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第6話 また会えるかな

 私は自室を隅から隅まで見渡した。何か私の不安を解消してくれる手がかりはないかと思ったからだ。


 床に目を凝らすと、一本の長い髪の毛が落ちていた。

 これは南雲さんの髪の毛だ! 私のだったら、もっと短いもん!


 ……そっか。この部屋に女の子が来たことは夢ではないんだ。

 思わず口元がほころんだ。冷静になってみると、さっきまでの時間が嫌なものではないことに気付いた。胸の鼓動も落ち着きを取り戻している。


 拾った髪の毛をゴミ箱に捨てずに、槇原ネイルちゃんの隣に、そっと置いた。証拠として残しておきたいと思ったからだ。私の聖域に物が一つ増えた瞬間だった。


 もう一度だけ、クローゼットの中を見てみた。スカートをはじめとした服がたくさん置いてあるだけだ。人の気配など一切ない。ため息をついて、クローゼットのドアを閉めた。


 そのままベッドに寝転がる。髪の毛は乾いていて、時間が経っていることがわかる。


 スマホをいじると、左上の画面には「23:10」と表示されていた。たしか、通販サイトを見ていた時、22時になる前だった。もう1時間経っていたんだ。


 何か関係あるのかな。もしかして、1時間だけクローゼットが繋がるルールがあったりして……?

 いやいや。考えすぎかな。


 また、南雲さんに会うことができるかな。……それは、わからない。

 けど、何が起こっても良いように自分の部屋はいつでもきれいにしておこうと心に誓った。

 それに、髪もきちんと乾かそう……。





 次の日の学校は、案の定、寝不足気味で登校することになった。岸ちゃんには出会い頭から「顔色悪いね」と言われてしまった。


 雛ちゃんは、いつもの調子で「昨日、ハンバーグ作ったら焦げちゃって、家の中が臭くなっちゃったんだ〜」と話してくれた。岸ちゃんは、すかさず「換気扇回すの忘れたでしょ」と突っ込んでいた。


 二人にも、昨日あったことは内緒にしておくつもりだった。そもそも信じるわけがない。クローゼットから見知らぬ女の子が出て来たことなんて……。


 多分、岸ちゃんからは「……大丈夫?」と冷ややかなツッコミが入るはずだろう。


 雛ちゃんからは「わ〜。私の家と三莉ちゃんのクローゼットもつながると良いね〜」というようなことが返ってくるはずだ。


 それに私は大事なことは誰にも言わずに、自分の中に秘めておきたいタイプだった。誰かに言ってしまうと、あらゆる角度から物事を見られて、素敵な思い出が嫌な記憶に変わってしまう危険性がある。


 授業中、ノートを取りながら、私は昨日の出来事を何度か振り返ることになった。南雲さんがクローゼットから現れた場面は、まるで奇跡そのものだった。ノートの端に「南雲」と書いては、消しゴムで消した。


 学校から帰った後、私は急いで部屋の掃除に取り掛かった。とにかく床に物を置かないことを意識。まずは紙クズなどの誰が見てもわかるゴミから捨てることにした。


「三莉、帰ってたのね。……って何してるの?」


 お母さんが、半開きになったドアから自室を覗いてきた。家に帰ってきた時、静かだったから、寝ているかと思っていた。 


 だけど、メイクは完璧。今日は真紅の口紅が塗られているのを知って、目を逸らした。


「……ちょっと掃除!」


「へぇ。珍しいのね。あぁ、掃除機、使っても良いのよ」


 そう言うと、お母さんはドアの前からふらっと消えた。私は焦って、後を追う。


「何?」


「あっ、えっと……」


「あぁ、今日の晩ごはんのことね。悪いけど、自分で買ってきてくれない? テーブルにお金は置いて行くから。今日はいつもよりも、早めに家出ないといけないの」


「あっ、うん。わかった……」


 お母さんが背を向けた時、香水の匂いが鼻についた。今まで嗅いだことのない柔らかく甘い香りがした。


 私のお母さんは夜の仕事をしている。シングルマザーで女手一つで私を育ててくれた。学校から帰ると、こうして顔を合わせることがあるけど、そっけない。これがお母さんの性格だというなら、何も言えないけど、最近は、さらに距離ができたように感じる。その理由を私は知っていた。


 お母さんは最近、彼氏ができた。声が高く機嫌が良いのに、目が合ったと思ったら、すぐに逸らされる。夜中に誰かと電話している声も聞いた。「大好き」というようなことも言っていた。

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