12-4 ロイズ家の来訪
「ちょっとティー、お茶が冷めちゃったわ。新しいのを注いでちょうだい」
「…かしこまりました」
夕食会が始まるなり、エレノアもアリーシアもこうしてちょっとしたことでティーを呼びつけるので、ティーは終始、2人の傍に付いていなければならなかった。
「アリーシア様、お給仕は私たち侍女がやりますので…」
カップとティーポットを回収するティーの後ろから、ノエラがそう声を掛けてくれる。ダイニングにはアンヌを筆頭に、クライン家の侍女たちも控えているのだが、アリーシアは不機嫌そうに目を細め。
「ティーは私の使用人よ。何を頼もうと私の自由じゃない。ねぇ、お母様?」
「ええ、その通りね。…ティー、このお肉味が薄いわ。料理人に言ってソースをかけてきてちょうだい」
「あっ、じゃあ私も!」
「かしこまりました」
何故かティーにばかり命令する2人に、侍女たちは怪訝そうに目配せしあうのだった。
エレノアとアリーシアから戻された肉料理の皿を盆に乗せ、厨房に向かうティー。ジョゼフの料理は、素材の旨みを活かした上品な味付けが特長なのだが…案の定、ジョゼフは額に青筋を浮かべながら、仕方なくソースを作り始めた。
ティーも紅茶を淹れなおしながら小さく肩を竦め、こっそり溜息を吐く。
こうして、コース料理が一通り振舞われた頃には、話題はリリー・プログラムでの一件に移っており。
「…そこで私は、その『コーネリス』とかいう公爵令嬢が一枚噛んでいると推測したのです。そうでなければうちの優秀なアリーが、不合格にされるわけがない」
「ほほう。それは大変でしたな」
セルジオはそう言って頷いたが、セレスティンは胡散臭そうに視線を逸らした。
(オルレアン公爵家が、何故わざわざそんな小細工を…何の根拠もない話だ)
ロイズ伯爵は、そんなセレスティンの胸の内に気付く様子もなく――突然、身を乗り出してセルジオの手を取ったかと思えば。
「辺境伯殿。私は心を決めました。我がロイズ家の宝…アリーシア託せるのは、このクライン家をおいて他はないと。ですからどうか、娘の不名誉を晴らしてやっていただきたい」
今度ばかりはセレスティンだけでなく、セルジオも目を丸くしてロイズ伯爵を見つめた。
(…成程。今になって一家総出で乗り込んで来た理由は、これか)
ようやく、ロイズ家の魂胆が見えてきた。
自身の力ではアリーシアを助けられないと判断した伯爵は、アリーシアをセレスティンに嫁がせることで、クライン家の力を得ようと考えたのだ。
王家に次ぐとも言われる辺境伯家の力を以てすれば、オルレアン公爵家にも十分対抗できると。
最も、そのきっかけがアリーシアの一目惚れであることを、セレスティンたちが知る由もないが。




