12-10 ロイズ家の来訪
視線の先で、アリーシアは。
「…わあ、綺麗!真珠の髪飾りがあるわ!」
ドレッサーの引き出しを開けると――そこには、セレスティンから贈られた、真珠のバレッタが入っていた。
「やだ、これ『サロン・ド・ルージュ』の新作じゃない!素敵!」
言いながら早速髪に着けようとするアリーシアの手から、ティーが慌ててバレッタを抜き取った。
「ちょっと、何するの!?」
「これは、セレン様から頂いた、大切な髪飾りです…!どなたにも差し上げることは出来ません!」
胸にバレッタを握り締め、ティーはいつになく強い瞳で、アリーシアを見つめ返す。
そんなティーにアリーシアは一瞬怯んだ様子だったが、すぐに。
「セレン様から頂いた、ですって?…ふぅん、とうとう白状したわね」
言うなりアリーシアは――ティーの頬を力いっぱい、叩きつけた。
ティーが床に倒れ込むと、アリーシアはさらにその身体を蹴り飛ばす。
「あんたみたいな薄汚い使用人に、セレン様が髪飾りなんて贈るはずないじゃない!どうせこれも、セレン様をだまして買わせたんでしょう!」
「違…っ!」
必死に起き上がろうとするティーだが、今度はアリーシアに身体を踏みつけられた。
「さあ、早く髪飾りを寄越しなさい!それは私のものよ!」
固いヒールが皮膚に食い込み、ティーは堪らず手を離してしまった。零れ落ちたバレッタを拾い上げ、アリーシアは満足げに髪に差す。
「ほら、私の髪色にぴったりじゃない!お母様もそう思うでしょう!?」
「ええ!良く似合っているわ。みすぼらしい誰かさんとは大違い」
薄笑いの2人に見下ろされながら、ティーには最早起き上がる気力すら残っていなかった。
そんなティーを横目に、エレノアがゆっくりと立ち上がる。
「いくら高価なドレスやアクセサリーで飾り立てたところで、貴女は所詮、下賤な使用人。身の程を知りなさい」
言いながら徐に手に取ったのは、裁縫箱の中の裁ち鋏。
コツ、コツと靴音を響かせながらティーに近付き、エレノアは空いている手で、ティーの長い髪を乱暴に掴む。
「こんな汚らしい灰色の髪に宝石なんて、滑稽だこと」
この頃は頻繁に現れていたあの不思議な輝きも、今はすっかり鳴りを潜めてしまっていた。痛みに顔を歪ませるティーを見て、アリーシアもくすくすと笑いを零す。
エレノアはさらに、ティーの髪を力任せに引っ張り上げた。
「さあ、お仕置きよ。恨むなら、愚かな自分を恨みなさい」
恐怖で見開かれたティーの双眸に、不気味に歪んだ口許が映り込み。
――ザシュッ…!
次の瞬間、エレノアは勢いよく、鋏を振り下ろした。




