9-7 ティーの変化
ティーの灰色の髪が――輝いている。
艶やかな薄紫を帯びた光沢が、長髪の一本一本から放たれている。それはさらに、陽の光を受けることで虹の七色に移ろうのだ。
自分の髪の変化に気付くなり、ティーも目を丸くして、思わずセレスティンを見やる。セレスティンもティーの隣に屈み込み、その髪色をまじまじと見つめた。
「これは…精霊色、なのか?」
「えっ…?」
セレスティンの言葉に、ティーは驚いて口を開けた後、慌てて首を横に振る。
「まさか…私には、精霊色はありませんから」
ティーがそう言って苦笑するが、その横からエヴル伯爵も。
「…いや、しかしこんな輝きは、精霊色でなければ現れないよ。こんな色味、今まで見たことも無いが…」
セレスティンたちが驚きをもって観察する中、しかしその未知なる輝きは、徐々に薄れてゆき。
しばらくするとティーの髪は、いつもの灰色に戻っていたのだった。
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「…あの、セレン様」
クライン邸へと戻る馬車の中、ティーがおずおずと声を掛ける。セレスティンはハッと顔を上げると。
「…ああ、すまない。何か言ったか?」
「いえ…先ほどから、セレン様がずっと難しいお顔をされていたので」
エヴル伯爵と別れた後、セレスティンたちはミレーを家に送り届けてから、村を出て帰路に着いた。
ミレーは先ほどの一件ですっかりティーに心を許したようで、道中でも生き生きとおしゃべりしていた。そんなミレーを降ろしてからというものの、セレスティンはずっと押し黙ったまま外の景色を見ているばかりで、心配になって思わず声を掛けてしまったのだ。
「ああ…さっき、君の髪に現れた精霊色の正体が、どうにも気になってな」
「精霊色…あれは、本当に、精霊色だったのでしょうか?」
ティーがそう疑うのも無理はない。普通、精霊色は幼少の頃に発現し、その後死ぬまで輝きを放ち続けるものだ。あの時のティーのようにほんの短い時間現れて、また消えてしまうなんて話は聞いたことがない。
それにエヴル伯爵も、見たことがない色だと言っていた。社交界に長く通じる彼が、それでも目にしたことのない精霊色など、果たして存在するのだろうか。それこそ、アリーシアのダイアモンド・プラチナブロンドほどの稀少な色でもない限り。
 




