表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/50

第9話 不意打ちのキス

 南雲さんは面白い。不覚にも、もっといろんな顔を見てみたいと思ってしまった。


 私なりに核心をついたことを言っても良いのかな?


「……私と会いたくて仕方がなかったってことですよね?」


「……」


 結構、勇気を出して言ったのに。南雲さんは黙って、うつむいてしまう。


「……アイドルの曲でさ、『会いたかった』って繰り返す歌あったよね」


 話逸らすんかい! まぁ、妙な空気になるのも嫌なので、今回はスルーしてあげることにする。


「そうですね。それで、私たちは何故、クローゼットを通じて会うことができたと思いますか?」


「うーん。そこなんだよね。本当にわからない。でも何かあるはずだと思うんだよね。何もなくて三莉と出会っているなら、もっと面白いんだけど!」


「……」


 ポジティブで陽気。ふざけているの?と思いそうなところ、彼女は本気で言っているように感じる。


 だけど、この謎の状況を深刻に考えてしまうのは怖かった。明るく話をしてくれるのはありがたいと思った。


「私たちに何か共通点はあるんですかね?」


「その着眼点いいね!」


「そうですか?」


「うん。今のところ、わたしと三莉、性別が同じってことしか共通点がないよね。性格は真逆な気がするし。歳も違うよね」


「……はい。ちなみに南雲さんは、今まで、誰かとクローゼットがつながった経験ってあるんですか?」


「ないよ」


「そうですか。私もないです」


 ヒントが少なすぎて、手探りでしか会話ができない。


「だけどさ、初めて三莉を見た時、なんか既視感があったんだよね」


「えっ?」


 彼女が興味深いことを言った。


「初めて出会った気がしないというか。なんか懐かしさを感じたんだー」


「そうですか。なんでだろう……。私の方は、既視感?みたいなものはなかったんですが」


「まぁ、それよりさ」


 彼女はポケットからスマホを取り出す。


「LINE交換しない?」


「……はい!」


 初めて南雲さんに会った時に私も考えていたことだった。その時はインスタの方が良いかなと思っていたけど、彼女から"LINE“と指定されてしまった今、別な案を提案するのも野暮だと思った。


 南雲さんがLINEのQRコードを出して、私が読み込む形となる。友達とも、いつも交換している手順だ。慣れているはずなのに……あれ。QRコードを読み込むことができず、エラーになってしまった。


「おかしいな」


「変ですね」


 今度は私がQRコードを出す側に回ったけど、駄目だった。他にも、インスタを教えてもらおうとしたり、メールアドレスを言ったりするなど、さまざまな方法を試したけど連絡先交換は上手くいかなかった。


 南雲さんと初めて会った時、お互いに住んでいる場所を伝えることができなかった。まさか、連絡先も交換できないようになっているのだろうか。


 気付いたら時刻は22時55分だった。この前と同じだったら、あと5分で南雲さんとお別れすることになる。


 なんだか切ない雰囲気になった。


「あー。1時間ってあっという間だね!」


「本当に。一瞬にして過ぎますね……」


「……もしさ、わたしたち、このまま二度と会うことができなかったらどうする?」


「えっ……」


 彼女が意味深なことを言う。私はなんとなく、また来週会える予感がしていた。


 そっか。ルールを明確に知っているわけではないから、また会えるという保証はないんだ。


 考えていることが、顔に出ていたからだろうか。


「しょんぼりするなよ!」


 彼女に突っ込まれてしまった。


「だって……」


 なんだか泣きたくなってしまって、彼女から目を逸らす。


「……三莉、握手してくれる?」


「? はい」


 南雲さんが私に向かって、そっと右手を差し出す。


 私は寂しさが込み上げてくるのを堪えて、彼女の手を優しく握った。ひやっとした感触がやけに印象に残った。


「ありがとう」


「……」


「最初の方、グイグイ近寄ってごめんね」


「……」


「もうしないから」


「……」


「なんか、言ってよ」


「……」


「……部屋の隅、まだちょっと汚いね!」


「!!」


 そんなわけはないはずだ。南雲さんと初めて会った次の日、隅から隅まで部屋をきれいにしたはずだった。


 南雲さんの目線の先を追うと、スマホやパソコンの充電器が雑に置かれたエリアがあった。……あれは汚いところに入らないはず!


 こんな別れ間際で、デリカシーがないことを言うなんて……。


 私は抗議のつもりで、彼女の手を離し、軽く睨んだ。


 そんな私の一挙一動をニヤニヤした顔で見ている南雲さん。


「三莉、かわいい!」


 そう言うと、私のほっぺたに顔を近づけて——キスをした。

 一瞬、何が起こったかわからなかった。シャンプーの香りだけが、私を現実に戻してくれる。


「……なななっ」


 何か言いたかった。しかし、次の瞬間、目の前が真っ白に光った。

 えっ。何これ。


 戸惑いの中、次に目を開けたら、南雲さんがいなかった。見慣れた自室に、一人、突っ立っていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ