ぽわかり 第2話【中】登校準備、しっかりんチェック
少しだけ、恥ずかしくなってきた話です。
小学生の頃と、同じことをしているはずなのに、今日は少しだけ、空気が違います。
でも、やめるほどでもない二人の話でもあります。
朝の光が、ぽわぁの部屋のカーテン越しにやわらかく差し込んでいる。
机の上は相変わらず少しだけ散らかっていて、でも必要なものはだいたい揃っている――そんな、いつもの光景。
「準備はいちおー、してるよー」
ぽわぁは椅子に腰かけたまま、のんびりと振り返った。
部屋の入口に立つかりんは、通学バッグを肩に掛けている。
「……うん。じゃあ、確認しようか」
自然と出た言葉だった。
小学生の頃と、何も変わらないはずの流れ。
ぽわぁの目が、ぱっと明るくなる。
「しっかりんチェックだねー!」
その一言に、かりんの動きがほんの一瞬、止まった。
「……」
言葉を探すみたいに、視線が少し泳ぐ。
「ねぇ……ぽわぁちゃん」
「なぁにー?」
「その……そろそろ、掛け声はなくても大丈夫じゃないかな?」
ぽわぁはきょとんと首をかしげた。
「……? なんでぇ?」
かりんは、少しだけ視線を逸らす。
「もう中学生よ? なんていうか……子供っぽくないかなって……」
自分で言っていて、だんだん声が小さくなる。
否定したいわけじゃない。ただ、少しだけ引っかかる。
ぽわぁはしばらく考えるように天井を見てから、いつもの調子で言った。
「でもねー」
かりんを見る。
「声に出すほーが、注意とか確認とかになるからー、って」
少し間をおいて。
「それ、かりんちゃんが言ったんだよー?」
「……っ」
かりんは言葉に詰まった。
確かに、言った。
忘れ物が多かったぽわぁに、どうしたらいいか必死で考えて。
その結果が、しっかりんチェックだった。
「……そ、そうだけど」
「じゃあ、やろー?」
ぽわぁはもう立ち上がって、机の前に移動している。
クリアファイルに入ったチェックシートも、ちゃんと用意されていた。
かりんは、小さく息を吸って、ぽわぁの横顔を一瞬だけ見てから、小さく息を吐いた。
「……一応、ね」
二人で机の前に並ぶ。
ぽわぁが元気よく指を立てる。
「しっかりーーん、ちぇーーーっく!!!」
かりんは一瞬ためらってから、少し遅れて声を出した。
「し、しっかりーーん、ちぇーーーっく……」
語尾は自然と小さくなっていたけれど、ちゃんと聞こえる。
筆箱、教科書、ノート。
一つずつ、指差し確認。
ぽわぁは楽しそうに、声を伸ばす。
「しっかりーーん、ちぇーーっく〜〜」
かりんはそれに合わせて、少しだけリズムを崩しながらも続ける。
「……しっかりん、チェック」
名札、ハンカチ、ティッシュ。スカートに変な折り目がついてないか。
「しっかりんチェック、かんりょー!」
ぽわぁが満足そうに言うと、かりんは小さくうなずいた。
「……確認できたなら、それでいいわ」
「えへへー」
ぽわぁは嬉しそうに笑う。
「中学生になっても、ちゃんとできてるねー」
かりんは答えず、鞄を持ち直した。
でも、その耳は少しだけ赤い。
中学生になっても、全部が急に変わるわけじゃありません。
変わるところと、変わらないところが、少しずつ増えていく。
しっかりんチェックは、忘れ物を減らすためだけじゃなくて、二人が「少しずつ変わっていく」ための確認作業なのかもしれません。
それでも今日も、ちゃんと登校しています。




