12-8 ロイズ家の来訪
「あんた、私のセレン様をだまして、高価なものを強請っていたの!?この3か月間、ずっと…!?」
「違います!!」
ティーの必死の叫びにも、エレノアとアリーシアは聞く耳など持たない。
「浅ましいこと。どうせこの部屋も、ここにあるものも全部、セレン様をだまして手に入れたんでしょう」
「なんて卑しい女なの!…でも、あんたの悪企みももう終わりよ。私が婚約者になったからにはね」
憎々し気にティーを睨め付けてから、アリーシアはもう一度、可愛らしい部屋を一望し。
「…決めた。私、今日からこの部屋で暮らすわ!こんなお姫様みたいなお部屋、花嫁の私にぴったりじゃない!」
「まぁ、アリーったら…いくらなんでも、気が早過ぎるわ」
弾ける笑顔ではしゃぐアリーシアに、エレノアはくすりと笑みを零してから。
「でも、そうね…今夜一晩過ごすには、悪くないかしらね。召使いも付いていることだし」
エレノアがにやりと口元を歪め――ティーはその冷たい笑みに、ぞくりと身を震わせた。
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その頃、アンヌはティーたちの姿を探して、屋敷中を走り回っていた。
(離れの部屋に行った形跡はないし…一体どこに消えてしまったの?)
これまで何十、何百という客人を相手にしてきたアンヌだが、今回ばかりはその思考が全く読み取れない。
セレスティンと同様、アンヌもあの母娘の態度は気になっていた。ティーのことをあからさまに見下している――というより、ティーをこき使うことに、異様に執着している、と言った方がいいだろうか。
あの時、セレスティンから目配せをされずとも、アンヌは自分の意志で3人の後を追いかけていたことだろう。
(…考えても仕方ないわ。こうなったら手あたり次第、探しましょう)
口をキュッと堅く結び、アンヌは元来た廊下を、本館へと駆けて行った。
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「熱っ!こんなの飲んだら火傷しちゃうじゃない!!」
「…っ!」
淹れたての紅茶を、アリーシアがティーに浴びせかける。
「私が猫舌だって知ってるくせに、わざと熱い紅茶を出したのね!」
「アリーシアに紅茶を出す時はきちんと冷ましてからって、あれほど言ったでしょう。ほんと、覚えが悪いんだから」
紅茶がかかったティーの左頬から首筋にかけてが、ヒリヒリと赤く腫れてきていた。




