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ざんばらら  作者: 秦江湖
8/19

誰かが殺した

学校は大騒ぎになった。

由佳に続いて奈美も殺されていた。

しかもバラバラにされて……

いつから私達の上にいたのかわからない。

マスコミが殺到する中、私達はくれぐれも取材には答えないようにと先生に言われて帰された。

学校は休校。

さっそく夕方のニュースでは大事件として扱われていた。

食欲もなく、気分が滅入っていたアタシは学校から帰って部屋に篭ったままだった。

ベッドに入って体を丸めていると、ドアがノックされた。

「沙耶、晴海君が来たわよ」

お母さんの声がして「どうする?」と聞いてくる。

晴海、下にいるんだ。

私はベッドから起き上がると、ドアを開けてお母さんに晴海を家に入れるように言った。

下の方から晴海がお母さんに挨拶する声が聞こえて、階段を上がってくる足音がした。

コンコン。

「どうぞ」

ノックされる音に返事をするとガチャッとドアが開いた。

「沙耶」

「まいったよね……」

アタシはわざと、うんざりしたような顔を作って言った。

ベッドの前にある小さなテーブルを挟んで、二人向かい合って座る。

二人とも黙ったまんまだ。

「どうしたの?晴海」

アタシの方から問いかけた。

「うん……いや、沙耶が大丈夫かなって」

「ありがとう。でも、大丈夫ってわけにはいかないよね……あれ見たら」

「そうだよな……」

「まさか、由佳に続いて奈美までもなんて……アタシらが普通に話したり笑ったりしてた教室の上でバラバラにされてたなんてさあ……」

そこまで言うと言葉が続かなかった。

晴海がいるのにもかかわらず、アタシは膝を抱えて顔を伏せた。

「ごめん晴海……せっかく来てくれたのに、こんなになって……」

申し訳なくて晴海に謝る。

「いいよ」

晴海は優しい声で言った。

「なんだろう?アタシって友達二人も死んでるのに涙すら出てこないんだよね……どっかおかしいのかな?薄情なのかな?」

由佳のときは、ニュースや人から聞いただけだったから「殺された」という実感が湧かなかった。

ただ、アタシ達がいるいつもの日々からいきなり消えてしまったという感じで……

お通夜とかあれば別なんだろうけど。

そして今日のはあまりにも突然すぎて、強烈すぎてなにかを感じるとか、そういう余裕すらない。

なんだか二人の死が現実とは思えないから。

「別に涙が出ないからって薄情とかはないよ。俺だって涙が出てこないよ。由佳も奈美も知らない相手じゃない。話したこともあるし、一緒のクラスだったのに」

「でもアタシらは特に仲良かったんだから」

晴海がアタシを気遣ってくれてるのは、とても伝わってきた。

でもアタシと晴海じゃ、殺されたあの二人との距離が全然違う。

言い方は悪いけど、アタシだってろくすっぽ話したこともないクラスメートが死んだって悲しいとか思わないと思う。

驚いたりはするだろうけど、たぶん自分とは関わりのない世界のことみたいに感じてるんだろう。

だけど由佳と奈美は違う。

「やっぱアタシって冷血だわ」

自嘲するように言うと晴海が否定した。

「沙耶はそんなんじゃないよ」

「ありがとう、晴海」

こういう状況で、自分の発した言葉に返事がくるのが安心した。

一人でいるとどんどんやばい方へ落ちていくんだろうな……

みんなどうしてるんだろう?

彩や杏、先輩達は?

一人ぼっちでこの事実を受け止めてるんだろうか?

でも電話やなにかしても、アタシ自身、どういう言葉をかけていいのかわからない。

ただこうして思いを馳せるしかなかった。



次の日もテレビでは、奈美の事件を報道していた。

やっぱりというか、由佳の事件と結びつけているのばかりだ。

画面にはどこから仕入れたのか、由佳と奈美の写真が映っている。

二人とも笑顔で……

でもアタシの一番記憶にあるのは、昨日見た無残な姿だった。

テレビでは「希に見る残虐で猟奇的な事件」と言っている。

改めて、由佳の殺害方法から紹介されてた。

ニュースをちゃんと見てたわけじゃないから由佳の殺害方法については初めて聞く。

ニュースによると由佳は一階の廊下で玄関近くに倒れていたらしい。

鉈のような刃物で正面から一撃、だが由佳は即死には至らずに昏倒する。

そのまま犯人は由佳の体をめちゃくちゃに切りつけた。

生きたまま。

周囲は血だらけで惨たらしい状況だったという。

そのせいか、犯行動機は怨恨の線が濃厚らしい。

また、飼い犬の首なし死体が由佳の遺体の横に並べられていた。

首は二階にある由佳の部屋にあった。

窓が割れていることから、下から犯人が投げ入れたのだろうと警察では言っているらしい。


どういうこと?

これってアタシが見た夢のまんまじゃん?

なんでアタシは今日初めて聞く、由佳の殺害方法を知ってたんだろう?

いや、夢に見たんだろう?

直也先輩の言葉を思い出した。

「寝ている間は記憶なんてない。自覚がなくても犯人ということはあり得る」

アタシ?まさかアタシが?

嫌な汗とともに鼓動がどんどん早くなる。

あの夢……

まだはっきり覚えてる。

「嫌ぁ!!」

思わず頭を抱えて掻きむしった。

嘘、嘘、嘘!!

絶対にあり得ない!!

アタシじゃない!!


ニュースは次に、奈美の事件になった。

伏せていた顔を上げてテレビ画面を見る。

奈美の方は、まだはっきりしたことはわかっていないみたいだ。

わかっているのは殺し方。

金槌とか、鈍器のようなもので頭を殴って昏倒させてから、由佳と同じようにめちゃくちゃにし、今度は切り刻む代わりに叩いたようだ。

いたるところの骨が砕けるまで叩かれているらしい。

そしてバラバラにした。

殺された場所はどこなのか?

どうやって学校の天井裏に、バラバラにした遺体を隠したのか?

まだ明らかになっていなくて、中には、あの天井裏が直接の殺害現場ではないかという説もあるらしい。

理由は夥しい血痕だ。

だとしたら、なんで奈美は学校の天井裏なんかに入ったんだろう?

犯人はなんでそんな場所で殺したんだろう?

わけがわからない。

だいたい由佳の事件だって、いつ誰に見られるか、由佳の親がいつ帰ってくるのかわからないのに、犬まで殺してる。

しかもメッタ斬りにして。

普通は殺したらさっさと逃げるもんじゃないの?

普通の人間なら……

だけど……

普通じゃなかったら?

人間じゃなかったら?

アタシの中に、だんだんとこれは祟りなんじゃないのか?

直也先輩の言うように、神社にいた゛何か゛が誰かにとり憑いて、恐ろしい事件を起こしているのでは?という恐ろしい考えが浮かんだ。

そんなことあるわけない。

すぐに否定する。

でも考え出したら止まらない。

アタシの周りで起きてる変な現象はなんなんだろう?

イヤホンから聞こえた声、天井から聞こえた音、あの夢は、ほんとうに疲れてるだけなんだろうか?

他のみんなにああいう現象は起きていないんだろうか?


わからない。

頭がおかしくなりそうだ。

アタシは何かにとり憑かれたように他のチャンネルのニュースも見てみた。

それこそ日が暮れるまで。

その間、外からは夏の名残りで蝉の声が聞こえてくる。

冷房をかけているのに体は変な汗をかいていた。

杏や彩、敏樹先輩たちはこのニュースを見ているだろうか?

そして、見ていたらどう思うだろう?

みんなの中の誰かが殺したんじゃないか?

もしくは自分なんじゃないか?

そんな恐ろしい妄想に囚われるんじゃないだろうか?

とても嫌な予感がする。

そのうち、どす黒い霧が立ち込めて、隣にいる友達の顔も見えなくなるような。

今日は誰からの連絡も来なかった。

アタシからも連絡しなかった。

みんな一人ぼっち。

誰も殺されてないよね?

無事だよね?


アタシはその日、ずっとテレビを点けっぱなしにしていた。

嫌なニュースが流れるかどうか、それだけが気がかりだった。





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