ぽわかり 第1話【小】登校準備!しっかりんチェック!
忘れ物をしないための話です。
でも、忘れても大丈夫な二人の話でもあります。
朝の空気は、まだ少しひんやりしている。
かりんは、今日も“いつもの確認”をするつもりでぽわぁの家の前に立っていた。一度深呼吸してから、インターホンを押した。
「おはようございまーす!」
すぐにドアが開いて、ぽわぁのお母さんが顔を出す。
「あら、かりんちゃん。いつもありがとうね。ぽわぁならもう部屋よ」
「おはようございます!おじゃまします!」
慣れた足取りで家に上がり、二人はそのままぽわぁの部屋へ向かう。
部屋にはいると、空気が相変わらずふわっとしている。
「おはよー、かりんちゃん、準備できてるよー!」
ぽわぁはもう机の前でのんびりとかりんを待っていた。
かりんが鞄を置くと、すぐに言う。
「おはよう!じゃあ、時間割確認するよ!」
かりんがぴしっと言うと、ぽわぁの目がきらっとする。
「しっかりんチェックだ〜!」
二人で指を立てて、机の前に立つ
自作のしっかりんチェックシートが入った透明なクリアファイルも机に並べて、準備完了。
それは二人だけの、朝のスイッチ。
これをやらないと、一日が始まらない。
かりんが開始の合図をかける。
「いくよ!せー…の!」
少し間をあけて、二人同時に――
「「しっかりーん、ちぇーっく!」」
ぽわぁは、かりんのマネをして同じように背筋を伸ばし、ぴしっ!としたつもりの顔で声を張る。
筆箱ヨシッ!教科書ヨシッ!ノートヨシッ!
指で一つずつ示しながら確認していく。
「「しっかりーーん、ちぇーーっく!」」
今日は体育と家庭科もある。体操服の準備もバッチリだ。
ぽわぁの声が、少しだけ弾む。
かりんは、眉をきちんと引き締めたまま、楽しげな声がどれだけ間延びしても、顔つきだけはピシッ!と変わらなかった。
それでも、ぽわぁが楽しくなって、ついリズムが間延びするテンポにも、いつも通り、きっちり合わせていく。
「「しっかりーーーん、ちぇーーーーっく!!」」
最後は名札とハンカチ、ティッシュ。
ぽわぁはすっかり楽しくなって、語尾をく〜〜っと伸ばしながら、まるで歌うみたいに声を揺らしていた。
「しっかりんチェック、かんりょー!」
かりんはピシッ!としたままのやり遂げたといった表情で小さくうなずいて、そのまま次の準備に目を向ける。
そのとき、机の端に置いてあった一枚のプリントが、ひらっと落ちた。
「んー……あ、これ」 ぽわぁが拾い上げる。
「今日、調理実習あるって書いてあるよー」
「えっ」
かりんが一瞬固まる。
「エプロン……!」
次の瞬間、かりんは自分のカバンを勢いよく開けた。
「……ない」 「……ない?」 「……ない!!」
だんだん焦りが大きくなっていく。最後は声も裏返っていた。
顔を上げたかりんは、明らかに動揺している。
自分も今日まで忘れていたのだ。用意しているはずも、カバンに入れた覚えもない。入っていないのは当然の結果である。
「ど、どうしよう。取りに帰る?でも時間が……」
ぽわぁは首をかしげて、少し考えた。
「だいじょーぶだよー」
「え?」
「かりんちゃん、いつも時間によゆー持たせて来てくれるからお家に取りに帰る時間はあるよー? それにエプロンならうちにもう一個くらいあるかもじゃん!聞ーてみよー!ママー!エプロン、もう一個あったりするー?家庭科でいるんだってー!」
廊下の向こうから声が返ってくる。
「あるわよー!前に予備で買ってたの」
ぽわぁがぱっと振り向く。
「あるってー。取りに帰ってもいーけど借りていくでしょ?その方が早いもんねー」
「……っ!」
かりんは思わず、息をついた。
「助かりました!ありがとうございます!」
「いえいえ。いつもぽわぁを見てくれてるでしょ。助かってるんだから、これぐらいなんでもないのよ」
ぽわぁはエプロンを受け取りながら、えへへ、と笑った。
「私もねー、かりんちゃん来なかったら気づかなかったかもー」 「……それは、私も同じ」
かりんはエプロンを大事そうにカバンに入れる。
「やっぱりー、しっかりんチェックすごいねー!」
「そうでしょ!」
かりんは誇らしげだ。
二人で家を出る。
朝の道を、並んで歩く。
かりんは少し前を歩きながら、ふと後ろを見る。
ぽわぁは、いつも通りのんびりした足取りで、でもちゃんとついてきている。
(私が見てないと、って思ってたけど……)
かりんは、口元だけで小さく笑った。
ぽわぁはそんなことに気づかず、ふわっとした笑顔のまま。
二人の後ろ姿は、いつの間にか横並びになり、自然と同じ歩幅で、学校の方へ向かっていった。
肩を寄せ合い、支え合うように…
頭に浮かんだ「心の仮面」を、キャラクターにしてみました。
忘れないためのメモみたいなお話です。
もし忘れてしまっても、ここに読みに来れば思い出せたらいいな、と思って投稿しました。




