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ざんばらら  作者: 秦江湖
3/19

晴海

上機嫌で東京に帰ってきたアタシを待っていたのは手つかずの宿題だった。

まあ、毎年のことなんで対策はちゃんと出来ている。

アタシは家に幼馴染の晴海を宿題を手伝わせるために呼び出した。

藤堂晴海。

アタシの幼馴染で家はすぐ近く。

同じ歳で同じ高校に通っている。

剣道部の主将で背も高く、顔もいいので女子からの人気も高い。

でも、アタシにとっては異性に見れないというかパシリ?

昔からアタシの言うことは聞いてくれるから、困ったときには超助かるんだよね。

晴美はスポーツだけでなく勉強もできるから宿題も毎年やってもらってる。

晴美が家に来たのは呼び出してから30分後だった。

「これお土産」

晴海を部屋に入れると、旅行先で買ったお土産を手渡した。

ご当地キャラか何かのキーホルダー。

「おお。サンキュー」

晴美はキーホルダーを手に取ってみるとバッグにしまった。

「じゃあさっそくだけど宿題手伝ってよ」

「電話でも言ったけど、おまえ毎年それだな」

「しょうがないじゃん。勉強嫌いだし」

「嫌いとかの問題じゃねえよ。俺だって自分のあるんだし」

「まあまあ、あんたは頭いいんだから楽勝でしょ?あとでお昼ご馳走するから」

「それおばさんが作ってくれるんだろ?」

「あたりまえじゃん。アタシの家だし」

「じゃあおまえがご馳走するのって違うんじゃないか?」

「細かいことはいいの。さあ、やるよ!」

アタシは机で、晴美は床に置いたテーブルにテキストとノートを広げて宿題に取り掛かった。

うーん…テキスト見てると頭が痛くなってきたな……

晴海の方をちらっと見ると、黙々とノートに書き込んでいる。

ちょっとこっちは休憩するかな。

下に下りると晴海の分も冷たいお茶を持ってきてあげた。

お茶を飲みながら晴海に話しかけた。

内容は海に行ったことで、変な神社に行ったことも話した。

「でさあ、その神社が意外と雰囲気あるんだけど結局はなんもなかったのよね。ほら」

そう言ってスマホで撮った画像を見せる。

「ついでに戦利品!じゃ~ん!」

アタシは拾ってきた水晶みたいに綺麗な石に、紐をとおしてチョーカーにしたものを見せた。

妙に気に入って、こっちに帰ってからも肌身離さず身につけている。

それを見て晴海は顔をしかめて言った。

「おまえさあ、そういうとこってマジで冷やかしや遊び半分で行かないほうがいいぞ。これ勾玉ってやつだよきっと」

「は?遊び以外で肝試しとかしないじゃん」

「そういう問題じゃなくって、ほんとうに霊がいたらどうするんだよ?」

「キャハハハ!そんなのいるわけないじゃん!晴海ったらウケる~」

アタシが手を叩いて笑うと晴海がため息をついて頭を振った。

「あっ?なにそれ?アタシのこと馬鹿にしてない?」

「してないよ。それより宿題やれよ。なんで俺がやってておまえが休んでるんだよ」

「しょうがないじゃん?アタシ慣れてないし」

アタシは肩をすくめて言うと「でさあ」と話を続けた。

「アタシ、敏樹先輩と付き合うことになったんだよね」

「えっ」

晴海が一瞬、驚いたような顔を向けた。

アタシは以前から敏樹先輩のことを好きだったこと、そして海に行って付き合えたことがいかに嬉しかったかを話した。

「ふうん…… で、その人のことなんで好きになったの?」

「えっ」

「前から好きって言っただろう?」

「ああ!カッコイイから」

「それだけ?」

「うん。それだけ……あっ!あと優しかったよ!」

晴海から言われてアタシは具合悪くなったら優しくしてくれたことも付け加えた。

すると晴海は不機嫌になり、アタシの話を遮るとまた宿題をやるように言った。

なに?なに怒ってるのよ?

こっちも不機嫌になったが、宿題をやってもらっている以上は強く言えない。

なので、無言で不機嫌さをアピールすると机に向かって宿題を再開した。

昼になって、ご飯を食べたあとはまた宿題再開。

そうしてなんとか宿題が片付いたのは夕方近くだった。

帰る晴海を玄関の外まで送ることにした。

まだ明るくて、夕方でも外は暑い。

蝉もけっこう鳴いてて、もうすぐ夏が終わるどころか、まだまだって気がしてくる。

「今日はおつかれー!」

「ああ」

晴海はバッグを肩にかけて返事をしてから少し黙った。

「なに?どうしたの?」

「いや、あのさあ……」

なんか言いたそうな顔。

「なによ?」

「その敏樹先輩って人のことだけど」

「先輩がなによ?」

「あんまいい噂聞かないんだよな」

「は?」

アタシは腰に手を当てて顔をしかめた。

「学校の外ではかなり遊んでるっていうか……特に他校の女子とか何人も付き合ったりしてたって聞いたし」

「で?」

「なかには妊娠したけどシカトされたとか、ほとんどヤリ目的で取っ替え引っ替えだとか」

キレた。

「だからなんなの?そんなの噂じゃん?あんた見たのかよ?」

「だから聞いた話しだって。おまえ騙されたりしてないかって心配したんだよ」

「アタシが騙される?ありえないんですけど。敏樹先輩はそんな人じゃないし」

「そっか。ならいいんだ。悪かったな」

アタシが強く言うと晴海は謝ったけど腹の虫は収まらない。

「人の彼氏の悪口とかサイッテー!」

そう言うと背中を向けて玄関のドアに手をかけた。だけど一旦振り向いて、

「宿題はありがと」

と、まだ家の前に突っ立ってる晴海に一言お礼してから強くドアを閉めて家の中に入った。

なんなの?晴海のやつ!

人がいい気分でいるのに水差すようなこと言ってさ。

しかも噂が根拠?敏樹先輩はそんな人じゃないし。

あいつ、幼馴染のアタシに彼氏ができて自分にはいないから妬んでるんだな。

だからあんなこと言うんだ。

付き合い長いんだから「良かったな」とか「おめでとう」くらい言えないかな?

これだから晴海は。

あー!ムカついた。

こういうときは敏樹先輩に電話でもしようっと!

気持ちを切り替えるとアタシは自分の部屋に戻っていった。



夏休みもいよいよ終わりという日が近づいたある日。家にいると杏からLINEがきた。

なんか話しがあるみたい。

詳しくは電話で言いたいらしいのでアタシは下から飲み物を持ってくると杏に電話した。

なんか長くなりそうな気がしたから。

「どうしたの?」

『うん。ちょっと相談があってさ』

杏の声がちょっと暗い。

「もしかして浩一先輩のこと?」

『うん……』

『やっぱ私の方から諦めたほうがいいかなって最近考えちゃってさ』

「なんでよ?」

『奈美の方が可愛いし、なんかダメっぽいかなって』

「そう?奈美は確かにかわいいけど杏だって大人っぽくて綺麗じゃん」

『ありがとう』

電話の向こうの杏はちょっと自嘲気味に笑った。

『でも、奈美が上手くいったら今までみたいに付き合えるかって……そう思うと私が好きでいたら、奈美だけじゃなくってみんなとも上手くいかなくならないかって不安でさ』

杏ってこんな思いつめるタイプだったんだ。

いつもはこんな感じじゃないのにな……ちょっと驚いた。

「それって、奈美だってそう思ってるかもよ。一緒だって」

アタシはなるべく前向きになるように話した。

『例えば沙耶は、奈美と私だったらどっちを応援する?』

どうしてそういう発想になるかな?

グループ内で同じ人好きになったら、そこは気にしちゃいけないっていうか聞いてはダメでしょ。

「杏、それって他の人に言ったらダメだよ」

アタシは釘を刺した。

ウザがられたら杏のためにもならないし、私らの間に変な空気が流れる。

『ごめん』

「一つ言えるのは――」

アタシは一旦、言葉を区切ってから自分の気持ちを正直に杏に言った。

「もしも奈美がアタシに同じ相談をしてきたら同じように答える。アタシは二人共応援してるから。で、どっちかが上手くいったら同じように゛おめでとう゛って言うし、どっちかがダメだったらとことん付き合って励ますよ」

上手く伝わったかな?

『ありがとう沙耶』

杏の声がちょっとだけど明るくなった気がした。

『ごめんね。私って気になると止まらないタイプでさ…‥なんかいろいろ考えちゃって』

杏が笑いながら言う。

「いいよ。誰だってそうなることあるって」

杏の声が若干明るくなったことに安心したアタシは、持ってきたお茶を一口飲んだ。

『そういえば沙耶って、晴海君のことはなんとも思ってないの?』

「へっ?晴海?」

なんでいきなり晴海が?

『だってカッコイイじゃん?晴海君。女子からも人気あるし、あんな幼馴染いていいなっって思ってたからさ』

「ん~付き合いが長いと異性として見れないっていうか、そうじゃない関係が当たり前っていうのかな」

『そうなんだ。二人でいるときとか見るとけっこうお似合いだから。もったいないなって』

「もう止めてよ杏」

アタシは笑いながら言うと、別の話題を振る。

それからは真面目じゃない、軽い話題をいくつか話して電話を切った。

アタシと晴海がお似合いね~。

考えたこともないや。

それよりも、アタシは敏樹先輩と上手くいったけど、杏と奈美はどうなるんだろう?

そこを考えると少し気が重くなる。

ベッドに寝転がると天井を見て考えた。

一番無難なのは、浩一先輩に彼女ができちゃうことなんだよな。

そうすれば二人共ふられた「仲間」ってことで友達関係は変わらないし……

もちろん友達としたら上手く恋が実って欲しい。

でも、それはどっちかだけが失恋しちゃうんだよな……

こんなこと考えてもなるようにしかならない。

それはわかっているんだけど、いろいろと考えてしまう。

アタシの夏休み終盤は、友達の恋の行方について大いに考えさせられることになった。




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