11-7 アリーシアの心変わり
凛としたその背中を、アリーシアは思わず目で追っていると。
「…はて。クライン辺境伯家のご令息が、何故王宮に」
「えっ…!?」
父の言葉に、アリーシアは弾かれた様に顔を上げる。
「く、クライン辺境伯家って…前に私に縁談を申し込んできた、あの…!?」
「ああ、そうだよ…アリーシア、お前、貧血は大丈夫なのかい?」
今しがたの眩暈も脱力感もどこへやら。衝撃の事実に、アリーシアはしっかと床を踏みしめ、セレスティンが歩いていった回廊の先を、じっと見据える。
しかし、そこにはもう、セレスティンの姿はなかった。
「…お父様。私、思い違いをしていたみたい」
「何だって?」
ぽつり、とアリーシアが呟き、ロイズ伯爵が首を傾げる。
(今度こそ見つけたわ。本当に、私を守ってくれる王子様を…!)
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セレスティンが王宮を訪ねたのは、例によってレアンドルから、調査結果の報告を受けるためだった。
部屋に入ると、レアンドルは満面の笑みでセレスティンを迎え入れる。
「やあ、セレン!待ってたよ」
「レアンドル。この度は、ご婚約おめでとう」
開口一番、セレスティンがそう言うと、レアンドルは面食らったように口を噤んだ。
「期待の王太子殿下の婚約者とあらば、さぞ優秀な令嬢なんだろうな」
そう、建国祭の式典では、婚約と同時にレアンドルの立太子も発表され、式典はめでたい事尽くしで幕を降ろした。
王子から晴れて王太子となったレアンドルは、苦笑しながら頭を掻くと。
「…参ったな、ただの政略結婚だよ。王宮が勝手に選んで、勝手に決めただけだ」
「と、言う割には、まんざらでもなさそうな顔をしているが」
セレスティンがにやりと口の端を持ち上げ、レアンドルは苦笑を深める。
「そんなんじゃ無いって。…ただ、話してみると案外面白い子でさ」
「ほう。どんな令嬢なんだ?」
聞かれて、レアンドルは一瞬、思案に暮れると。
「そうだなあ…良く言えば、『研究熱心な文学少女』かな」
「…?」
レアンドルの言葉に、首を傾げるセレスティン。




