもないから、こんな状況なのだ。

自分の服を弄った。

何でもいい。

ポケットに何か入っていないか? 

何でもいい。

本当に何でもいい。この状況を打破できれば何でも良いんだ。

その時何か硬い硬いものが手に当たった。

これはリア様の本。

そうだ。何か生身で剣を食らうよりもマシだろうと本を服に挟んだのだった。厚い本を挟んだら服の形が変わって見えてしまうと思い、この薄い本を選んだのだ。

「でも、こんな本何に役立つの?」

焚き付けにすら使えないだろう。

「#!」

しかし、そんな私の落ち込みとは裏腹にリア様は大きな声を出した。

「どうしたんですか?」

リア様は本のページを急いで開いた。

しばらく開き続けると1ページで止まった。

「#、#」

これ、これと言わんばかりだ。

リア様が一つの魔術陣を示した。その説明

一応読んでみるが、難しいことばかりだ。

【精霊門の創造は精霊界への介入を可能にする。精霊門は物質界に存在する様に見えるがその本質は力の奔流であり、物質界に存在する訳では無い】

ああ、もう何言ってるかわからない。

でも、リア様がこれだと言っているのだ。

リア様は親指を魔術で切って、本に書いてある図形、おそらくは魔術陣を血で自身の服の上に書き始めた。

最初は順調だったが、次第に違う図形になっていった。

「あ、あの、リア様。この本に書いてあるものと違いませんか?」

「%?」

リア様が落ち込んでいるのがわかる。リア様もちゃんと書けていないことがわかる。

リンゴォ氏は文字が読み書きができないのは、言葉が理解できていないからだと言っていたが、写生するのも難しいとは。

だったら私が書けばいいのだ。

「リア様、私に書かせてください」

自分の親指を噛んで書こうとするが、リア様に止められた。

「リア様?」

リア様が親指を差し出してきた。

「#]

これを使えと言っているようだった。リア様のお手を貸してもらうのは申し訳ない。

でも、それ以上に私の行動が信頼されたのが嬉しかった。

「はい!」

リア様の服の上はこれ以上掛けなさそうなので、私のエプロンの上に書いた。良かった。私のエプロンも役割があって。

本を見ながら書き続ける。

難しいことはない。魔術陣は単純で無駄がなく美しい。だからこそ、私は問題なく真似することができる。

でも少し後悔していることがある。

「——————」

私はエプロンを脱がないで書き始めてしまったのだ。

リア様の手をペン代わりにしているため、私の太ももをリア様がなぞるのだ。

いや、図形を書いているのは私なので、なぞらせているというのが正しいのだが、それでもくすぐったい。

いやいや、この緊急事態に何を考えているのだ。

「できました」

ドキドキとしている自分の邪念を払いながら、図形を描き切った。

「これでいいんですよね?」


「%」

しかし、否定された。

「何か間違っているのですか?」

「%」

それも否定される。

「もしかしてまだ何か必要なのですか?」

「#」

リア様が何か説明してくれるが、何もわからない。

おそらくだが、呼ぶ際に何かが必要なのだ。

私は本を捲った。今まで見てもわからなかったものが、急にわかるはずがない。それでも何か、何か手がかりとなるものが。

「あ」

検索句。リンゴォ氏がリア様が精霊魔術を使えない理由を以前言っていた。

リア様は言葉を喋れないから、検索句を言えないから精霊魔術を使えないのだろうと。

検索句。検索句。その単語だけを頼りにページをめくる。

「あった」

【任意の精霊を呼ぶには検索句が必要になる。検索句が足りなければ、適当な一番近い精霊が選ばれてしまう。これは…】

読み込んでいる時間がないので、適当に流し読みする。要約すればこうだ。

今、この場を打開するような精霊を呼ぶには検索句が必要となる。検索句がないと呼んでも役に立たない精霊を呼ぶ可能性がある。

「今欲しいのは土の精霊ですよね」

「#」

じゃあ、その検索句とは?

それを探してみるが本には何も書いていない。

なんで書いていないんだ。

「#?」

リア様は私を見て不安気になっている。リア様にはこの本は読めないのだ。リア様がわかればいいのかもしれないが…

「あっ」

検索句?

その言葉に引っかかっていた。

この魔法を人は精霊魔術と言っていた。精霊魔法ではなく。

リンゴォ氏は魔術と魔法の違いは人が生み出し、人が再現できるかどうかだと言っていた。

だったらこの精霊魔術は一体なんだ?

なぜ精霊魔法じゃない?

それは人が生み出し、再現性があるということだ。

さっきの文章でも言っていた。

【精霊門の創造は精霊界への介入を可能にする。精霊門は物質界に存在する様に見えるがその本質は力の奔流であり、物質界に存在する訳では無い】

つまり、これは精霊門の創造までは人の魔術の領分であるということではないだろうか?

だとすれば、検索句はリア様が呼べる。

「リア様が呼べば良いんです」

「%」

しかし、リア様は否定しました。

「え? おそらくは合ってますよ」

今までの情報を考えればどう考えてもあっている。

いや、もしかしてリア様は私の言っていることがわからないのでは?

「リア様やってみればわかります」

「%」

どうしてわかってくれないんだ。この本で言っていることが合っているのならおそらくは合っている。

少なくとも間違っていない。直感的で根拠はないが、間違ってはいないと思う。

「リア様、やってみましょう。ここに書いてあることを読むと精霊門を開けばいいのです」

「…#」

何故か乗り気ではないように見えた。

「その後、リア様が精霊語で土の精霊のお名前を呼ぶだけですよ」

「%」

だが、できないと言っている。何でできないと言っているんだ?

「取り敢えず精霊門を開いてみましょう」

【開け。精霊門】

魔術陣を中心として空間がヒビ割れた。ヒビ割れた門の更にその奥に空間が見える。書物が言うのはこれは見せかけの空間であるそうだ。

光の玉が高速に動き、一つの線に見える。それが何本も重なり光の川の様になっている。

「リア様、呼んでください」

「⋯⋯」

「リア様?」

「%」

「土の精霊を呼んで貰えれば良いんですよ」

「%」

できないと言っている。

何故だ。何が理由なんだ?

「リア様、何でも良いから呼ぶことはできるんですか?」

「#」

頷くと小さな光の塊が精霊門から出てきた。

ということは精霊門自体は機能している。リア様の言葉では検索句になりえないのか?

いや、この精霊はリア様の言葉によって呼び出された。

「この精霊で何かできないんですか?」

そう言うと涼しくて冷たい風を出してきた。こんなそよ風で何ができるのか。

「何とかこの穴から出ないと」

でも、新しい風なので息がしやすくなった。

でも、呼吸ができるようになったってしょうがない。次はお腹がすき、喉が渇く。

「なりふり構ってられない」

やれることは全部やるのだ。私にできることは限られている。でも、リア様だったら私ちっぽけな妄想だって現実にできるのだ。

「いや」

そこで一つ思い違いをしていたことに気付いた。リア様が偉大な方なのはさっきの戦闘を見ればわかる。そして、私がいかに脆弱な存在なのかもわかる。では、私の考えた規模の小さいことをリア様にやらせて一体なんの意味があるのだろう。リア様なら筋さえ通っていれば、無茶を通せるのだ。

私はもう一度本を開いた。

あった。ここだ。

「リア様。一つ無茶なお願いを聞いても良いですか?」

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