2-3 エレノアたちの謀略
「何だって…!?」
アリーシアの言葉に、ロイズ伯爵も、ちょうど玄関ロビーに到着した客人たちも、驚いてティーを見上げる。
「…っち、違…!私は、突き落としてなんて…!」
信じられないような言いがかりに、ティーは頭が真っ白になりながらも、必死に否定しようとするが。
「ティー…!あなた、自分に精霊色がないからって、アリーに嫉妬したのね!私の可愛いアリーの命を狙うなんて…!!」
アリーシアを抱き締めながら、涙を浮かべたエレノアが鋭い目でティーを睨み付ける。
父親や、大勢の貴族たちから向けられる疑惑の眼。ティーは震えながら首を横に振るしか出来ない。
「…ティー、お前には失望した。精霊色を持たないだけでロイズ家の恥晒しだが、その上心まで醜い娘だったとは」
ロイズ伯爵はそう言って頭を抱えてから、憎悪に満ちた眼差しでティーを睨み上げた。
そして、来賓たちに見せつけるように、大仰にティーを指差すと。
「今を限りにお前は、ロイズ家の人間ではない!我が愛する家族はエレノアと、アリーシアだけだ!お前は今すぐ、この家から出ていけ!」
父にそう言い放たれた瞬間。目の前が真っ暗になり、頭の先から手足の末端まで、全身の血が凍りついていく。
足に力が入らず、手摺にもたれかかる。そんな中、アリーシアが怒れる父の腕に縋りついた。
「お父さま、お待ちください!ここを追い出されたら、お姉さまはどこへ行くのですか?」
するとロイズ伯爵はがらりと表情を変えて、そんなアリーシアの頭を優しく撫でる。
「アリーシア、あれはもうお前の姉ではない。お前が気にしてやることは無いのだよ」
「でも、お家がないなんて、あまりにも可哀そうです…!」
目を潤ませるアリーシアに、エレノアも。
「あなた、では、こうするのはいかがでしょう?ティーとは家族の縁を切るけれど、使用人として置いてやるの。…そして、ロイズ家の大切なアリーを傷つけたことを、一生かけて償わせる、というのは?」
「なるほど。そういう事なら…」
ロイズ伯爵は納得顔で頷き、再びアリーシアの頭を撫でた。
「アリー、お前は本当に優しい子だ。分かったよ、ティーを追い出すことはもうしない」
そしてティーの方に顔を戻すと。
「ティー、本当なら今すぐ地下牢にぶち込んでやりたいところだが、聞いての通りだ。お前はこれから使用人として、アリーとロイズ家のために身を粉にして働け。アリーの優しさに感謝するんだな」
それから、ロイズ伯爵が呼びつけた侍従たちに、ティーは連行された。そんなティーを、アリーシアはロイズ伯爵の影から、薄笑いを浮かべて見上げていたのだった――
使用人の男2人に両腕を抱えられ、ティーは屋根裏の薄汚れた部屋に投げ込まれる。
華やかな宴の裏で、ティーが持っていたものは全て取り上げられた。子供部屋も、ドレスも、アクセサリーも、母の形見の品まで全て。
ティーに与えられたのは、この屋根裏部屋と、粗末なメイド服が一着だけ。
こうしてこの時から、ロイズ家の下僕のように扱われる日々が始まったのであった。