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第7話 二度と会うことはできないのかな

 お母さんが夜の仕事に出ている時、私は家で一人ぼっちになる。昨日もそうだった。一人、晩ごはんを食べた後、お風呂に入り、歯を磨き、自室で過ごすのがルーティンになっている。


 雛ちゃんに聞いたら、晩ごはんは家族みんなでテレビを見ながら、食べているということだった。食後にはお兄ちゃんとゲームをしたり、おばあちゃんが突然踊り出すのを眺めたりするなど、楽しそうだった。……羨ましかった。安心できる家族に囲まれて生活を送っている雛ちゃんには「幸せ」という言葉が似合う気がした。


 私はお母さんから無視されたり、殴られたりするわけではない。顔を合わせたら、他人行儀のような対応をされるのが辛い時があるだけだった。まるで私のことなんて関心がないような、——あなたと私は違う人間だから、自分の思い通りに自由に生きなさいと言われているような、孤独感があるだけだった。


 だからだろうか。昨日、南雲さんがクローゼットから現れた時、じつはとても嬉しいと感じてしまったのは……。


 最初は、戸惑った。誰かの悪ふざけで、カメラがどこかに隠れているんじゃないかとさえ思った。


 だけど紛れもないリアルだった。一日経って冷静になった今、今日も会えるかなと、期待している自分がいた。


 夜までには部屋を片付けておいて、お風呂上がりにはしっかり髪を乾かそう。寂しい夜を過ごすことがなくなると思うと、ホッとして、なんだか泣きたくなってしまった。





 コンビニで買ったサンドイッチを食べた後、いつもよりも早くお風呂に入った。きれいめのジャージを着て、22時になるのをクローゼットの前で待っていた。だけど時刻がちょうどになっても、何も変化は起こらなかった。昨日は、確かにここから、南雲さんが現れたはずなのに……。


 なんとなく、クローゼットの壁に手をつけてみた。びくともしない。誰かの部屋につながっている感覚がなかった。


 もしかして、昨日だけ特別な日だったのかな。何かの間違いで、クローゼットが勝手につながってしまったのかな。


 ——彼女に、二度と会うことはできないのかな。


 ショックを受ける——ことはしなかった。そういうこともある。私は"期待していなかった"ことにして傷つくことを避けた。


 ぺたんと、その場に座ると、自分が世界で本当に一人ぼっちになってしまったような気がする。


 スマホを持つと、なんとなく「南雲ようか」と検索していた。何かページがヒットするのではないかと思ったからだ。結果はゼロ。何もめぼしいものはヒットしなかった。


 住んでいる場所が伝えられなかったように、お互いの情報が辿れないようになっているのではないか。と、できるだけ、ポジティブに考えた。そもそも南雲さんは本名でSNSをしていないのかもしれない。現に私だって、「Miri」という名前で登録しているのだから……。


 お母さんは今頃何をしているのだろう。お客さんとお酒を飲んでいるのかな。にこにこと愛想を振り撒いている姿は、今は想像したくなかった。


 嫌な思考に染まる前に、私は動画サイトを開き、『アイドガール!』を検索する。こういう時は、お気に入りのアニメを見るに限る。物語の世界に没頭すると、嫌なことは大抵忘れられる。私は目の前のことから意識を逸らすために、気の済むまで、槇原ネイルちゃんの活躍を見守った。





 次の日も、万が一のためにと、準備万端でクローゼットの前に待っていた。しかし、南雲さんが現れることはなかった。


 一日過ぎるごとに、彼女と会えた日が夢のように思えてしまう。相変わらず、私は夜、家に一人ぼっちだった。


 そうしてまた、日曜日の夜がやってくる。その頃には、私も気が抜けていた。


 髪の毛を乾かすのが甘くても、別にいいやと思っていた。ベッドの上でスマホをいじってゴロゴロする。時刻は21時59分。雛ちゃんのインスタを見ていた時、クローゼットの中からゴソゴソと音が聞こえた。


 「えっ」と思う前に、内側から扉が開かれる。ガガガと無機質な音が鳴りながら、中から南雲さんが現れた。私を一瞥するや否や、「髪、濡れてるね?」と優しい嫌味を言った。

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