12-7 ロイズ家の来訪
「…もしかするとあのドレス、セレン様に買っていただいたのかもしれないわ」
「えっ…!?」
アリーシアは弾かれた様に、エレノアの横顔を見上げて。
「どういうこと?なんでセレン様が、ティーなんかに優しくするの!?ティーはただの使用人でしょう…!?」
混乱した様子のアリーシアとは対照的に、エレノアは冷静な眼差しで、ティーの後ろ姿を見据え。
「…ちょっと、確かめてみましょうか」
ここでエレノアは、不意に足を止めて。
「お待ちなさい、ティー」
そう言って、口の端に笑みを覗かせるエレノアと、母に並んで立ち止まり、きょとんと瞬きするアリーシア。
その声にティーも振り返ると、エレノアは不敵な笑みを深めながら。
「離れは後でいいわ。先に、貴女の部屋に案内しなさい。」
「私の…?あの、それはどういう…」
戸惑うティーに、エレノアは間髪入れず。
「主に口ごたえするものじゃないわ。いいから、早く連れていきなさい」
「…かしこまりました」
元は舞台女優だったエレノアはすらりと長身で、高いヒールが更にそれを際立たせる。高圧的な瞳で見下ろされ、ティーは黙って従うほかなかった。
ティーの部屋に入るなり、アリーシアもエレノアも、揃って口をぽかんと開けて。
「ちょっと、何よこれ…!あんた、こんな贅沢なお部屋を使わせてもらってるの…!?」
驚愕の表情で、アリーシアが振り返る。
その隣でエレノアは、あからさまに溜息を吐いた。
「やっぱり、そんな事だろうと思ったわ。…貴女、セレン様のお世話をするふりをして、裏で色目使ってたんでしょう。とんだ泥棒猫ね」
「いいえ、私は、そんな…!」
力いっぱい首を振って否定するティー。エレノアの傍らでは、アリーシアが怪訝そうに首を傾げながら。
「どういうこと?お母様」
「…この女は、貴女の代わりにここに送られたことを利用したのよ。セレン様に近付いて、色仕掛けで取り入ったんだわ」
「何ですって…!?」
一瞬言葉を失った後、アリーシアは目の前のティーをキッと睨み付けた。




