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ブラック・コード -胡桃-  作者: 白唯奏


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2/2

徳積んで生きれば脳内ハッピー

チャッチコピーは『タイトルだけは明るいブラック・コード』!

なので意味わかんないタイトルの時もあります(笑)

 目を開けると、見知らぬ天井と目が合った。白くはない。少し煤けた木目の板。

_連れ戻されたんだ。多分ここは院長の部屋だ。また叩き起こされるのかな。まだ起きたくない。

「起きたか?」

目を閉じかけたところに、人影が映り込んだ。男の人っぽかった。

院長の声じゃないけど、きっと院長の仲間なんだろうな。

起きようとしたが、その人影に遮られた。

「動くな。…肋と腕の骨が二本ずつ折れてるな。医者に診てもら」

「だ、大丈夫です。何でもします。だからお医者様は行きたくないです。お願いします」

考えるよりも先に口が動いた。

「……」

_あ。話を遮っちゃった。蹴られる。ううん、殴られる。違う、両方だ。首を絞められるかも。

「ごめ、ごめんなさいごめんなさいごめんなさい」

声が震える。苦しい。だけど、お医者様に行く方が苦しい。震える手を握りしめながら、必死に口を動かし続けた。殴られればお医者様に行く確率は減る。だから、早く殴って_。

 けれど、いくら待っても殴られるどころか罵倒が一つも掛けられなかった。…ああ、お医者様に行くんだ。

息を吸うことすら許されないような静寂な中で、男の人の低い声が聞こえた。

それは、罵倒でも舌打ちでもなかった。

「医者、…いや、お医者様の所には行かなくていい」

そう言い残して、男の人影が消えた。同時に、騒がしい声が聞こえた。

「パーティーなんて最悪!あれただの自慢大会だよ。代わりに行ってきてよ〜。得意でしょ、女装」

「はぁ?何が『得意でしょ、女装』だ。仕事に決まってるだろ。冗談は顔だけにしとけよ」

「だーれが、顔が不細工だって?んん?」

話し声はすぐ側まで来ていた。

来ないで、と願ったが神様は叶えてくれなかった。

「なにこの子。矢車の子供?」

「ぷっ、水樹さんに子供なんているわけ無いじゃん」

嗤い声。耳を塞ぎたくても、腕が上がらない。散々孤児院で散々浴びせられたのに、一度も慣れなかった声。

「だって、あの人だよ」

花のような香水のにおいと知らない薬品のにおいが混ざって気持ち悪い。怖い。逃げたい。

「お前ら静かにしろ」

「「っ」」

一瞬で嗤い声が消えた。

「コイツは俺が拾ってきたんだ。文句あるのか?」

静寂がつずいたが、しばらくすると女の人のゆったりとした声が聞こえた。

「いやぁ~ないけどさぁ」

「なんだ」

「_その子をこっち側に入れるつもりなの?」

冗談めいた声ではないのが、見えなくても分かった。男の人も何も言わなかった。

「もういいわよ。ってか、見てよこの子。ちょー可愛い!天使じゃん!お名前なあに?」

花の匂いが一層強くなった。

「うっわ。なんか引くわ」

「俺も同意見だ」

「ひっどーい!分かってないなぁ。これだから男は」

また嗤い声。

「アリア、コイツを部屋に連れてってくれ。骨が折れてるから気をつけろよ」

「はーい。空いてる部屋でいいよね?」

「ああ。それと、そらはコイツのことを診てくれ。それと……も頼む。………をよろしく」

声がどんどん遠ざかっていって、何を言っているのか分からなかった。

「っ」

_眠っちゃだめ。起きてないと薬を入れられる。まだ命令されてないから。

息を止めて目を見開く。

「カハッ」

口から何かが溢れた。生ぬるい鉄の味がする。口の中に残る違和感が消えることなくこびりつく。

「!血が出てる!」

「血痰…いや喀血だよ、これ。それに結構重症だし。アリア、救急車呼んで!」

「えっ、うん!」

慌ただしい声が耳の奥で響いて苦しい。

_でも、お医者様のところはだめ。

「いや医者は_」

「行きたく、な、い……」

「〜〜〜〜〜〜っ。ああもういいよ!僕がやるから!どうなっても知らないからね!」


 微かに薬品の匂いがした。

でも、お医者様がいる所の匂いとは違う。

だって、あそこは息が詰まりそうで苦しいから。それと、青い水が入った大きい培養水槽があるし部屋が広い。けどここは_

「…狭い」

吐き出した声は静かに消えていった。部屋の中は、奥まった窓から差し込む光に照らされた埃が優雅に舞っていた。

目を動かすと、棚の中に視線が吸い込まれた。

「目覚めてすぐ嫌味かよ」

声が聞こえた所を見ると、変な植物が植えられた植木鉢を窓辺に置いている男の人と目が合った。男の人はボサボサの銀髪を気にすることなく、こっちにやって来た。全体的に色素が薄くて病弱そうに見える。

「だれ…?」

問いかけると、男の人はそばにある椅子に腰を下ろした。椅子が小さく軋む。

_どこか浮き世離れしていて人形みたい。

「えっ、あーー。僕はそら。ここの常連客。ここってのは今いる所の下の階にあるカフェのことね。んで、君を拾ったのがカフェの店長のやぐ…じゃなくて水樹さん。それと、騒がしかったのがアリアって奴ね」

「……」

_孤児院じゃない、ってこと?…分からない。

「骨は固定してあるけど、君の場合は全治までに半年はかかるから安静にしてること。それと肺に異物感はある?」

「…ありません」

「なら良かったよ。じゃあ僕は水樹さんを呼んでくるからそこにいるんだよ。勝手に棚とか植物に触っちゃだめだよ」

腕が失くなるからね、と冗談めかして言って部屋から出ていった。

 誰もいなくなった部屋で私は深呼吸をした。

「うっ…」

耳の奥でこびり付いていた声が、「まだここにいる」とでも言うように蘇った。


『うっわー汚ぁ』

『汚物のこと落とし穴に落としたら泣いたんだぜ!だっせぇ』

『ミタリアちゃんは近づかないほうが良いよ。げっ、こっち見た。あっち行こ』

『化物だ!逃げろー!!』

『あいつ石食ってたんだぜ』


息を止めても、目を見開いても嗤い声が脳裏を引き裂いてくる。


『あの子、アバズレの子みたいなのよね』

『ねえ、聞いてよー。彼氏に振られたんだけど。絶対あの子のせいだよね』

『あら?アンタいたのね。…え?ご飯?そこら辺の草でも食べてれば良いんじゃないかしら』

『えっ?「くるみちゃん」?そんな子いたかしら?』

『何処かに捨てていきましょうよ。ほら「引き取ってくれる人が来た」とか言えばいけるんじゃないかしら。院長も賛成してたし』


嗤い声。

「もう、やめて」

わたしはっ、私は『くるみ』なんかじゃっ_。

「ちょっ、君大丈夫っ!?」

ベッドから崩れ落ちた私を誰かが支えた。

「っ」

腕が回される感覚に体が跳ねた。恐怖が体を縛り付けるのが分かって怖かった。

恐る恐る目を開けると、さっきの銀髪の男の人がいた。

「そら、さん…?」

「うん。もう大丈夫」

そらさんの声は優しかった。

「君は一人じゃない」


『泣いたってお前のこと助けてくれる奴なんていないだろ』


「…どうしてそう思うんですか。だって、…だって」


『じゃあね。そこでいい子にしてるのよ』


「私は一人でしか生きられないのにっ」

それでいいの。それがいいの。助けなんて望んでない。私だけで大丈夫。もう希望なんていらないし、見せつけないで。

「これまで一度も助けてくれなかったくせに!」

初めて叫んだせいなのか、喉が焼けるように痛い。だけど、同時に自分が眩しくてしょうがない。

「_じゃあこれから助けてあげるよ。僕達が。ね?水樹さん、アリア」

「ああ」

「もっちろん!」

部屋の戸の向こうで覗いていた男の人と女の人が大きく頷いた。

この人たちはきっと優しさも暖かさもくれる。そう思った。もう一回ぐらい心の底から信じてみたかった。今だけでも。


_でも、ここは私が望んだ場所じゃない。


 三人に連れられて一階に降りた。時計のカチカチと時を刻む音を聞きながら、勧められたソファに座った。

『カフェ』は、飲み物や軽食を出すお店らしい。ここは、ソファ席が二つとカウンター席が六つ。それと、二人席が三つ。孤児院と違って窓がたくさんあって、外の世界が見えた。

「へぇ。くるみちゃんって言うんだ。よろしくね!あたしはアリア」

目の前の席に座っている赤髪の女の人が笑った。花が咲くような笑顔だった。

アリアさんはそらさんと違って、太陽みたいに明るい。

「よろしくお願いします」

「も〜敬語じゃなくていいのに〜。あっ、分からないことがあったら何でも聞いてね!アリアお姉さんが何でも教えてあげる」

「ありがとう、ございます」

「じゃあ、あたしは朝食作ってくるね!適当にリラックスしてて!」

アリアさんがカウンターの向こうにあるチッキンに駆けていった。カウンターの端っこでは水樹さんが新聞を読みながらコーヒーを飲んでいた。そらさんはもう一つのソファ席で横になっている。

「くるみ」

「!はい」

反射的に顔を上げると、水樹さんが私を見下ろしていた。冷たい目。だけど、怖くはない。

「くるみに残された選択肢を二つだけ教えてやるから自分で選べ。一つ目は孤児院に戻る。二つ目は俺の手足になるか、だ。どうしたいんだ?」

「手足になります」

迷いはなかった。もし、この人たちが孤児院と繋がっててもすぐに戻るよりはマシだから。それに、孤児院の人たちやお医者様と違ってすぐに殺してくれるかもしれないから。

「そうか。なら決まりだ。まずは_」

「ってストーップ!なんで勝手に決めてるの!それにこんなに可愛い天使ちゃんを血塗れのせか…じゃなくて大変な仕事をやらせようとしてるの!?」

「いや。くるみにやってもらうのはこっちの仕事だ。無能のそらを入れてもここの従業員は三人だ。その上、各々の仕事が入った場合ここの店は一人では開店できないだろう?」

「あー…そういうことね。でも言い方が物騒すぎるでしょ!」

騒がしいアリアさんを水樹さんは軽くあしらった。その姿がどこか慣れていて、いつもこんな感じなんだなって思った。

「仕事…」


『キミの仕事は世界の人々の為になるんだ。だからできるよな。…それでいい。今日はこの薬とこの液体を同時に飲み込むんだ。その後はあの椅子に三時間座っててくれ。……口答えをするな。キミは言われたことだけやってくれ。………それでいい。明日は女児の眼球を八っつ頼む』


「何を飲めばいいですか?何をすればいいですか?」

_お医者様はいつもニコニコと笑っていた。私が息が苦しくても、血を吐いても、骨が折れていても。その度に『キミのせいで実験は失敗だ』と言って笑っていた。

「それとも、人を殺して内蔵を取ってくればいいですか?眼球ですか?心臓ですか?今日の仕事はなんですか?」

そう言った瞬間、水樹さんとアリアさんの眉間が微かに動いた。

「くるみちゃん。それは命令だったの?」

「はい」

「…矢車。やっぱり、あの孤児院じゃない?」

「そうかもな。そら」

「ん…?」

アリアさんに半ば強制的に起こされたそらさんが、隈のある目を擦りながら答えた。

「仕事だ。ビラエラが経営している孤児院を調べてくれ。得た情報は全てこちらが買い取ろう」

「えっ。それは流石にひどくない?僕が寝る間も惜しんでこの子を看病したのに…」

不服そうにため息をついた。

「報酬は倍取るからね。あと、今月の家賃払って」

「ああ、交渉成立だ」

「にしてもビラエラ孤児院ねぇ」

そらさんは天井を見上げながら、指で机をトントンと叩いた。

「どうやって行くべきだか」


 「みんな!ご飯だよ!」

アリアさんがトレーを持って戻ってきた。

トレーの上には四人分の食事が乗っていた。

「アリアお姉さんのお手製だよ〜。美味しそうでしょ?」

孤児院では見たことがない色とりどり野菜に美味しそうなパン。きれいな黄金色のスープ。パンにはバターがふんだんに乗っていてキラキラと輝いている。

「かぼちゃとミルクのスープで、サラダは採れたてだよ!そしてデザートには桃のコンポートとヨーグルト!さあ召し上がれ」

「食べても、いいんですか…?」

「もちろん!」

プレートに乗ったパンを少しちぎって口に運ぶ。

「おいしい…」

孤児院のご飯はカビが生えてたり、誰かの食べかけだったり。でも食べなきゃいけなかった。

「でしょ。…ずっと、ここにいていいからね。もし反対なんかする奴がいたらあたしがぶん殴ってあげるわ!ね、そら!」

「はいはいそうだね。じゃあ、僕は情報を取ってくるよ。夜には戻るから」

「ああ」

そらさんは椅子から立ち上がると、背もたれに掛けていたコートを取った。

「じゃあね」

そらさんは水樹さんの耳元で何かを囁いた後、カフェの扉を引いた。外の光が、待っていたと言わんばかりに入り込んでくる。

「気をつけて、ください」

「え」

そらさんがくるっと振り返って、こっちに歩いてきた。

「あ、あの」

そらさんは止まることなく、私の前で膝をついた。

「なにこの子…。ちょー可愛いんだけど」

「?」

「でしょ!でもこの子はあたしのだからね!絶対ぜーったい!」

「いや、僕の助手になりたいよね?残業無しだし、自営業だけどお金なんてバンバン入るし、何なら水樹さんからお金盗んで海外に逃避行を」

「早く行け」

「釣れないなぁ」

水樹さんに追い出されるように、そらさんはカフェの外へと出ていった。

カフェの扉がゆっくりと閉まる。天井の梁にかかったペンダントライトが微かに揺れていた。

「よーし、これから忙しくなるよー!」

アリアさんが腕まくりしてキッチンの方に戻っていった。

 ふと、窓の外に目を向けた。呼ばれている気がした。

窓の外に広がる世界は青かった。


「退屈…」

何もすることがないってこういうことなのかな。

 アリアさんが綺麗にしてくれた部屋を見回した。ふかふかのベッドに空っぽの棚。窓辺にはコップに挿した白い花が置かれていた。

「きれい」

指先で花びらをなぞった。

孤児院では花を飾っても、数分もしないうちに花瓶ごと踏みつけられていた。でも、孤児院の先生たちも見て見ぬふりで片付けはいつも私がやっていた。

_花なんて飾っても何もならないのに。何も、変わらないのに。


 「ここのコーヒーは旨いな」

「パスタも美味しいわよ」

「やっぱりここにして正解だったわね。静かで落ち着くわ」

テーブル越しに交わされる声を階段の隅で座って聞いていた。色んな人がいた。スーツ姿のおじさんや派手に着飾った若い女の人、優しそうな老夫婦。

「ねえ、あの話知ってる?」

「この辺で人間を食べる男がいるんですって」

「まあ!それは怖いわ」

その会話をしているのは三人組のおばあさんたち。見るからに高そうな宝石のネックレスを太った首に巻き付けている。

おばさんたちはそう言いつつ、その目は会話なんて気にせず、相手を探るような眼差しだった。

「あら。可愛いお嬢さん、こんにちは」

「!」

顔を上げると、笑顔を浮かべたおばさんが立っていた。

優しそうだけど、掴みきれない感じ。いや、掴ませないって感じがする。

「そらさんという方は知ってるかしら?」

「…出かけました。…夜には、戻ると思います」

「そう。…困ったわね。急ぎなのよ」

おばさんはそう言って頬に手を当てて、考え事をしだした。

「あっ、ステラさん!」

パタパタとアリアさんがやって来た。

「もー来てくださったなら言ってくださればよかったのに!」

「あらあら、ごめんなさいね。忙しそうだったから声が掛けづらくって」

「いいのいいの!もしかして、今日はそらに用事だった?ごめーん、今日は仕事行っててさ。預かろうか?」

「そうねぇ。じゃあ、お願いするわ。また夜に来るわね」

「はーい、待ってますねー!」

おばさん_ステラさんはアリアさんに封筒を渡して、にこりと微笑んで帰っていった。

「アリアさん」

「ん?どうしたの?」

「……やっぱり、大丈夫です」

_あの人は『普通』じゃない。


 一日中カウンターチェアに座って、ただ外を眺めていた。

夕暮れになると、お客さんは減っていきアリアさんが店の掃除をし始めた。

「俺は仕事に行ってくる。アリア、ここのことは任せたぞ」

そう言って水樹さんは外へと消えていった。

「はいはーい。行ってらっしゃーい!さ、あたしたちはゲームでもしよっか」

 「ようこそ!あたしのお部屋へ!」

アリアさんの部屋は私の部屋の隣にあった。

アリアさんが部屋の扉を開けるのと同時に、花の匂いが鼻孔をくすぐった。

「実は人を部屋に入れるのは初めてなんだよね」

そらさんの部屋と私の部屋とも同じなのに、アリアさんの部屋は別世界みたいだった。星が散りばめられているような部屋だった。棚の中にはカラフルな小瓶や、花が入った花瓶、クマのぬいぐるみ。ハート型のラグが中央に敷かれていた。ベッドもピンク色で統一されていた。

「そこら辺に座っていいよー。…っと、これこれ。これがやりたかったんだよねー」

アリアさんがベッドの下から一つの箱を引っ張り出した。

「じゃーん、人生ゲーム!」

「じんせいげーむ?」

『人生ゲーム』と書かれたパッケージには虹の上を歩く家族の姿があった。四人家族はみんな笑顔を浮かべて、手を繋いでいる。

孤児院ではミタリアたちがやってた気がする。

「ルーレットを回して、マス目を進んでいくの。でーも、ただのすごろくなんかじゃないんだよ。仕事をしたり、お金を稼いだり、家族を作ったり、事故ったり…波乱万丈なゲームだよ!」

「やったことあるんですか?」

「ま、まあね。…一人だけでやったけど。だって、聞いてよ。やぐ…じゃなくて水樹さんは『そんなことをする暇があるなら、さっさと報告書を作ってくれ』って言うし、そらなんて『僕は金にならないことはやりたくない』とかってカッコつけるし!」

ぷくっと顔を膨らませながら『人生ゲーム』を並べ始めた。ルーレットがくっついた大きな紙にはカラフルな道がヘビのようにうねうねと続いていて、全てのマスの中に小さな文字が踊っていた。

「まずはコマを選んでー、ルーレットを回すの。大きい数の人が最初ね。この車がコマって言うんだけど何色がいい?」

「白がいいです」

「おっけー!あたしはピンクにしよっと。まずは所持金万十円ね。偽物だから安心してね。…ま、本物でもいいんだけどね」

アリアさんに勧められるままルーレットを回した。私が三、アリアさんが五の数字が出た。

「あたしが最初だ!えーっと、八!順調順調!マス目はー『私立大学』に進学するだって。…うーん、学校は嫌な思い出だらけだけどゲームだしいっか。次はくるみちゃんの番ね」

ルーレットをくるりと回した。カラカラと音を立て、最終的に五のマスに止まった。

「おっ『高校入学』かぁ。って、お金あげなきゃいけないのか。はい、二万円」

「ありがとうございます…」

お金の価値は全然わからないけど、アリアさん的には多いほうが何でもできるらしい。それと、『億万長者』になれると言っていた。

「次は…2かぁ。ええっと、『車が破損。修理費一万円』…。えっ!そんなぁ。お金がどんどん減ってくんだけど」

「……ふふっ」

「あー!笑ったな。このこの〜」

アリアさんがふざけたように私の肩をつついてきた。一瞬驚いた。でも、そんなことを忘れてしまうほど楽しい。

「楽しいでしょ?」

「たのしいです」

「でしょ〜!さっ、ゴールまで突っ走ろう!」

_夢みたいだな。『私』が誰かと話したり遊んだりするなんてね。今のミタリアが見たら驚くかな。


 「…で、怪我人を連れ回したと」

「うぐっ。ごめーん」

「はぁ。まあ、水樹さんよりはマシか。…君もこういう奴のことは放っといていいから。ただでさえ水樹さんの命令で病院に行けないんだから、安静にしてること」

「わかりました」

アリアさんと共にソファに座りながらそらさんの話を聞いていると、コンコンと扉の叩く音がした。

「あっ!やば。ステラさんのことすっかり忘れてた。そら、今すぐこれ読んで!」

「あっ、おい!」

アリアさんはステラさんから預かってた封筒を、そらさんが受け取るまもなく顔の前に押し付けた。

「ステラさんからの!多分仕事内容!」

「はいはい」

そらさんは、封筒を開けることなくカウンター席に置いた。

「…?見なくて良いんですか?」

「ん、まあね。だいたい内容は読めちゃんだよね。君は早く寝な」

「いや、その必要はない。_くるみに指名が入った」

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