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ざんばらら  作者: 秦江湖
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這う音

「きゃあっ!!」

悲鳴とともに飛び起きる。

あれ……?

部屋の中は暗く、アタシは制服のままベッドの上にいる。

そっか、頭にきて横になったまま寝てしまったんだ。

で、いきなり悲鳴をあげたと……

なんか怖い夢見たな。

でも内容を思い出せない。

眠気を払うように頭を振ると、立ち上がって部屋の電気を点けた。

時間は夜の八時。

お腹減ったな……もうご飯できてるかと思い部屋を出ると、廊下も階段も真っ暗だった。

物音一つしない家の中。

お父さんはいつも仕事遅いけど、お母さんも帰ってきてないのか……

それにしても、こんな暗かったか?と思うくらい家の中が暗い。

壁にあるスイッチで明かりを点けると蛍光灯がパチッパチッと何度か点滅して点いた。

下に降りるとやっぱり誰もいない。

一人で家にいることはたまにあるけど、なんか今日は気持ち悪いな。

カチッ、カチッ、カチッ、と時計の音だけが妙に大きく聞こえる。

テレビでも観ようかな?そう思ったときだった。



ズッ……


ズズズ……


「えっ!?」

なんか今、変な音が聞こえた。

上からだ。

耳を澄まして、辺りを見回す。

誰もいないリビング。

もしかして、お母さんは家にいて私みたいに寝室でうたた寝しちゃったとかかな?

そう思い、階段を登って二階にある寝室に向かった。

「お母さん?」

声をかけてドアを開けるが、部屋の中は真っ暗で誰もいない。

なんだ……結局、アタシ一人じゃん。

とりあえずお母さんに電話して何時に帰るか聞こう。

部屋に戻ってスマホを手にした。


ズズッ……


ズルズル……


ビクッとして天井を見上げる。

ここは二階だし、この上から聞こえるってことは誰かが天井裏にいるってこと!?

しかもあの音はなんだろう?なにかが這っているような音だ。

ひゅうっと風が私の髪を揺らした。

窓が開いている。

あれ?窓なんて開けてたっけ?

とにかく下に行こう……そして警察に電話だ……


ズル……


もう一度音が聞こえた。

私は天井を見ないようにして部屋から出ると、一階のリビングに行こうとした。

階段を下りた瞬間に、ガチャガチャっと玄関のドアノブを回す音にビックリした。

――由佳は一人で家にいるときに殺された――

そのことを思い出した瞬間、どっと汗が出た。

スマホのダイヤル画面で110を押そうとすると着信があった。

お母さんからだ!

「はい!」

急いででる。

「沙耶、今は家にいる?」

「い、いるけど」

「今家の前にいるからドアを開けてちょうだい。鍵持って出るの忘れたみたいで」

えっ……

玄関の前まで歩くと、横にある下駄箱の上ある小物入れには鈴のついた家の鍵が置いてあった。

「お母さん?」

ドア越しに呼びかけると、お母さんの返事が聞こえた。

念の為にドアスコープをのぞいて確認すると、たしかにお母さんが立っている。

ようやく安心してドアを開けた。

「よかった沙耶がいて」

お母さんは笑いながら両手にスーパーの袋を持っている。

「これ、キッチンに運んでちょうだい」

玄関に袋を置くと、お母さんはドアを閉めた。

「お母さん、二階に誰かいるんだけど」

「えっ」

当然のようにお母さんはびっくりする。

「しかも天井に」

「何言ってるのよ!気持ち悪いこと言わないでよ!」

「だって変な音がしたもん!だから110番しようと思って」

「空き巣が隠れたのかしら……」

お母さんは少し考えてから、二人でアタシの部屋に行った。

アタシはいつでも電話できるように準備して、二人で天井を見上げる。

5分、10分しても物音一つしなかった。

「ほら、静かなもんじゃない」

「うん……」

気のせい……だったのかな?

アタシ達が二階にいるとお父さんが帰ってきた。

事情を説明すると、お父さんはスーツ姿のまま押入れから天井裏を覗いてくれた。

「なんにもいない。沙耶、見てみるか?」

懐中電灯を手渡されて恐る恐る見てみる。

「ほんとだ……誰もいない」

あれ?

誰もいないけど……

なんか濡れてる跡がある……

「お父さん、ちょっと濡れてるんだけど」

「えっ」

またお父さんと入れ替わる。

「ほんとだ。なんか濡れてるな。雨漏りか?今度見てもらうか」

お父さんは喋りながら下りると不安そうなアタシの顔を見て聞いきた。

「沙耶、どうしたんだ?」

「ごめん……由佳のこととかあったし……」

「そうか……そうだったな……」

重い空気が流れる。

「さあ!ご飯にしましょう」

「そうだな」

お母さんが手を叩いて言うとお父さんもうなずき、みんなで下に降りた。

その後、ご飯を食べて、お風呂に入ってから寝るまで天井から変な音は聞こえなかった。

気のせいだったのかな?由佳や奈美のことがあったから必要以上に気にしてて疲れちゃったのかもしれない。

自分でそう納得すると、あとは気にならないものだ。

安心した私はそのまま寝た。



次の日、学校が終わってから杏と彩の三人で敏樹先輩達と会うために学校の側にあるコンビニで待ち合わせした。

昨日の気持ち悪い体験は誰にも言わないことにした。

みんなを不安な気分にさせたくない。

「おっす!」

「待った~?」

アタシ達がコンビニで立ち読みしていると、敏樹先輩と佳祐先輩が来た。

あれ?一人足りない。

「直也先輩は?」

「さあ。なんか今日休んでるんだよな」

アタシが聞くと敏樹先輩が首をかしげて答えた。

「LINEも電話もシカトなんだよな」

佳祐先輩が軽い感じで言う。

連絡が取れないと聞いて、アタシは奈美が行方不明になっていることを連想した。

それは杏も彩も同じだったみたいで、みんな表情を曇らせている。

「でも家に電話したらおばさん出たし、なんか寝てるみたいよ」

「風邪じゃん?」

敏樹先輩と佳祐先輩の話を聞いて安心した。

よかった......

だいたいね、私達の周りにだけ立て続けに事件が起きてたまるかっていうの。

その日は駅側にあるファーストフードのお店に行った。

みんなで普段通りにいろいろ話したりして過ごしたほうがいいと思ったから。

杏も彩もみんなで話しているうちに、昨日よりは元気になったと思う。

ただ、誰も奈美のことは口に出さなかった。


解散したのは夜7時を過ぎていた。

電車に揺られながら窓の外の景色を見る。由佳が死んだばかりで、奈美は行方不明。

なのにアタシ達は……

こんなのでいいのかな?


地元の駅に着いて改札を出ると、後ろから肩を叩かれた。

「よお」

「お、おお...」

晴海だ。

二人で帰り道を歩く。

この前のことがあるから、なんか気まずい。

「沙耶、由佳のこと大丈夫か?」

晴海は前を向いて歩きながら聞いてきた。

「う、うん。ありがとう」

ちらっと晴海の方を見たが、前を向いたままだ。

よし、今言ってしまおう。

「この前は、その、ごめん!」

アタシは夏休みに敏樹先輩のことを言われて怒ったことを謝った。

今考えてみたら、ちょっと言い過ぎた気がする。

「いいよ。気にしてないから」

晴海は笑い交じりに、アタシの方を見て言った。

目が合って、アタシの方も自然と笑がもれる。

「俺の方こそ余計なお世話っていうか、沙耶の彼氏のこと悪く言う気じゃなかったんだ。ちょっと心配だったから……ごめんな」

「もう気にしてないし……晴海は部活?」

「ああ。沙耶は?」

「アタシは杏と彩と先輩達といろいろね……」

「そっか」

「酷い奴とか思った?由佳があんなことになった次の日には普通に遊んでるみたいな……」

「いや。俺は思わないよ。逆にそういうの必要だなって思うから」

「ありがとう」

晴海はいつもこうだ。

口喧嘩はするけど、いつも私に優しい。

「そういえば、奈美はどうかした?学校休んでるみたいじゃん」

「あ、ああ...そうね...なんか風邪みたい。昨日の夜話したから」

「そっか」

大嘘だった。

奈美からは全く返事がこない。

今もどこで何をしてるのか?生きてるのか死んでるかもわからない。

心配してくれる晴海に嘘をついたことが、アタシの中で引っかかった。

でも、これ以上は広めちゃいけない気がして...

なんとなく心苦しかった。

晴海は家の前まで送ってくれた。

「頑張れよ」

「なにが?」

「先輩のことだよ。好きな人とせっかく付き合ったんだから」

「ああ、それね。サンキュー!で、晴海は?誰かいないの?」

「俺はそういうの興味無いから」

「はあ?マジかぁー?」

笑いながら晴海の顔をのぞきこんだ。

「いいんだよ。俺は」

晴海はめんどくさそうに手を払って言う。

「ふうん...あんたけっこう女子から人気あるんだからさ、もったいないって」

「俺は部活で忙しいんだよ。手一杯」

「そっか。まあ、幼馴染みとしては心配なわけよ。心配してくれたお返しだけどね」

「なんだそれ?まあ、ありがとな」

晴美が苦笑いして言うと、アタシも笑った。

「じゃあまたな」

「うん!またね」

手を振る晴海の姿を見て、玄関のドアを閉めた。

「ただいま!」

「おかえり」

お母さんの声がリビングから聞こえる。

家にお母さんがいると安心する。

アタシは自分の部屋に上がるとベッドに横になって、スマホをいじりだした。

由佳の事件のこと、調べてみよう。

あれからニュースでやったかな?

ウェブ上のニュースをいくつか見てみたけど昨日と大して変わらない。

いったい誰が由佳を殺したんだろう?

しかも庭にいた犬までもだよ。

ぱっと思いつくのはストーカーとか変質者。

でも由佳がそういう奴に付きまとわれてたなんて話しは記憶にない。

なんだかあれこれ考えちゃうな......


今日は昨日みたいな気持ち悪いことはなかった。

やっぱ疲れてたんだな。

寝る前に、敏樹先輩と話してまた明日会うことにした。



次の日、学校はいつも通りだった。

普通に授業をして、みんな普通に話したり。

ただ、放課後のホームルームで先生から、由佳の葬儀は遺体が警察から帰ってきてからになると話があった。

それに続いて、奈美が行方不明だと報告があった。

先生は誰か見かけたり連絡がきたらすぐに警察に連絡するように言うと、黒板に警察の電話番号、アドレスを書いた。

教室がざわつく。

アタシはとなりの席にいる晴海の顔をちらっと見た。

晴海は驚いた顔で私を見ている。

机の下でスマホを操作すると晴海にLINEを送った。

沙耶:だまっててごめん!警察に口止めされてた

アタシは晴海にスマホを見るようにジェスチャーする。

晴海はカバンから先生の目を盗んでスマホを取り出すとLINE画面を開いた。

しばらく画面を見てから晴海はこっちを見てうなずくと、スマホをカバンにしまった。



翌日、久しぶりにグループLINEにメッセージがきた。

敏樹先輩からだ。

直也先輩と連絡が取れたので、明日みんなで集まりたいと言ってる。

私は明日特に予定はないからOKしといた。時間を置いてから、杏と彩からもOKの返事がきた。

アタシは敏樹先輩に電話してみた。

「もしもし」

「どうした?」

「直也先輩と連絡取れて良かったじゃん!」

「そうだな...」

「どうしたの?元気ないね」

「なんか様子が変なんだよな」

敏樹先輩の話だと、直也先輩とは直接は会ってないらしい。

向こうから電話がきて話した印象だと、なんかテンパってるというか怖がってるみたいな...

とにかくいつもの直也先輩ではないみたいだと言ってた。

「とにかくみんなに話があるみたいだよ」

「そっか...」

なんの話だろう?



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