ぽわかり 第5話【小】 さよならのあとのチェック
忘れ物は、朝だけの問題じゃありません。
帰る前にも、
ちょっとだけ確認が必要な日があります。
それが、いつのまにか
二人の「当たり前」になっていく話です。
「さようならー!」
声がそろって、帰りの会が終わる。
椅子が引かれ、机が鳴り、ランドセルを背負う音が重なった。教室は一気に“帰る時間”に切り替わった。
友だち同士で「また明日ね!」なんて言いながら、
ドアの方へ人の流れができていく。
かりんも、いつも通り、教科書を順番に重ねていた。
連絡帳を閉じて、筆箱を入れて――
そこまでやって、ふと顔を上げる。
その流れに、逆らう影があった。
「かりんちゃーん、帰ろー!」
ぽわぁだった。
もうカバンを肩に掛けて、教室の後ろから前へ、
帰る人の間を縫うように進んでくる。
「ちょっと、まだ片づけてないでしょ?」
言いながらも、かりんの手は止まらない。
ぽわぁは気にした様子もなく、かりんの机の横にぴたりと立つ。
「だいじょーぶだよー。あと入れるだけー」
「ちょっと待って!確認しなくちゃ!」
「えー、またー?」
「またじゃない!毎日だよ毎日!」
かりんは小さく息をついて、ぽわぁの机を見る。
その上と、中。
「……じゃあ、確認」
「はーい」
声は小さい。
掛け声もない。
でも、やることは同じだった。
「連絡帳」
「あるー」
「宿題」
「あるよー」
「今日は計算ドリルじゃなくてプリントだよ?」
「えっと……」
ぽわぁが一瞬だけ、動きを止める。
かりんは何も言わず、視線を机の中に向けた。
引き出しの奥、紙の角が、少しだけ見えている。
「それ!」
「あ」
ぽわぁが机を開けると、宿題のプリントが一枚。
危うく、そのまま置いていかれるところだった。
「……だから言ったでしょ!」
「えへへ〜、見てよかったねー」
プリントは、ぽわぁのカバンに収まる。
「持ち物よし、宿題よし……うん、大丈夫!」
「ほんと?」
「ほんと!今日はこれで大丈夫!……合格!」
その一言で、ぽわぁの顔がぱっと明るくなる。
「やったー!」
「やったーじゃない!毎日合格しなきゃ意味ないでしょ!それに一人でも大丈夫にならないと!」
そう言いながら、かりんは少しだけ笑って、ランドセルを背負い直した。
教室の前の方では、もう誰もいなくなっていた。
帰る流れは、ずっと前に出ていっている。
「じゃ、今度こそ帰るよ!」
「帰ろー!」
ぽわぁが笑って言う。
かりんは、少し遅れてカバンを持ち上げた。
いつの間にか、これをやらないと、
二人は帰れなくなっていた。
二人並んで教室を出る。
もう誰もいなくなった教室を、最後にちらっと振り返ってから。
――今日も、忘れ物はなかった。
そして明日も、きっと。
忘れ物は、その場で気づければ、
忘れ物じゃなくなります。
この頃の二人は、気づいたほうが
そっと、声をかけるようになっていました。
それは、
まだかりんのほうからが多かったけれど。
朝だけじゃなく、
帰りも。
それが当たり前になった日のお話です。




