2-2 エレノアたちの謀略
それは、ロイズ伯爵とエレノア夫人の結婚パーティーでのこと。伯爵は邸宅に来賓の貴族たちを招き、盛大な祝宴を準備していた。
客人を出迎えるため、ティーも2階の自室から玄関ホールへと階段を降りようとした時。
「お姉さま、お待ちになって」
後ろから声を掛けてきたのは、アリーシアだった。
階段を降りかけたところで、ティーが振り返ると。
「素敵な真珠の髪飾りね。でも、お姉さまの地味な灰色の髪には似合わないわ。きっと私の方が似合うと思うの」
言うなりアリーシアは、ティーがしていた真珠のバレッタに手を伸ばしてきた。
「ダメ…っ、これは、お母様の形見の髪飾りで…!」
髪飾りを取られまいと、ティーは慌ててアリーシアの手を掴む。
その瞬間――アリーシアの口許に、ほんの一瞬、不敵な笑みがよぎった。それを見た途端、ぞくりと背筋が冷たくなったのを、ティーは今でも鮮明に覚えている。
ティーの手を振り払い、アリーシアは。
「…きゃあっ!お姉さま、何を…!」
そう、大声で叫んでから――自ら、目の前の階段に身を投げた。
アリーシアはそのまま、玄関ロビーまで転げ落ちていく。
「アリーシア!!」
一足先に玄関に出ていたロイズ伯爵が、真っ青な顔で駆け寄る。また2階からは、ティーを押しのけるようにしてエレノアが階段を駆け下りていった。
ティーはというと、あまりに突然の出来事に、ただその場で呆然と階下の様子を眺めるしか出来ない。
「大丈夫か、アリーシア!」
「お、お父さま…」
ロイズ伯爵に抱えられ、アリーシアはゆっくりと身体を起こした。
それから、階段の上のティーを振り返り、指差すと。
「お姉さまが…お姉さまが、私を階段から突き落としたんです…!」
恐怖に震える表情で、そう、言い放ったのだ。




